第3話この世界での初クエストはりんご屋さんに行くことだった
「ちょっと待ってエド、はやいってば」
力強く、足早に走る小さな少年。エドに手を引っ張られて私は今街道を散策しているところ。見た目的には私が一方的に手を引っ張られているような感じです。駆け足だと身長差があってしんどいです。しかもなんだか動きにくいというか、手や足の距離感が掴めないというか・・・。
だって、この身体、私の身体じゃないんだもん。
今、さらっとすごいこと言いましたよ。ええ言いましたとも。さっきはいきなりのことで慌てちゃったからとにかくこの世界と洋服が違う事に驚いたけど、歩いてた時、街道に面した家の窓ガラスに映った自分の姿を見たときにびっくりして不覚にも目が離せなくなってしまった。女子高生の私は県内でもけっこう有名な女子高に通っていましたので、容子は今みたいなものでは絶対なかったし、出来なかったのよ。栗色のストレートヘアは自毛だから学校の頭髪検査でもスルー(染めたら謹慎処分だった)だったけど、身長は158センチでまぁまぁ普通、体重とかはもちろん秘密!でも、50キロはないもん!それだけは言わせてもらうわ。
それが今、私の姿はスタイルや顔立ちはさほど変わらなかいのだけど、こっちの世界に来て変わってしまったらしい。髪の毛は肩より少し下だったけどもっと長くなってた。今はまとめても腰の上まであるくらい。でも、そんなことよりも一番ビックリしたのが髪の毛と瞳の色。大人になるまで無理と思っていたけど、髪の毛は輝く金色、と言うには少し暗いんだけど、暗めの金髪。瞳はカラコン使っていないのに薄く青みがかった瞳。金髪碧眼なんて、かっこいいし見とれてしまった。その上今はメイド服(?)だし、行ったことないけど、人生初のコスプレか、メイド喫茶で働いているみたいな感じ。と勝手に思い込んではしゃいでます。女の子は可愛い洋服がやっぱり好きなのでそんな場合ではないのだけど、なんかテンションあがります!
実際のところは余計なことを考えないで助かってるんだけどね。さっきまで道端でどん底まで落ちて、落ちて、落ちまくったからもう泣いてても仕方ないし、今は一人ぼっちでもないし、とにかくもう少し今私がいる場所の現状を見ながらいろいろ調べてみようと思う。ここには見たこともないものがたくさんあるし、言葉が通じるだけでどれだけ安心できることか。
でもそういえば、心なしか身長が伸びたような・・・。胸も少し小さくなったような・・・。
気のせいかな。って言っても実際には私の体ではないのだけど。実はオチがこの子の体に乗り移った幽霊。とかじゃないよね。死んでないよね。私。・・・
首を左右に振り、またウジウジ考えても仕方ない!とエドからもらったりんごをムシャムシャと頬張る私。食べ歩きなんて、校則の厳しい学校帰りには絶対できなかったし、新鮮でこれもテンション上がる!
実はこの場所もさっきはあまり見ていなかったけど、ほんとに広くて驚きばっかり。地元のショッピングモールなんかよりもいりろなお店があって、建物も見える範囲では本当にいろいろある。よく見てみると露店には見たことがあるような食べ物から、本当に見たことがないものまでいろいろ売られている。文字は読めないけど、見た目が似ているものがいくつかあった。
じゃがいも・ぶどう・レタスと白菜が混ざったようなお野菜?・トマト・りんご・魚・なんか大きなお肉。
(さっきのぶどう、美味しそうだったな。)
大好きなぶどうに似た果物に後ろ髪が引かれてしまう。ぶどう好きとしてはどんな味か検証してみたかったぁ・・・。ここに来て、初めて心から悔やむわ。ぶどうの味が検証できなかったことが。
あと、すれ違う人の中に時折驚くのが
・腰に剣を携えている人。
・ローブのような物をまとっている人。
・鎧を着ている中性の騎士のような人。
子供の頃に見たアニメにホント、よく似ているわね~。ついついすれ違いざまに視線で追ってしまう。たまに視線が合うんだけど、全力でそらして見てないふりしちゃうけど。と考えてると本当に転びそうになってしまう。
「まってまって、・・そんなに引っ張ったら転んじゃうよー!」
(ほんとに、しんどいんだってばー!)
心の中で声無き声で叫ぶ私。
「きららは遅いなぁ。」
振り返って急に止まるエド、いきなり止まるから少しぶつかってしまった。
「ご、ごめん。大人の女の子は、走らないものなの!」
息切れしながら無茶苦茶なことを言ってゆっくり深呼吸。やっと中腰から解放されたわ。
「この先の公園の入口のママがいるんだ!お友達だから連れて行こうと思って!じいちゃんのりんごは美味しいって人気なんだぞ!」
まるで自分のことのようにりんごを自慢するエドは、無邪気に笑ってみせた。きっと本当に家族とりんごが自慢なのだろう。
「お姉ちゃんは、ゆっくり見て歩きたいな?絶対にエドのりんご屋さんにも行くから?ね?」
エドの目線まで腰を落として覗き込むように説得してみる。自分のためにも。エドはうん、とうなずいて下を向いてしまったが、頭を撫でながらヨシヨシとすると元気が戻ってきたようだ。
(落ち込んだり、笑ったり、エドは大変だなぁ。)
「それじゃあ、エド君。お姉ちゃんにお店をいろいろ教えてくれたまえよ?」
「うん!それじゃあ、ねぇ・・・」
あたりをキョロキョロしながら何かを探すエド。なにか面白いお店でもあるのだろうか?可愛らしいところがあるじゃない。
「こっち!!」
また手を握っては走り出すエド。人ごみの中をうまいこと抜けていく。子供はこういうの得意なんだなぁ。
通りの反対側に連れてこられた私は思わず声に出してしまった。
「なんのお店なの?」
ズッスリした雰囲気のダークブラウンを基調にしたお店の中に見えるのは剣とか鎧、弓、などいわゆる【武器】。お店の割に小さな入口には鎧を着た人(?)が2人。大木のようにずっしりと構えている。顔まですっぽりと隠れているので表情はわからない。でも、威圧感がすごい。さっきの可愛い発言は取り消し!
この世界のことは、正直よくわからないけどこれだけは言える。
私たちはぜっっっっっったい、ここが場違い。
メイドと子供が来るお店ではない。そう私の第六感が言っている。今まで感じたことないけど、第六感があるなら入っちゃダメと訴えている。私みたいないろいろ初心者が手を出してはいけない気がする。
「ここは父ちゃんが狩りに行くときに来るいちっばんのお店なんだって!剣とかキラキラでかっこいいんだ!ここに来る人はみんなつよ・・むぅ~!!」
「エド~?、私、今のところ剣はいいかなぁ~。違うお店みたいな~?あ、あっちにいいにおいがするよ!いってみましょ!」
エドが2人の門番のような鎧騎士の方へ、父ちゃんと剣の話をしながら歩いて行ったから私は慌ててエドを後ろから抱き上げてなにか余計なことを言わないように口を塞ぎ人ごみに紛れながら身を隠し、4件くらい隣のお店に向かって移動した。いきなり切りつけられたらたまったものではない。
「離してよきらら!なんで行かないのさー!!」
「だって、・・・いい匂いしたんだからやっぱ行きたくなるじゃない?女の子はキラキラよりも美味しいものが好きなの!」
「嘘だ!父ちゃんが女はキラキラするものが大好きだ!って言ってた!」
(どこの世界に子供にそんな教育する父屋がいるのよ!!)
一瞬本気で怒りを覚えた。けど、今はどうでもいい。
「きららはキラキラすきじゃないな?女の子はキラキラよりも甘い物!」
食いしん坊に思われてしまうかもしれないけど、まさかあの鎧の人が怖い!とは言えないので。誤魔化しちゃいました。
「父ちゃんと買い物する時は入ってるから大丈夫なのに・・・」
ちょっと不服そうなエドにごめんね、といいながらお目当てのお店にたどり着く。
「いらっしゃい!今日最後の追加焼きだよ!出ているだけで売り切れだ!次の販売は3日後になるよ!さー買った買った!!」
ほかの店とは違い華やかな屋台、活気のある声、大きく見慣れたイラストが書かれたテント。女性が多く屋台のまわりはごった返しているこの光景。そしてこの懐かしい匂いはやっぱりあれでしょ。
「ねぇエド?このお店はなぁに?」
この香ばしい香りはきっと焼きたてがある・・・。思わず人だかりの中を隙間を縫って前に行ってしまう。やっとの思いで人ゴミをかき分け、かろうじて顔だけが抜け出し、その姿を見ることができた。
「パンだよ。僕はあんまり食べたことないけど」
あきらかにちょっと嫌そうなのが分かる。パンが嫌いなのかな。それにしても、こんなところにもパンはあるんだぁ。全世界、いや、この場合は異世界共通でパンは美味しそう!形からして食パン、フランスパン、ロールパン、パン・ペイザン、スコーンなどが並んでいる。種類こそないけれど色も形も香りも立派にパンです。
「わぁー!すごいおいしそう!パンって美味しいよね~。ここでもパンに出会えるとは思ってなかったから本当に嬉しい!ほかに種類はないのかなぁ。もう売り切れちゃうんだって!すごいね~。」
相変わらずエドはご立腹。あまりにすごい人気で人が押し寄せてきたため圧力に負け再び街道を歩き出す私たち。エドはパンにはあまり興味がなさそう。でも、美味しそうだったなぁ。
「そんなに怒らないでよー。パンって昔から大好きなの!今度いっしょに食べようね!」
エドはただ頷くだけだった。
朝起きることが苦手だったので私はパン食派だった。なので普通に朝はパン。ってイメージでみんなが普通に食べられるものって思っただけだったけど、エドはパンに対して全く興味を示さなかった。むしろ嫌いそうな雰囲気が漂っていた。
(気まずいなぁ。男の子ってわからないなぁ。小さくても武器が好きなのかなぁ。)
なんだかモヤモヤしながら街道を直進しているとひときわ大きく【賑やか】(騒がしいとも言うわね)なお店の前のきた。
なんか、酒臭い。世間一般的に言うと、【居酒屋】のようだった。中は満員、とまではいかないが、かなり込み合っている。お客の半分以上、いやほとんどが男性だ。ちょこっと入口の隙間から覗いてみると正直入れる気がしない。いや、入る必要がないと思う。
「この間、収穫祭があったから今日はまだみんなお祭りなんだよ。父ちゃんが言ってた。」
エドはまたもや不満そうに入口そばで座り込んでしまった。うーん。これはまずい。機嫌をどんどん損ねている。
「お父さんは、お祭り行かないの?」
「父ちゃんは、ダメだったんだって。」
「ダメ?」
私の問い掛けに、エドは体育座りをして体を小さく丸めていきどんどんいじけモードになっていく。
「雨が多かったでしょ?だから、実がうまくできなくて、数も少ないし。だからダメだったんだって。」
今年は雨が多かったみたいでりんごがうまくできなかった。そして何かのコンテストを【収穫祭】と言っているらしい。おそらくは味や見た目なんかを競うのだろう。エドのパパは今回落選してしまった。だからお酒を飲む暇なく働いている。そして居酒屋にいるのは当選組みってことのようだ。確かに、エドが怒るのはわかる。気がする。本当に自分のりんご園が好きなんだと思った。
でも、このままだとエドの機嫌がなおらない。これでは出会った時と逆になってしまう。しかも、いじめているみたいでなんかやだ。
とにかく、ほかの話題がないかな。私はあたりを見回してみる。
街道の両サイドには屋台が並んでいて、中央付近には時折馬車が往来している。道行く人は様々で少なくともサラリーマンタイプなんて人は誰もいない。ここは本当に私の常識外であることがよくわかる。アクセサリーや洋服、食料品、正直、得体の知れないお肉や魚、居酒屋に武器を売っているお店もあった。エドの機嫌が良くなりそうなもの・・・一瞬、恐れ多くも武器屋に戻ることが頭に浮かんだけど、それだけは今認めたくないので却下!途方にくれながら子供が好きそうなお店を探してみる。そんな時に遠くから歩いてくる珍しいものを見つけた。
「エド!!あれ見て!すごいかっこいいよ!!」
私たちが歩いてきた方向。遠くの方から5人組みの誰が見ても【一般人じゃない】オーラ全開の人が歩いている。道行く人と時々何か話しているのか、ここではよくわからない。
「なんにもいないじゃないか」
ちらっと顔を上げて周りを見てみるけど、何も見つからないエド。そりゃそーでしょ。あなたの視線は大人の膝上くらいなんだから。また丸まりそうだったので強引に引っ張って起こしてみる。
「ほら、あっちよ!私たちが歩いてきた方。見えない?」
人が多くごった返して見えにくいのか、エドは体を左右に揺らしながら探している。
(一応、興味は持ってくれたみたい。)
後ろからその姿を見ているとさながらメトロノームのように体を揺らして、動いて背伸びしてジャンプして、子供らしさが戻ったように見えた。と、その動きが一瞬とまりこっちを見てニヤっと笑ったように見えた。
「あれは王宮騎士のフラン様だよ!すっごく強くて、お城でも偉いんだ!!フランさまー!!」
フラン様。と呼ばれた人のところに走っていくエド。
見た感じは中肉中背の私と変わらないくらいか少し年上の20歳位の男性。別にそんな変わったところは見当たらない。まぁ、私よりも明るい金色の髪に、腰には剣が1本。騎士様って感じなのかな?でも、武器マニア(今この場で勝手に命名)のエドがあれだけ元気になって興奮するんだからきっと有名で強いのだろう。
話している内容は分からないが、ここで見ていてエドは興奮気味になにか話していて、最後に頭をクシャクシャっとしてもらうと元気いっぱいに帰ってきた。まだ興奮が収まらないようで頭を撫でてもらったと自慢していた。その行動は結構目立っていて、当然、私はフラン様の視界に入ったようでこちらを見ていたからここは簡単にお辞儀をすることにした。あまり変に目をつけられたくはなかったし、他にどうしていいのかわからなかったのもある。
「ちょっとまってくれ」
エドを連れて彼の母親がいるりんご屋台に向かおうとした時だった。
振り向くとお約束通りフラン様御一行がこちらに足を向けていた。まさか、エドが失礼なことでも?私が挙動不審で怪しい?お辞儀だけでは打ち首!?
「こんな街中で偶然会えたのにいきなり行っちゃうなんて、寂しいじゃないですか。今日はこんなところまでお買い物ですか?珍しいですね。何を買いに来たのですか?」
どーしよー!!と頭の中グルグルだった私に彼は思いがけない言葉を発した。私のことを知っている?ようだった。話しかけたその笑顔にも過去に私はこの人と接点があり、彼からは久しぶり、と言わんばかりの雰囲気があった。
「お久しぶりですフラン様。今日は買い物に来たのですが、この少年と話していたら私としたことが買う物を忘れてしまって。このあと少年の母親がいる屋台まで送ってあげようと思っていたところなんです。」
再びお辞儀をして、ちょっとした愛想笑いをしてみる。どうしてこのような状態なのかさっぱりわからない。
(この人とどんな関係だったのよー私は!!)
心の中で叫びながら私は続けた。
「フラン様こそ、このようなところまでわざわざいかがされたのですか?」
知っている限り精一杯自然な感じになるように努力してみた!でも、フラン様、及び後ろの方は少し驚いたような顔でこちらを見ていた。
(え、ダメ?打ち首?なんなの!?変なリアクションやめてよー!!)
心臓がバクバクいっている。平静を装っているけど、正直気が気ではない。
「いかがされましたか?フラン様?私、なにか失礼を申し上げてしまったでしょうか?」
正直不安になってしまい考えるよりも先に言葉に出てしまった。
一瞬遅れてフラン様からの返事が戻ってきた。
「いや、大丈夫。気にしないで。最近疲れているからボーっとしちゃって。仕事中引き止めて悪かったね。それじゃあまた今度。」
そう言ってフラン様一行は先に進んでいった。その際一番後ろを歩いていた女性が小声で私に言った言葉が
「この間のことはフランも反省しているわ。今度は許してあげてね」
なんことだか本当に検討もつかない。私が返事をする前に女性も手を振っていってしまった。
(この間?なんのこと?)
またよくわからないことができちゃったけど、彼女に向かって小さく手を振りながら、今はこの隣にいる後期心旺盛な小さいのをどうにかしないといけなそうだ。
「きららはなんでフラン様と仲がいいの!?きららも実はお城の人なの!?」
あれはお城ですか?なんて聞いたら不自然だからずっと触れなかったけど、結構離れたところに大きな建物は見えていた。やはり城なのか?あれは王様がいるお城なのか。いよいよ現実世界とはかけ離れてきてしまった。説明とかめんどくさいなー。本当にわからないし、こっちがまだ聞きたいことあるくらいなのに。どうしたらいいのか考えていた結果。
「ぜ~んぶ、秘密。内緒です」
結局説明は面倒だったので逃げました。だって、説明なんかできないもん。
私はクチ元に人差し指を1本立てて【シー】っとエドに向かってやると
「公園が見えてきたから、はやくエドのお店に行こ!遅いとおいてっちゃうんだから」
といいながらエドをおいて走ってみせた。
エドはなにやらギャーギャー叫んだりしていて、さっきまでのいじけた素振りからは考えられないくらいに元気よく私を追いかけてきた。
私もなんだか少しづつ、この世界に慣れてきたような感じがした。今はまだ、この世界のことを楽しもう。
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