第2話小さな救世主
「・・・い、」
「お・・・」
「ぉい!」
ビクっと体が動き、遠くから聞こえる声が音か声かすら認識できないほどにまだ私の意識は朦朧とし思考回路もぼんやりしていた、ただ、今理解できている事は一つ、私は突然誰かに肩を掴まれて意識を取り戻し目を開けた。そして辺りはまぶしい位の光が降り注いでいる。あたりは騒々しかった。
人の声、動物の声、乗り物の音、ありとあらゆる生活音が聞こえてくる。
「邪魔だよ、はやくどいてくれ」
とても長く感じられるほど一瞬、ほんの2秒もないだろう。ボーっと目の前の景色、空を見ていて私はハッと意識を取り戻し、お怒り中であろう声の主がいる後ろを振り返り謝ろうとしたが言葉が出なかった。私の肩を掴んだ中年すぎ、多分50歳手前くらいの男性は私と目が合うと少し苛立ったように振り返りぶつぶつ何か言いながらすぐさま馬車に乗って私の横を過ぎていった。
あいた口がふさがらない。とはこのことだ。
先ほどの男性。アラビアの商人、アラジンと魔法のランプに出てくる商人のような服装でダボダボのローブ?のようなものを来ていてひょろっとした感じの人だった。いきなり背後にそんな格好でいられたら驚くでしょ。普通。
自分の身に危険がなかったのと、落ち着いてきて怒ってた人が過ぎ去った安心感からか、途端に笑いがこみ上げてくる。
(何今の?だっさ。コスプレか何か?あんなかっこちょーださ・・・)
思いながらも周りを見てみると知らない景色に、知らない人、知らない生き物??が私の周りを右往左往と行き交っている。
素直に言おう。今の状況が解らない。
(んーと、んーと)
その場にしゃがみこみ頭を抱えながら最後に何があったのかを一生懸命思い出す。記憶がないとか、情けな。たしかつい最近にもこんなことがあったような・・・
「あ!」
大きな声を発して立ち上がると周囲の人が驚いたような顔をして私を見る。恥ずかしくなった私はとりあえず道端に移動し、そこから見える景色を見ながらぼんやり考えることにした。
(昨日なんか飲ませれたなぁ、ハル・・・なんとか。私、病院のベッドの上じゃなかったのかなぁ。まさか、ケガが治る魔法の豆でも食べてたりして)
くだらなくて一瞬笑ってしまうが、これは多分夢じゃない。さっき掴まれて痛かったし。ふと掴まれていた自分の肩を見てみる。
「ん?」
また自分にとって理解しがたいものがある。白いふわふわ。
「ふわふわ?フリル?」
その下には青、いや水色?に緑が混ざったようななんとも言い表せない生地も見える。
お腹、両腕、お尻、脚元まで今まで特に気しなかったけど、着ているものに見覚えがない!
膝下くらいの丈があるスカート、いやスカート?というよりもメイド服のようだ。上下繋がっているし。メイド服とも少し違うような気もするけど、両肩のフリルと、前もお腹のあたりから汚れないようにエプロンがある。こちらも小さなフリル付きで。
(使用人さん?メイドさん?(多分意味は同じだよね)コスプレ?なにここ?)
身体は痛くないし、なんか変なとこにいるし、着ているもの変だし、本当に意味がわからない。壁にもたれながら崩れるようにその場にしゃがみこむ。頭を抱えることもなく、ただ目の前にある地面を見つめてボーっとしてしまう。
「どこなんだろ。ここ。ママ、パパ・・・」
なにか言いかけたのだけど、これ以上何も言えなかった。言いかけたことも覚えてはいなかったし、物忘れのようにモヤモヤして余計に不安になり、苛立ってくる。
急に寂しくなり、不安になり、イライラして泣けてくる。我慢したけど、頬っぺたから涙がこぼれていくのがわかった。なんか悔しい。肩を揺らして静かに泣く私。そんな私の前にふと人影が目の前に現れる。
挿絵(By みてみん)
「なんで泣いているの?」
4歳くらいだろうか。緑色と真っ赤なにか丸っこいボールみたいな物を持った男の子だった。
よく転ぶのか、膝に穴があいている。来ているものも少し汚れていて、溢れるばかりの元気さがよくわかる。
「お姉ちゃん、誰かにいじめられたの?」
少年?は心配そうな顔で私を見つめてくる。言葉が見つからない私は黙って下を向いてしまう。
恥ずかしくて、情けなくて、辛くて、もう限界だった。どうしていいかわからなかった。
「だいじょぶ。」
やっと振り絞った言葉がだいじょぶ、とは。でも、こんな小さな子に気を使わせてしまった。とにかく気持ちを落ち付かせて続けて話した。
「ちょっと、歩き疲れて、そしたら、お腹減ったの。」
なんか子供みたいな言い訳だけど、この子に心配をかけさせたくなかった。優しい子だなぁ。と思って、その優しさがすごく嬉しくて、すごく辛くて、あたたかかった。涙を拭って、私は笑顔を取り戻していた。
この子にもらった優しさで。さっきのおっさんよりもよっぽどかっこよくて紳士的だわ。
「休憩してるんだぁ。そしたら、僕も一緒にいていい?一人ぼっちは寂しくて」
言うなりこの子は私の隣に恥ずかしそうに笑いながら腰を落とした。
周りから見たら奇妙な絵だと思う。メイド服の女の子と、子供。接点が考えられない。
「一つあげるよ。お腹減ってるんでしょ?ママが、友達と半分こだって言ってたし」
赤と緑の丸いものを差し出してきた。さっきは涙目だったからあまり見えなかったけど、りんご?のような果物である、と思いたい。この際ここまで来たらよくわからないし、食べ物がもらえるのはありがたい。
「お姉ちゃんはどっちが好き?僕はどっちでもいいよ?」
「ありがとう。私もどっちでも平気だよ?甘くて好きなのはどっち?」
と身振り手振りで小さい子をあやす様に話しかけると男の子は楽しそうに、
「僕は緑の方が好き!だって皮も甘くて美味しいんだもん!」
と誇らしげに笑った男の子はなんか懐かしいような感じがする。
「じゃあ、お姉さんは赤い方貰ってもいい?」
「うん!」
右手に持った赤い果実?を私に差し出してくれる男の子。初めて見る物。果実?いや、だってこの子食べてるし。とにかく食べれそうだ。珍しそうに見ている私をよそに勢いよくかぶりつく男の子。
「ありがとう。・・・ぼくのお名前は?」
「エフォ」
エフォ?りんご、らしきものを皮ごとまるかじりして、満足そうなその男の子は名乗った。
「エフォ?」
とにかく聞き返してみたが、男の子は首を横に振りもはや青りんごにしか見えない物を飲み込むと
「エ・ド」
と口を大きく開けて言った。
「あぁ。ごめんね、上手く聞こえないんだもん」
頷きながら失笑してしまう。私もエプロン?の裾で拭いてからひとかじり。うん。甘い。そしてりんごだ。これは。・・・すこし柔らかい感じもするけど。
「お姉ちゃんの名前は?どこかのお屋敷で働いてるの?すっごい綺麗な洋服だね!」
エドは私の服を見ながら珍しそうに話しかけてきた。確かに、見渡す限りこの通りに私と同じような格好をした人は見当たらない。
「私は、きらら。よろしくね、エドくん。これありがとう!とっても嬉しいし、美味しいね。」
「当たり前さ!それは僕の爺ちゃんが作ってるリンゴだからね!今日一緒に市場に売りに来て途中で落ちちゃったからママくれたんだ。」
あ、やっぱりこれりんごなんだ。柔らかいのは落としちゃったからかな。と目線を目の前の赤いりんごに向ける。
「エドくんはりんご屋さんだね~。私は、迷子だしなぁ。どこで働いているんだろ。働いていたのかな・・・」
りんごを見たままボーっとしているとエドはなにか察したのか、すくっと立ち上がった。
「散歩しようよ!歩いてたら何か思い出すかもしれないよ?おねえちゃんのおうち探そうよ!」
そう言って私の手を引っ張って来る。逆光で眩しい。小さな男の子がとても頼もしく思えてなんだか笑えてきた。
「うん、お散歩しようか!」
さっきの絶望はどこへやら。エドのおかげでちょっと元気になった私はお尻を軽くパンパンとはたいて砂埃を落とすとエドと手をつないで道の人ごみの中、小さな紳士にエスコートされながらゆっくりとこの世界を歩き出した。
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