異世界3姉妹の日常的冒険物語

き・そ・あ

第1話 1-0 始まりの終わり

 気がついたら、私は病院のベッドの上だった。

 正直、何があったのか今思い出せない。

 目を開けたら真っ白な壁、天井に囲まれるお世辞にも大きいとは言えない部屋。目線の横にあるテーブルの上にはまだ生き生きとした花が飾られている。あたりは真っ暗なのだろうか。カーテン越しには外から陽射しが入る気配がない。部屋にあるただ一つの扉の向こうからは足音や話し声が聞こえるので大勢の人がいるように感じる。女性の声が多いので看護婦さんだろうか。

 ふと、自分の体が動かないことに気が付く。

 いや、正確には【動かすと激痛でどうしようもない】と言ったほうが正しいと思う。

 自分が置かれている状況が一切分からない。体が痛い、病院、夜?。う~ん。と頭を悩ませているとその人はやってきた。


 ガチャ。


 扉の開く音がしたので自然と視線が動く。幸いにもベッドで横になっていても相手の姿が確認できるところに扉があるので、相手の姿はよくわかった。

 病院の先生?と一瞬思ったがスーツ姿の若い男性は私が起きていることに気がつくなり満面の笑顔で近づいてきた。

「やぁ、目が覚めたみたいでよかった。どこか調子が悪いところはあるかい?」

 彼はくったくのない笑顔で話しかけてきた。少なくとも病院で寝ているのだからおそらく調子が悪いのだろう。察して欲しい。いや、この場合はそれを込みで教えて欲しい。今の状況を。まず、あなたが誰なのかを。

 私が頭で考え金魚のように口をパクパクし若干混乱しているのを悟ったのか、いざ言葉をなにか言いかけた次の瞬間に私の言葉を遮るように彼は言った。

「そういえば、いつ起きたのかな?さっき?もしさっきならきっと今どうして病院にいるかわからないと思うけど、なにか覚えてる?」

 私は少しだけ首を横に振った。

「そうだよね。」

 男性は少し困ったような表情を浮かべたように見えたが私の顔を見てすぐにまた笑顔を取り戻し続けて言った。

「僕は東上警察署の刑事の松木。こうみえてもまだ25歳なんだよー?今はある事件について捜査しているんだけど、その途中で君を見つけて保護したんだ。ここは警察病院。君を見つけてから5日も経過してて、さっきまで僕の嫁さんがいたんだけど、そのときはまだ寝てたのかな?」

 私はうなずいて返事をした。

「そうか。」

 刑事。松木さんの表情がまた曇った。

 とりあえずここはやっぱり病院だったわけで、私はこの人に助けてもらった。

「ありがとうございます。助けていただいて。まだよく思い出せなくて。ごめんなさい。」

 上手く言葉にできなくて、とぎれとぎれになってしまったけど、一応感謝の言葉は伝えておく。

「目が覚めたばかりで、頭もボーっとするし、なんか体中が重くて・・・。」

 私は天井を見ながらなにか喋ったほうがいいのかな?と思いなんとなく今の現状を話してみた。

「大きな事故だったからね。」

「事故?」

 私がよくわからない。といった顔で聞き返すと松木さんの顔が一瞬険しくなるのを感じた。

 事故、事故。事故・・・。

 私が思い出そうとしている時に松木さんが何か話していたようだが、今はそれどころではない。何があったのか考えないといけないのだから。ただ天井を見たり目を閉じたりしている私を見て返事がなく諦めたのか真月さんはしばらくしたら扉の外に出て行った。

(私が、事故?)

 正直意味不明な言葉であるが自分の中でゆっくりと整理していた。

(私は、きらら。)

 自分の名前は覚えているようだ。

(公立の高校に通う18歳の女子高生。アルバイトは近所のドラッグストア。そーいえば、今日はバイトだったのかな?5日も無断欠勤とか。ありえないでしょ。くびかなぁ。)

 考えていたら少し情けなくなってくる。人生の初仕事をクビで終わるなんて。

(この間家族でお花見に行って、次の連休はおでかけしようって約束したなぁ。)

 少しづつ思い出してきた。連休は私の誕生日が重なっていて、パパに好きなものを何か買ってもらおうと考えてたんだ。


 はぁ。


 心の中で色々と思い出してもモヤモヤしてくるばかりでいいことはないなぁ。と、もう休もうかなと大きめのため息をついた矢先に私の運命は大きく動き始めた。


 ガチャ


 また扉を開く音が聞こえた。てゆーか、いい加減ノックぐらいしたらどうよ。

 と毒付けるくらいの元気は出てきて目も覚めてきた。松木さん。ともう二人。若い女性が二人だった。髪が短い童顔と、美人タイプのお姉さんだった。手にはビニール袋がぶら下がっていて中にはなにか文字が書いてある。

(ハル・・シ・・ン?)

揺れてるし、遠いしビニール越しだしよく読めなかったがなにかカタカナで書いてある。私がビニールを見るのに夢中になっていると不意にそばで松木さんの声がした。

「お待たせ。さっきは急にごめんね」

 さっき?一瞬疑問に思ったがおそらく無視して考えていた頃の話であろうと思い何も聞いていなかったとは言えないのでここは適当に

「大丈夫です、私こそすいません」

 適当に答えるのは女子高生の得意分野ですよ。ここでこんな社交スキルが活かせるとは思わなかった。

「痛み止めと、神経に効く薬です。先生から目が覚めたら飲ませるようにと言われたので持ってきました。飲めますか?」

 幼い顔立ちの髪の短い女性が薬と水を持ってきてくれてベッドのリクライニングを起こしてくれた。

「飲めます。でも、手が痛いので飲ませていただけるとありがたいです。」

「そのくらいお安い御用です。私、妹が欲しかったのでこうゆうのやってみたかったんですよね~。」

 意外と面倒見がいいのか、ひとりワイワイと賑やかな女の人だった。年齢も私に近そうだし、相手が男性よりは楽な気がした。彼女が薬を準備している間に松木さんが私に言ったことがある。

「あれからなにか思い出したかい?」

 私はさっき思い出していたこと、自分の名前など身近なことを彼に伝えた。正直それ以外思いだした事がなく、ただ素直にそのまま伝えた。

 松木さんは一通り私の話を聞くと美人なお姉さん一瞬見てから私に申し訳なさそうに話し始めた。そうこうしているうちにお薬の準備が出来て私は新しくできた仮の姉に飲ませてもらった後だった。もうひとりの美人なお姉さんは部屋から出ていったようだ。いきなりの来客と薬の副作用で少し眠い。

「さっきの薬は睡眠薬なんだ。君がこのあともよく眠れるように。」

 この眠さは睡眠薬なのか。あまり考えることができない。というか考えることがめんどくさい。とりあえずうんうんとだけ頷いておく。意識不明だった人間が目を覚まして発狂・・。なんてことがあるのかな?ゆっくり寝て休めってことなんだろう。

「僕が担当した事故の当事者が君なんだ。」

 ちゃんと聞いているはずなのにだんだん聞こえなくなってくる。意識がなくなるような感じに襲われる。うたた寝的なかんじですな。大嫌いな数学の授業を思い出すような・・・。

「明日からは僕は君に面会ができなくなりこの飯田が君の力になってくれる。最後まで面倒を見たかったのだけど、すまない。」

 今ではうなずくことすらできないくらい体が重く意識がない。もう寝そう。

「卑怯なやり方だとは思うけど、意識がなくなる君に説明をすると、・・・君のご両親はもうこの世にはいない。妹さん・・・」

 私はここで完全に意識を失った。パパもママもいない?死んだ?私は問いただす力もなくそのまま眠りについた。

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