EXP16.5

娘「うっ……うぐぅ……っ!?」グワッ


町長「ほうら、こんな簡単な行為でいとも容易く封印などは解けてしまうのだよ。さて、強大な魔力を手に入れた気分はどうかね?」


娘「うっ……はぁ……はぁ……」シュウ……


町長「……ふむ。やはり流石に暴走まではせんか」


娘「とりあえず……」ナミダフキフキ


娘「私は絶対にドラゴンを殺しなんてしません……」


町長「何故だ? 何故そこまであのドラゴンを守ろうとする? あのドラゴンはただの化物じゃぞ?」


娘「ドラゴンさんは……ドラゴンは、友達だから……」


町長「多くの人間を虐殺している魔物を友と呼ぶのか? 魔族の中でも随一の魔力を持つ化物を殺す、千載一遇のチャンスを無に帰すというのか?」


娘「確かに……ドラゴンは恐ろしいのかもしれません。それは認めなきゃいけない……のかもしれない」


町長「だったら何故! わしに従わぬ! わしは間違ったことはしておらん! おぬしも他者と変わらぬ小娘のひとりでしかなかろう! 何故このわしに従わぬのじゃ!」


娘「ドラゴンは恐ろしいのかもしれません……けれど!」


娘「勘違いばかりで貶めようとしたり……」


娘「知らないことが怖くて、魔法を殺人技術呼ばわりしたり……」


娘「何にも知らないのに"殺せ"なんて言ったり……」


娘「平気な顔をしてアップルパイを踏んだり……」




娘「それって、ドラゴンよりずっと。ずっとずぅっと。恐ろしくないですか?」




町長「不老長寿、おぬしも夢じゃろう!? その魔法石が手に入った暁には二人で恩恵を受けようではないか!」


娘「私はそんなものを手に入れようとは思いません」


町長「魔法石の存在は魔法学校の研究の賜物じゃ! 見ている間に世界中にその存在が知らしめられることになる! 奪われる前に奪わねばならぬのじゃ!」


町長「わしが! このわしが世界を導かねば! この町は……愚かな民どもは行く先がわからないまま滅びてゆくのだぞ! 永遠に! 永遠に導く力が必要なのじゃ! この町……いや、この世界には!」ガシッ


娘「きゃっ」


町長「民どもは未来も、真実も見えておらぬ! じゃからこそ、わしが!」ブンブン


娘「誰だって……っ! これから先のことも、ほんとのことも……! わからないですよ! だから皆迷うし、間違うし、勘違いするんです……!」ブンブン


町長「わしなら! わしになら! その先が見通せる! だからわしがみなを導くのじゃ!」ブンッ


娘「……っ!」ガシャーン


娘「……あぁ!もう!やっぱりこれしか……!」ボウッ


ブゥーンッ


『……あー、マイクテス、マイクテス、聞こえる?』


町長「な、なんじゃ!?」


娘「せ、青年さん?」


『……あ、聞こえてるわけか』


『はいはーい! ということで、これが町長の演説の一部始終でーす!』


『キュー!』


町長「ど、どういうことじゃ!」


『今の会話、ほとんどを町中に流させてもらったんだよ。ご自慢の放送機材でな』


娘「……へ?」


『ドラゴンに対する風評被害、娘に対するあからさまな差別、そして何より、民を馬鹿にしているその言動……』


『もう着いてくる人がいるとは思えないねー!』


町長「ぐ……ぐぬぬ……いらぬことを……!」ガシャーンッ


町長「わしに着いてこねば! この町は! 世界は! 路頭に迷うことになる! 誰かが指針を示さねばならぬのだ! わしにはその権利が! 義務がある!」


娘「町長さん。みんな、みんなね。迷いながら先に進んでゆくんだよ……。指針なんてものは、きっと一人一人が持ってるの……」


娘「それぞれの指針に引かれて、ちょっとずつ間違ってるのかもしれないけれど……それでもきっと、私達はちゃんと前に進んでるんだよ」


町長「それでも! それでも、わしはぁ……!」ダダダダッ


バタンッ!


ガシャンガシャン……


町長「ぐぬぅ……」


兵士C「包囲!」


兵長「町長殿、一度拘束させていただく!」


町長「えぇい! うるさい! うるさいうるさいうるさい! こっちに来るな!」


兵士「ちょっ! 町長! そちらは窓で……」


町長「わしは! わしはぁ!!!」ガシャーンッ


フゥワッ


町長「!?」


娘「浮遊魔法、です」


シュルシュル……


兵長「城壁のツタが……巻きついて……」


娘「これは、植物系の魔法の応用」


町長「……どうして……わしを……」


娘「……きっと、私がこうやって魔法を使えるようになったのは町長さんのおかげです」


娘「魔力を抑えた状態でいろんな魔法を使えるようになって、いろんな魔法を制御できるようになったから、今の私があって……」


娘「町長さんのおかげで。そしてドラゴンさんのおかげで、私は今、こうやって普通に生きていられるんだと……思います……」


娘「だから……。だから……」


娘「ありがとう、ございました」


娘「これは私なりの、精一杯のお礼です」


……バシンッ!


町長「ぐふぅっ」


娘「それ、じゃ……」


バタッ


兵長「……お嬢様はベッドにでも連れていってやれ。町長殿は牢屋だ」


兵士群「「「はっ!」」」

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