〈Level16:騙って語ってすれちがいランドスケープ〉
EXP16
娘「答え合わせって……何の……」
町長「全ての答え合わせじゃよ。全部、話してやろう。……じゃから、そこに座っとれ」
娘「……」ガタッ
町長「まずは、昔話から付き合ってもらおうかの」
町長「むかし、むかし……そう。百年以上昔の話じゃ」
町長「この町の近く。そう、あの洞窟にドラゴンが住み着いたのじゃ」
町長「民衆は戸惑った。大いに戸惑った。何せ、ドラゴンじゃ。遥か昔、魔界大戦で多くの人間の命を奪ったと伝えられる、ドラゴンなのじゃから」
娘「でも……あのドラゴンは、ドラゴンさんはそんな、虐殺なんて……!」
町長「うむ。"今は"、そうなのやもしれん。現に最初は戸惑っていたものの、この町の人間は着実にドラゴンと共に生活と文明を築いておった」
娘「だったらなんで今のようなことに……」
町長「わしの、父上じゃよ」
娘「え?」
町長「父上は様々な文献を調べておった…して、あのドラゴンは魔界大戦で虐殺をしたドラゴンそのものだという結論に至ったのじゃ」
町長「いくら現在のあのドラゴンが温厚であるとはいえ、そのような……虐殺を起こすような存在と交流を持つ危険性は図り知れぬであろう?」
町長「故に、城は。この町は、民にドラゴンへの接触を禁じ、伝説や文献を広め、ドラゴンへの恐怖心を植え付けた」
町長「民はしまいにはドラゴンを鎮めるのだ、と生け贄を差し出した。それが父上の狙ったところかどうかは、知るよしもないがの」
娘「差し出したって……ドラゴンさんはそんなの、求めちゃ……」
町長「あぁ、おらんの。わしにだってそれくらいはわかる」
町長「だがしかし、そんなことは問題ではないのじゃ。"ドラゴンに生け贄を捧げる"……この行為が当たり前として民に刷り込まれた。そのことが大事なのじゃよ。その行為はいわば……そう、恐怖の体現なのじゃから」
娘「じゃあ、ドラゴンさんが恐れられてるのって、全部全部この町の……城のせいじゃないですか……」
町長「ふぉっふぉっふぉ。それは違うんだがのう」
娘「何が……何が違うっていうんですか」
町長「父上は様々な文献をこの城に残した。もちろんわしもその数々の文献には目を通しておる。じゃから、これは確信をもって言えるのじゃが……」
町長「ドラゴンは。あのドラゴンは、実際に魔界大戦で虐殺をしておるのじゃ。遥か昔のこととはいえ、民々を皆殺しにしておる。恐ろしいことに変わりはない。
町長「つまり、どこまでいこうと因果応報なのじゃよ」
町長「……故に、城は。わしは、悪くない」
娘「そんなの……そんなのって……」
町長「なにか、わしは間違ったことを言っておるかの?」
娘「……」
町長「では、昔話を続けるかの」
町長「その体制を。ドラゴンを恐れ、生け贄を捧げ続けるこの体制を、わしは受け継いだ。そして、長き時をかけて、ドラゴンの脅威とこの町は近くも遠い、今の距離感を守ってきたのじゃ……」
町長「さて、時は飛んで十数年前のことじゃよ」
町長「とある屋敷に娘が生まれたのじゃ」
娘「それって……」
町長「そう、おぬしのことじゃ。娘よ」
町長「おぬしは普通じゃなかった。人間とは到底思えぬ魔力を持っておった」
町長「ドラゴンの影響か、魔王の仕業か、はたまた女神の悪戯か」
町長「しかし、そのいずれにせよ、その魔力はこの町では脅威でしかなかったのじゃ」
娘「で、でも、今の私には魔力なんて!」
町長「まぁそう焦るでない。話はまだ続くのじゃ」
町長「脅威を野放しにしておく、というのはわしにはできん。……ドラゴン同様、の」
町長「故に、他の町より魔法使いを呼び、秘密裏におぬしの魔力を封印した。……このことを知っておるのは城の人間でも上層部のものだけじゃな」
娘「そんな……そんなこと……っ」
町長「屋敷の人間に監視され、町に出れぬことに疑問を抱いたことはなかったのかの?」
町長「それはおぬしが危険因子だからじゃよ」
町長「両親ともずっと会えず、両親からの手紙も途絶えたことに違和感を覚えなかったかの?」
町長「それは両親を口封じに僻地へ飛ばしたからじゃよ。……何度も町へ戻ろうとするものじゃから、この町への反逆罪で処されたがの。これもまた、秘密裏に、じゃが」
町長「……そもそもおぬしを産んだ両親じゃ。ある意味彼らも危険因子じゃった」
娘「そん……なの……そんなのって……」ポロポロ……
町長「では、昔話はおしまいじゃ」
町長「ここからは"今"についての話をしようかの」
町長「もちろん、そんなおぬしはこの町にとって厄介者じゃった」
町長「おぬしをドラゴンへの生け贄にする案は何度となく出ておった。……ドラゴンへの恐怖心を引き立てる役割を除いても、厄介払いには最適な慣習じゃからの」
町長「しかし、やはりその魔力と封印が厄介じゃった」
町長「もしドラゴンにその封印を解かれ、洗脳されては敵わんしの」
町長「そもそも、上層部の人間のほとんどがその封印の強さには懐疑的じゃった」
町長「その封印をかけた魔法使いより伝えられた封印の解除方法がこのお札一枚を貼るだけじゃったのも災いしたんじゃろう」ペラペラ
町長「……いや、すまぬ。おぬしにとってはそのおかげで生け贄にされず過ごせていたのじゃから、災いではなく、幸運じゃったの」
娘「うっ……ひぐっ……」ポロポロ
町長「……ふむ。わしの話は聞いとるかのう?一回休んでもよいぞ?」
娘「きいっ……てるから……続けて……」ポロポロ
町長「……ふむ。では続けよう」
町長「しかし、そんな不安もいざ知らず、おぬしの封印は何年経てども解ける気配はなかった」
町長「ここ数年の議論はおぬしをドラゴンに差し出すかどうか。そればかりが続いておった」
町長「これに伴い、僻地に飛ばした両親の反対行為が酷くなってきての。おぬしの両親を処したのもこの頃じゃよ」
町長「そもそも僻地に飛ばしたきっかけというのも、おぬしの監視生活に反対したからじゃった。おぬしの両親は意見を曲げぬ、よい人間じゃったよ」
町長「二人を失ったのは実に、そう実に惜しい」
娘「……うぅっ、ひぐっ……自分が……殺した癖にっ……」ポロポロ
町長「仕方あるまい。脅威は脅威。排除するのが人間のためなのじゃよ」
町長「言うなれば、これはドラゴンの生み出した慣習の二次被害じゃ。恨むなればドラゴンを恨むべきだと、わしは思うがの」
娘「そんな……ドラゴンさんは……」ポロポロ
町長「そして、ついにおぬしはドラゴンの元へと生け贄として送られた」
町長「封印が解けねば、ただの娘でしかないからの」
町長「しかし、そこでふたつの誤算が生じたのじゃ」
娘「うぅ……ひぐっ……」ポロポロ
町長「ひとつは、おぬしが魔法使いになったこと」
町長「封印によって魔力が人並みであれども、おぬしの魔法制御の技術は人並みではなかった……。そこが誤算だったのじゃ」
町長「あの小さなドラゴンが町に迷い込んだ騒ぎがあったじゃろう?」
町長「そのときにおぬしを捕らえるか否か、話し合われたんじゃが、ドラゴンを激怒させる危険性と、おぬしから攻撃する意思が見受けられんことから送り返した」
娘「そん……なっ……!」
町長「さて、ここまでの話はいわば前座じゃ。本題はもうひとつの誤算であり、ここからの話なのじゃよ」
町長「あの洞窟……ドラゴンの住み処には多くの魔法石があるらしくてのう」
町長「その中には不老長寿の魔法石がある可能性が高いらしいのじゃよ」
娘「……!もしかして……そのために……」
町長「うむ。……そのためにドラゴンを拘束しておるのじゃ。探さねばならんからの」
町長「しかし、拘束するだけじゃいささか不安要素が残るのも事実」
町長「とはいえ、ドラゴンを殺すだけのものはわしには。この町には、作れぬ」
町長「ただし、たったひとつの例外を除いての」
娘「例……外……?」
町長「そう、いわば数々の誤算が生み出したひとつの奇跡じゃよ」トコ……トコ……
町長「わしのために、とは流石に言わん」
町長「あのドラゴンは、いずれにせよ脅威なのじゃよ。町にとっても、世界にとっても、の」ピラッ
町長「町のために。世界のために」ピラピラ
町長「おぬしがあのドラゴンを殺してはくれんかのう?」
ピトッ
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