〈Level12:日進月歩の足音アットホーム〉

EXP12

ボォォォオオウ……


子ドラゴン「……キュー」


青年「……いいなぁ」


少女「……いいよねぇ」


ドラゴン「こいつら、もう毎週来てないか?」


少女「ここの焚き火はあったかいし、薪の節約になるんだもーん」


青年「紅茶も出るしな」


娘「この茶葉、メイドさんのところに定期的に貰いに行ってるんだよ」チョロチョロ


青年「へぇ、高そうだなぁ」ズズズ


少女「たぶんすっごく高いよ~」ズズズ


子ドラゴン「キュー……」ズズズ


ドラゴン「こいつら馴染みすぎじゃないか?」



少女「ほんとなら女さんも連れてきたいんだけどなー」


青年「あの人、なんだかんだで忙しいからなぁ」


少女「さすが、王宮勤めだよねぇ」


娘「王宮ってそんなにすごいの?」


青年「王宮で薬学の研究がしたければ王宮の人間に気に入ってもらうか、薬学の知識がかなりないと難しい……って言われてるな」


少女「よその人で王宮の薬剤師になれる人ってひとにぎりだし、ほんとすごい人なんだよ。女さん」


青年「少女は最近まで知らなかっただろ」


少女「えへへー」


娘「そんなにすごいんだ……敵わないなぁ」


ドラゴン「何の勝負をしているかわからないが娘の魔法使いとしての実力ももう随一のものになっていると思うぞ」


娘「そんな……私なんてまだまだだよ……」ドゴォズズズ……


少女「娘ちゃんすごい……!自ら魔法で穴を作って埋まってるよ……!」


青年「必要かそれ?」


青年「でもまぁ、俺も店がなけりゃ毎日来るのにな」


少女「そうなったら毎日アップルパイがただで食べられるのになぁ」


子ドラゴン「キュー!キュー!」


青年「俺は薪代の代わりに持ってきてるだけで少女のぶんはおまけだからな」


少女「いけずぅ」


娘「なんだか律儀にありがとうございます」


青年「いいっていいって」


少女「うんうん、気にしないで」


青年「少女は何もしてないだろ」


少女「こう、癒しオーラを振り撒いてるじゃんっ?」


青年「なんだそれ」


少女「三丁目のおばちゃんなんて最近は私目当てでパン屋に通ってるって言ってたよ!」


青年「なんで客なのに勝手に看板娘になろうとしてるんだよ」


男「えらくアットホームだね」


少女「わぁっ!?」


男「そんなに驚かないでほしいなぁ。傷つくだろう?」


少女「いきなり出てくる方が悪いでしょ!」


男「ごめんごめん、職業病かな」


娘「あれ、男さん、どうかしたんですか?」


ドラゴン「ん?娘、知り合いなのか?」


娘「うん。町の人だよ。……あれ?他所の人なんだっけ?」


男「今は町の人でいいよ」


男「ドラゴン、だね。はじめましてになるのかな」


ドラゴン「あぁ、そうだな。はじめまして」


男「……ドラゴンが挨拶する姿ってのは、なんだかシュールだね」


青年「これまたえらく気さくにドラゴンに話しかける変わった人間だな……」


男「まぁまぁ、いろいろあるのさ」


娘「えっと……それで……?」


男「あぁ、そうだそうだ。忘れるところだった。町長から手紙を預かっていてね」


娘「手紙?」


少女「そんな大切そうなものを忘れそうになっていいものなの……?」


男「正直手紙のひとつやふたつ、ボク個人としてはあまり興味がないからね」


少女「よくお城でお仕事できてるね……」


青年「王宮とは大違いなんだな……」


男「まぁそこらは巡り合わせってやつだよ。……きっと、この手紙もね」ピラッ


娘「わぁ、屋敷にいてもお手紙を受けとることなんてなかったしこういうのって初めてかも」


青年「ほんとに箱入りなんだな……」


少女「私も気になるー早く開けよーよー」


男「今開けるのかい?……だったらボクも中身を確認してから帰ることにしようかな」


青年「興味あるんじゃないか……。というか中身を知らないのか?」


男「そりゃあ手紙は手紙だし。書いたのはボクじゃないからね」


娘「じゃあ開けるね……?」


キュランッ……ピュオオオ……シュッ……


青年「なんか魔法で切るといちいちかっこいいな」



『娘殿


隣町の王宮からの提言、貴殿の懸命な弁明活動などを考慮した結果。


今ここで、ドラゴンへの様々な差別的対応を改めるよう努めることに決定した。


そこで、城にてドラゴンやその友人も交えた歓迎パーティを三日後に開催しようと思う。


わかりやすい和解アピールとしてはうってつけなのだ。


パーティに支障のない範囲であれば、町に来ていたあの小さなドラゴン、その他に友人がいるならそのご友人も魔物人間問わず連れてきて構わない。


というわけで、そちらによこした男にパーティへの参加の可否を伝えていただきたい。


私としても全身全霊で歓迎するつもりである。


そなたらと少しでも歩み寄れること、切に願っている。


町長』



男「うわ……帰らなくてよかったな……」


少女「ほんとだね……」


青年「今ここで開けてなかったら怒られてたな」


男「良い仕事をしたね、娘ちゃん」


娘「町長さんって文面だと口調がちょっと違うんですね」


男「真面目になろうとしてなりきれてないって感じだよね。あのおじいさんキャラもなんかのキャラ作りなんじゃない?」


ドラゴン「失礼極まりないな……」


娘「……ということだよ!ドラゴンさん!」


ドラゴン「ドラゴンさんじゃなくて、ドラゴンだ」


娘「あぁ、ごめんごめん」


青年「しかし、なんにも起きないと思っていたが案外頼ってみるもんだな、王宮」


少女「女さんさまさまだね」


男「王宮……って隣町からの手紙のことかい?あれ、キミたちだったのか。町長さん、あれを見て変な表情してたよ」


娘「変な表情?」


男「なんか笑ってるような悩んでるようなよくわかんない表情」


少女「なにそれ、なんだか気持ち悪くない?」


男「ボクの言ってることも大概だけどそこのお嬢さんも中々ひどいよね」


男「まぁ、何にせよ巡り合わせというものの半分は人為的なものだよ。町長さんには町長さんなりの考えがいろいろとあるんじゃないかな?」


男「……どうする?来るのかい?」


娘「私は全然、いいよ。というか……予想以上に理想の展開!」


男「ちょっとできすぎな気もするけどなぁ」


青年「城の人間がそれを言うのか……」


男「ボクはボクであってボク以外の何者でもないし、そもそも城に入ってまだ間もないしね」


青年「ほんとよく城に雇ってもらえたな……」


男「ボクは何者にも……何物にも囚われないのさ……」


少女「ねぇ青年、この人めんどくさいよ」


男「ごめんごめん、続けて続けて。ドラゴンとしてはどうなんだい?」


ドラゴン「……人間の方から歩み寄ろうとしてくれている珍しい機会だ。乗らない手はないんじゃないか?」


青年「仮に何か企まれていても、ドラゴンや娘をどうにかできるとは思えないもんなぁ」


少女「いっそこの二人なら町のひとつやふたつ、焼き払えそうだもんね」


ドラゴン「本当に恐れられるからやめてくれ」


男「……なるほどね」



娘「じゃあ、決まりだね」


ドラゴン「生け贄にはうんざりしてたしな」


子ドラゴン「キュー!キュー!」


娘「うんうん、一緒に行こうね!……やった!」


青年「それって俺も行っていいのか?」


男「いいんじゃない?」


少女「私も私もー?」


男「キミはなんとなくボクが言ってた悪口流しそうだからダメ」


少女「職権乱用だー!」


男「覚えたての言葉を使うもんじゃないよ、お嬢さん」



男「ふむふむ、とりあえずわかったよ。町長には来ると伝えておこう」


少女「忘れないよーにね!」


男「キミは来ないってのも忘れないようにしておくよ」


少女「ドラゴン、まずはあの人を焼いていいよ」


ドラゴン「えっ」


男「冗談冗談。どうせだし来るといいよ。お祭りってのは大人数の方が楽しいだろ?」


少女「わーいわーい!覚えてろよー!」


青年「覚えてろよって……」


娘「楽しみに、してますね」ニコッ


男「うんうん、ところでさ」


娘「……はい?」


男「ボクも紅茶貰って良いかな」


青年「ゆっくりする気かよ」


少女「早く報告してきなよ!」


男「ボクだってサボれるなら仕事は長くサボりたいのさ」


少女「よく今まで生きてこれたね!」


ドラゴン「次から次へとなんなんだこの空間は……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る