〈Level11:感じて絡まる巡り合いマジック〉
EXP11
ボゥゥゥウウウウ……
ドラゴン「……」
娘「……」
子ドラゴン「キュー……」
娘「冬は夏と違って単純な火の魔法で暖かくなれるからいいね」
ドラゴン「ここまでの焚き火……火事にならないのか……?」
娘「あんまり大きな火を維持し続けられるほどの魔力はないし、火事になっても魔法ですぐ消せるしね」
ドラゴン「確かに娘は魔法の制御や習得はすごいのに、魔力自体はそこまで多いわけではないが……」
娘「魔力の量なんてわかるの?」
ドラゴン「俺でも魔力検知くらいはできる」
娘「へぇ……もっと魔力があったらいろんな魔法を一度に使ったり、おっきな魔法も使えるんだけどなぁ」
ドラゴン「基本的には魔法のセンスと魔力量は比例するんだがな」
ドラゴン「……しかし、娘にすごい魔力があれば俺は魔法を教えていなかっただろう。危険極まりないからな」
娘「わーい魔力なくてよかったですー」ボウヨミー
ドラゴン「なぁ、明日俺……」
娘「だめだよ」
ドラゴン「お腹がいたいんだよ……」
娘「明日はお薬屋の女さんが来るからやったね」
ドラゴン「そいつが……嫌なんだよ……」
娘「悪い人じゃないってばぁ。……というか元生け贄らしいからドラゴンも会ったことある人なんでしょ?」
ドラゴン「少なくとも俺が今まで会った人間の中に俺に薬を使おうとしたやつは……」
ドラゴン「……いたかもしれん。もっとも、もう数百年前の話だが」
娘「じゃーいいじゃーん!」
ドラゴン「俺ほどの魔物のための注射を知ってるのか!?そこらの剣と変わらない太さがあるんだぞ!?……それが刺さるんだぞ!?」
娘「飲み薬とかだよ……たぶん」
ドラゴン「もう俺の中の嫌な予感が総動員してるんだよ!」
娘「子供みたいなこと言わないで!」
ドラゴン「子供に言われたくない!」
子ドラゴン「キュー……?」ガクブル
娘「子ドラゴンにはお薬はないよ」
子ドラゴン「キュー……」ホッ
ドラゴン「なぁこれ理不尽じゃないか?」
娘「まぁほら、青年さんがアップルパイとかパンを持ってきてくれるらしいし」
ドラゴン「仮にもドラゴンは魔物の中でも高等な種族だぞ。アップルパイなどで簡単に懐柔できると思うなよ」
子ドラゴン「キュー!キュー!」キラキラパタパタ
ドラゴン「……子ドラゴン以外はな!」
娘「はいはい……というか子ドラゴンちょっと飛べるようになったんだね」
子ドラゴン「キュー!」
娘「それにやっぱりちょっとずつだけど、おおきくなってる」
子ドラゴン「キュー?」
ドラゴン「ドラゴンというものは寿命は長いが、成長スピードは段々と衰えていくものなんだ。子ドラゴンのような幼少期は成長スピードが一番早い時期かもしれないな」
娘「ドラゴンにもこんな時期があったの?」
ドラゴン「もう千年近く前だろうか」
娘「……うぇ。想像できないね」
ドラゴン「きゅー」
娘「殴るよ」
◆
娘「よし、じゃあ寝よっか」
子ドラゴン「キュー……」
ドラゴン「このまま寝ずに語り明かさないか?」
娘「やだよ、眠たいし。明日は元気な状態で遊びたいし」
ドラゴン「寝たら……明日が来るじゃないか……」
娘「何を言ってるの?」
子ドラゴン「キュー?」
ドラゴン「ぐ、ぐぉぉ……!」ダバァァンッ!
娘「ひ、火消しはありがたいけど勢いがすごいよ……」ビチャビチャ
ドラゴン「腹いせだ」
娘「水に流してよ……へっくち」
ドラゴン「娘も濡らしてしまったか、すまん」
娘「うぅ……服は脱いで風の魔法で乾かしておきながら寝るから大丈夫だよ……」
ドラゴン「魔法を使いながら寝れるのか?」
娘「寝るときは寒いから温風魔法で暖まりながら寝てるよ」
ドラゴン「暖炉を使え」
◆
[翌日]
少女「おっきいねー!」
ドラゴン「まぁな」
少女「かたいねー!」カチンカチン
ドラゴン「まぁな」
少女「登っていい?」
ドラゴン「いいが、気をつけてな」
ウンショ,ヨイショ……
少女「わー!なんか竜使いの気分!かっこいい!」
ドラゴン「まぁな」
少女「私がね!!!!」
ドラゴン「えっ」
青年「エンジョイしてるな」
女「ふふっ……青年くんも混ざってきてはいかが?」
青年「流石にあれは……」
娘「怖くないのかなぁ」
青年「あいつは自分の感じたものに素直なやつだからな。あいつが感じる限りでは悪いやつではなさそうだったんじゃないか?」
女「あっ、私もわかるかも。直感だけを信じるならドラゴンは悪い魔物じゃないなってなんとなく思うもの」
青年「直感ねぇ」
娘「なるほど……」
青年「でも女さんってドラゴンの元を離れてこっちの町に来たんだろ?」
女「……えぇ」
女「直感だけを信じるって、難しいことなのよ」
女「……だから、ちょっとだけ、羨ましいかも」ボソッ
青年「……?なんか言った?」
女「ううん、なんでもないわ」
少女「ドラゴンさんドラゴンさん!なんかすごいことできたりするの!?」
ドラゴン「火を吹けるぞ」ボォー
少女「!!すごい!!!!わたしもできるかな!?」フーッフーッ
ドラゴン「練習すればできるんじゃないか?娘はもう火を吹けるだろうしな」
少女「え!?ほんと!?」
娘「吹けません」
子ドラゴン「キュー!」ボワー
少女「わ!そっちのちっちゃい子もすごい!」
子ドラゴン「キュー」テレテレ
◆
青年「よう」
ドラゴン「いつも娘から話を聞いている。アップルパイを作ってくれているのも、アップルパイの作り方を教えてやったのもおまえなんだろう?」
青年「……まぁ」
ドラゴン「恩に着る。これからも仲良くしてやってくれ」サッ
青年「……?」
ドラゴン「握手というやつだ。仲良くなるための文化なのだろう?」
青年「……青年。よろしく」ギュッ
ドラゴン「青年、青年。よし、覚えたぞ」ギュッ
少女「せ、青年ったら……めちゃくちゃ緊張して……口数が……おもしろ……」プークスクス
青年「う、うるせぇ!」
娘「私はあそこまでじゃないけど……普通はああなると思うよ」
女「私もあんな感じだったなぁ」
青年「ほら!少女がおかしいんだよ!」
ドラゴン「確かに、初対面から少女ほど気さくに話してきてきた人間は少ないな」
青年「ほら!!な!?」
少女「私がそれだけ大物ってことだね」フフン
◆
女「おひさしぶりです」ペコリ
ドラゴン「おぉ、ひさしぶりだな。怪我は大丈夫か?」
女「えぇ。もう、三年も経ってますから」
ドラゴン「……そうか。もうそんなになるのか」
娘「怪我?」
女「私、ここに来る途中に獣に襲われてね。そこをドラゴンに助けてもらったの」
ドラゴン「ただ軽く治癒魔法をかけただけだろう。治癒魔法は得意じゃないから止血程度にはなってしまったが」
女「でも私、あのとき逃げ惑っちゃったし……」
ドラゴン「獣に襲われた後に魔物に出くわしたんだ、仕方ない。……最後には睡眠魔法をかけてしまったが」
青年「なんというか、ドラゴンって……」
少女「すごく親切なんだね……」
女「そこまでされても怖くて仕方なかった当時の私が恥ずかしいわ……」
ドラゴン「その恥ずかしさに免じて俺に薬を試すのはやめにしないか?」
女「しません」ニコッ
女「まずこれを飲んでくれる?」
ドラゴン「この水……?をか?」
女「えぇ、そうよ」
ドラゴン「……」
ドラゴン「あの」
女「何?」ニコッ
ドラゴン「……いや、なんでもない」
ドラゴン(拒否したら注射でぶちこまれかねないしな……)
ゴクッゴクッ
ドラゴン「……あぐっ!?」ビリッ……ビリビリッ
女「ちゃんと効くのね。よかったわ。それはね、最近できた対魔物用の毒のひとつよ。魔力を封じるだけでなく、その魔力を使って相手の動きを封じるものなの」
ドラゴン「ぐっ……何を……っ」ビリビリッ
女「あぁ、大丈夫大丈夫。解毒剤を試したいだけだから……先に毒にかかってもらわないと解毒できないし……」
ドラゴン「ちょっ……これっ……解けなかったら……」ビリビリッ
女「大丈夫、ちゃんと調整してあるわ。解毒できなくても持続時間は精々三時間よ」
女「もっとも、そこらの魔物なら半日は動けないでしょうけどね」
女「……よっと」ガシャンッ
ドラゴン「おい……っそれ……っ」ビリビリッ
女「対大魔物用の注射よ。……最初は飲み薬から始めるつもりなんだけど、まず飲めるかしら?」
ドラゴン「飲む……っ意地でも……飲む!」ビリビリッ
オォーゥ!アァーゥ!アァーーッ!!!!
少女「なんというか……御愁傷様だね」パクパク
娘「あそこまで余裕がないドラゴンは初めて見たよ」パクパク
子ドラゴン「キュー……」パクパク
青年「ところでそこのハムパン、新作なんだが……」
ドラゴン「ちょっ……俺も食べ……っ」
女「吐いちゃうかも知れないから終わってから、ね?」ブスッ
ウァーーーーッ!!!!
…………
……
ドラゴン「勇者より……恐ろしい……」パク……パク……
娘「勇者と戦ったことがあるの?」
ドラゴン「……はるか昔の話だ」
青年「ここいらはドラゴン以外に魔物がいないからいいものの、魔物と真っ向から対立している地域も未だに数多くあるからなぁ」
少女「でも魔物と共存している町もあるって聞いたよ?」
青年「まぁ、いろいろあるんだろ」
娘「曲がりなりにも、ここはドラゴンと私が共存してるわけだし……」
少女「ドラゴンと……私たち、だよ!」
娘「そっか……そうだね」フフッ
◆
女「ところでそこの洞窟、魔法石があるんですってね」
ドラゴン「そうだが……どうしてそれを?」
女「北の方の魔法学校が魔装具っていう、魔法をより多くの人が簡易的に扱えるようにする道具を研究していてね」
女「その素材に必要な魔法石を採掘するために様々な地域の魔力量を計ってるらしいのよ」
青年「それで、ここいらの魔力が多かったってことか?」
女「ええ、検知された中にはドラゴンの魔力も多少なりとも紛れ込んではいるでしょうけど……それを補っても余りあるほどの魔力量、と聞いたわ」
ドラゴン「ほほう、そんなにあるのか。それは知らなかった」
少女「魔法石ってなんなのー?」
女「魔力が込められていたり、特有の魔法が込められていたりするものよ」
青年「たまに旅の商人が売ってるやつだな。石ひとつあるだけで魔法が使えない人間にも簡単に魔法が使えたりするんだよ。明かりを灯したりな」
少女「へぇー。便利なんだねぇー。口から火が出せるようになる魔法石もあるのかな?私も欲しいなぁ」
娘「あれに憧れるんだ……」
女「さて、それだけの量の魔法石の発生はあなたの影響なのかしら?」
ドラゴン「……さぁな」パクパク
女「……まぁいいわ。とりあえず、気をつけなさいね」
ドラゴン「おう、いつも気をつけているよ」
娘「気をつけるって……何に?」
女「魔法石がたんまりあるってわかったら、それを狙ってやってくる人間がいるかもしれないでしょう?」
娘「泥棒かぁ……」
女「採掘源はここだけじゃなく、他にも魔法石が豊富な地域はあるわ」
女「だから、他の場所を利用すると思うけれど。どこの人間もドラゴンは敵にしたくないでしょうし」
女「……まるで、守り神みたいね」
少女「とりあえずさぁ……」
青年「どうした?」
少女「話が難しいよ!魔法石が便利なものだってことくらいしかわかんない!」
子ドラゴン「キュー……キュー……」スピー
女「そうね」フフッ
女「辛気くさい話はこのくらいにしましょうか」
ドラゴン「俺は薬を打たれるくらいなら辛気くさい話くらい全然構わないぞ」
女「もう薬はないわよ」
ドラゴン「よっしゃ」ボウゥッ
少女「おーすごい炎ー」パチパチ
娘「子供じゃないんだから……」
◆
少女「そういえば娘ちゃんってあそこに住んでるの?」
娘「え?うん」
青年「なんというか……でかいな……」
娘「最初はあんなじゃなくて、もっとちんまりとした小屋だったんだけどね」
女「中に入ってみてもいいかしら?」
娘「ど、どうぞ」
…………
ギィッ
少女「わ!本がいっぱい!」
娘「あっ……いろいろと出したままだったね」シュンッ
スッ…スッ…スッ…パララララララ……パタンッ…パタンッ…パタンッ……
ヒュー……カコッ……
カコッカコッカコッカコッカコッ……
ギィッ……パタンッ
少女「すごいすごい!本がひとりでに本棚に収まっていく!」
青年「栞もいちいち挟んでるぞ……」
女「これだけの本を同時に……?王宮にも魔法使いはいるけれど……こんな光景は初めて見るわ」
娘「え、えへへ」
娘(そういえば、私が最初に見た魔法も、ドラゴンのこんな魔法だったっけ)ニヤニヤ
……カチャンッカチャンッカチャンッカチャンッ
カチャンッ……チョロロロロ……ボーッ
青年「ひとりでにティーセットが並んでる……」
少女「ティーポットもひとりでに紅茶を淹れてるよ……」
女「ふふっ……まるで見えないお人形さんが召し使いをしているみたいね」
娘「見えない……お人形……」
女「あら、何か気に障ったかしら?」
娘「いえ、なんだかかわいいなって」
少女「いっそのこと町でぬいぐるみとか買ってきて召し使いにしてみたらいいんじゃないかな!」
娘「……かわいいかも」
…………
ドラゴン「俺も中に入るべきだっただろうか」コッソリキキミミー
子ドラゴン「キュー……キュー……」スピー
ドラゴン「……まぁ、いいか」
◆
ワイワイ……ガヤガヤ……
…………
……
…
青年「そろそろ帰らないと、だな」
少女「えーっもうちょっと遊んでたいのにぃ」
子ドラゴン「キューッ!」ボワー
少女「いっえーい!」ハイタッチパシンッ
青年「すげぇ意気投合してんな……」
少女「アップルパイ同盟だよ!」
子ドラゴン「キュー!」
青年「あぁ、そういえばすごく気に入ってくれてるんだってな。ありがとな」ナデナデ
子ドラゴン「キ,キュー」テレッ
女「私もアップルパイ好きだし入っちゃおうかしら、アップルパイ同盟」
青年「女さんはミカンパンの方が好きだろ」
女「……そうね」シュン
ドラゴン「俺が送ってやろうか?」
青年「いや、いいよ」
少女「三人が乗るのは流石にきつそーだしね!」
ドラゴン「そうか……じゃあここで見送ろう」
娘「えっと……それじゃあ、さようなら」
少女「のんのんのん!」
娘「へ?」
少女「さよならじゃなくて、またね!だよ!そっちの方が寂しくない!」
娘「……そっか」
娘「……そうだよね」
…………
娘「またね!」
少女「うん!またね!」
女「それじゃあ、また」
青年「またな」
ドラゴン「また会おう」
…………
……
…
娘「なんというか、"またね"でもやっぱりちょっと寂しいね」
子ドラゴン「キュー……」
ドラゴン「しかし、"またね"、だ。同じような楽しい時間はまたきっと来るのさ」
娘「……そうだね。うん」
ドラゴン「いや、でも俺は同じような時間はちょっと遠慮願いたいかな」
娘「……そうだろうね、うん」
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