〈Level13:小さなセカイの革命パーティ〉

EXP13

娘「どうかな、この服装」クルンクルン


ドラゴン「かわいいと思うが、どうしたんだ?」


娘「やっぱりパーティならドレスかなって。魔法で作ってみたの」


ドラゴン「魔法でそんなことまでできるのか……」


娘「ドレスを作る魔法を昔に絵本で読んだことがあるからできるかなって。いろいろ探してみたんだ」


ドラゴン「絵本で見た魔法……もうめちゃくちゃだな」


娘「今日のために大慌てで夜は大変だったんだよ……?」パタパタ


娘「パーティに間に合ってよかったよ」ホッ


ドラゴン「普通は間に合わないと思うんだがな。ところでその靴は?」


娘「ガラスの靴だよ。これもその絵本にあったんだ。こっちは先に用意できてたんだけどね」


ドラゴン「……痛くないか?」


娘「……痛いね」


ドラゴン「履かない方がいいんじゃないか?」


娘「うーん。なんだかもったいないなぁ」


ドラゴン「何かの試練なのか?ガラスの靴なんて、実用性に欠けているだろう」


娘「ドラゴンはロマンに欠けてるね」


ドラゴン「そこまで言われるのか……」


 ◆


バサッ……バサッ……


娘「こればっかりはいつもドラゴンに頼りきりだなぁ」


ドラゴン「娘は魔力量が少ないんだから、仕方ないだろう」


娘「この距離なら行きのぶんくらいなら大丈夫だと思うし、帰りは自分で飛んでもいいんだけどね」


ドラゴン「まぁ背中に一人や二人……それに一匹くらい乗せても体感はそう変わらないさ」


子ドラゴン「キュー……」


ドラゴン「子ドラゴンはもう少し羽根が成長するといいんだがな」


娘「私も子ドラゴンも成長しなきゃだね」


ドラゴン「そうだな、頑張ってくれ」


娘「空かぁ……ほうきを使うといいのかな?」


ドラゴン「それも絵本の影響か?」


娘「よくわかったね」


バサッ……バサッ……


 ◆


【町、上空】


バサッ……バサッ……


ワイワイガヤガヤ


娘「わぁ、なんだか町の上を飛んでるのって新鮮だね」


ドラゴン「いつもなら、隣町に行こうがこっちに来ようが町の手前で降ろすからな」


娘「だからかな?すっごい騒ぎになってるよ」


ドラゴン「最初はこんなものだろう」


娘「冷静に考えてみると浮遊魔法で飛んでるところを見られるのってなんだか恥ずかしいしドラゴンの背中に乗って正解だったね」


ドラゴン「恥ずかしがる基準がいまいちわからないぞ」


娘「ほら、今なら私は飛んでるドラゴンのおまけ的なポジションなわけだし……」


ドラゴン「扱いの基準が全くわからないぞ」


 ◆


【町、城】


バサッ……バサッ……ドシッ


ワイワイガヤガヤ……


少女「おはよ!わー!娘ちゃんかわいいー!」


娘「おはよう。少女ちゃんもかわいいよ」


青年「よう、確かにかわいいな」


少女「青年が言うとなんだか気持ち悪いね!」


青年「うるせぇ」


少女「子ドラゴンとドラゴンもおはよー!」


ドラゴン「あぁ、おはよう」


子ドラゴン「キュー!」


少女「そういえば女さんは誘ってみたんだけどやっぱり来れないって」


娘「そっかぁ……残念だなぁ」


青年「やっぱり忙しいんだろ」


少女「ドラゴンさんに会いに行くって言ってからも実際に会いに行けるまで結構時間空いちゃってたもんねぇ」


娘「こればっかりは仕方ないですね」


少女「そうそう、むしろこういうときに躊躇わずにお店を閉めてきちゃう青年がおかしいんだよ」


青年「こういうときに閉めないでいつ閉めるんだよ」


少女「サボりたいだけなんじゃないの?」


 ◆


ワイワイガヤガヤ


青年「しかし、それなりに人がいるもんだな」


少女「そうだね。流石お城って感じ」


青年「あはは、なんだそれ」


娘「アップルパイを配ったときは誰一人受け取ってくれなかったのに今日はこんなに……」


青年「アップルパイを配ったからこそ、なんじゃないか?」


少女「……?どういうこと?」


青年「アップルパイを配る娘の姿を見て、何かしら思う人がこんだけいたってことだろ」


ドラゴン「無理を通して、無茶をしたからこそ、得られるものもある。無駄ではなかったってことだな」


少女「わ!わわ!みんなしてなんかそれっぽいこと言ってる!……えーっと、信じれば道は拓けるんだよ!」


青年「スポンジ並の密度しかない言葉だな」


子ドラゴン「キュッ……キュキュッキュキュキュー……」


青年「何を言っているのか全くわからないぞ」


子ドラゴン「キュッ!?」ガーン


娘「えへへ……みんな、みんなみんな。ありがとうございます」


ドラゴン「……」


男「ボクも正直、こんなに人が集まるなんて思ってなかったなぁ」


娘「あっ、男さん。おはようございます」


男「うんうん、おはよう。……といってももうお昼になっちゃいそうだけどね」


少女「娘ちゃんはいきなり男さんが出てきてもびっくりしないんだね……」


町長「ふぉっふぉっふぉ。正直わしもこの人数は意外じゃよ」


娘「あっ、町長さんもおはようございます」


町長「おはよう、おはよう。皆も、そこのドラゴンも、の」


ドラゴン「はじめまして、だな」


町長「そのような挨拶はよいよい。いちいちしていてはキリがあるまいて」


ドラゴン「まぁ、それもそうか」


男「……ふむ」


青年「ちゃんと城で働いてるんだな」


男「失礼だなぁ……まぁいいけどさ」


町長「そういえば娘はアップルパイを配っていたらしいの」


娘「ええ、もう随分前のような、最近のような、不思議な感じですけど」


町長「その節は食べることができなくてすまなかった」


娘「いや、えっと、町長さんは別に……」


町長「ふぉっふぉっふぉ。そうかの」


町長「しかしの、お詫びやお返しといってはなんじゃが、今日はわしからもお手製のアップルパイを用意しておいたのじゃ」


娘「わ、ほんとですか?」


少女「町長お手製……なんだかすごそう!」


青年「おい少女、俺のアップルパイのときより目を輝かせるのはやめろ」


子ドラゴン「キュー!キュキュキュー!」


青年「子ドラゴンまで……」


ドラゴン「……俺はあのアップルパイ、好きだぞ」


青年「……ありがとう」


町長「ふぉっふぉっふぉ。作った身としては期待を寄せてもらえるというのは冥利に尽きるの。ドラゴンにも人間用とは別に、ちょいと大きめのものを用意しておいた。是非とも堪能するとよい」


ドラゴン「今まで人間用のサイズを食べていたからそれは助かるな」


町長「城ゆえに大きな窯があるからこそできる荒業のようなものじゃがの」


少女「え?それってすごくおっきいの?いいないいなー」


青年「小さくてもいっぱい食えばいいだろ」


少女「えーっ。おっきいアップルパイってこう……夢が詰まってるじゃん?ロマンじゃん?」


ドラゴン「ロマンか……少し食べるか?」


少女「うーん……でもパーティだからチキンとかいっぱい食べたいし今日はいいや!ドラゴンさんに悪いしね!」


子ドラゴン「キュー?」


ドラゴン「子ドラゴンは全部食うからダメだ」


子ドラゴン「キュー……」


町長「ふぉっふぉっふぉ……では、娘よ」


娘「はい?」


町長「待っとるぞ」トコトコ


娘「はい……はい?」


 ◆


男「……というわけで、ボクは職務怠慢のように見えてもね?」


青年「町長、城の中に戻ってったぞ」


男「えっ、うわっほんとだ」


町長「おぬしはもう少しゆっくりしとるとええわーい!」


男「わ、これはラッキーだな……ありがとうございまーす!」


少女「遠慮がないんだね……」


男「この世に遠慮して得することなんてあるのかい?」


青年「清々しいな……」


ドラゴン「パーティまであとどれくらいだ?」


娘「うーん……もうちょっとだよ」


子ドラゴン「キュー……」ソワソワ


 ◆


兵長「こいつぁたまげたってもんだよな?お嬢様よ」


娘「げっ」


兵長「"げっ"たぁなんだ"げっ"たぁ。オレぁ別に敵じゃあねぇだろ?」


娘「でも前に会ったときには酷いことを言われたので……」


兵長「あぁ、そうだな。酷いことを言ったかもしれん。でも間違ったこたぁ言ってないつもりだぜ?」


青年「えっと……こちらは?」


男「あぁ、ボクから紹介しよう。兵長さんだよ。この町の兵を束ねてる。まぁ実質ナンバー2だね」


兵長「い、いらっしゃったのですか。しかし、私などが、ナンバー2など……」


男「いないことにされてたって"げっ"って言われるよりひどくないかい?」


男「あと兵長さんはもっと誇っていいんだよ?そもそもナンバー2なんだから、そんなに堅い言葉を使わなくていいんだ。もっとこう、フランクにさぁ」


少女「ナンバー2相手にこんな言葉使いしてるこの人はほっておいてもいいのかな?」


兵長「城に仕える人間には敬意を持つようにしておりますので……」


男「……ま、この通り、頑固というか堅すぎというか。変わり者なんだよ」ヤレヤレ


少女「男さんとは真逆だね!」


兵長「お言葉ですが……」


男「兵長さん、正直ボクに敬意なんてこれっぽっちもないだろ?」


兵長「……」


男「そこは否定してほしかったよ」


 ◆


兵長「あのドラゴンがあそこに住み着いてから……いや、それよりも、もっと昔から」


兵長「ずっとオレたちの間で培われてきた"ドラゴンは"……いや、"魔物は絶対悪"という概念が今、打ち崩されようとしている」


娘「……?」


兵長「実は、それは。……ここから見えているこの光景ってぇのは、すごいことなんじゃないか?」


男「まぁ、常識が一夜にして塗り替えられるわけだからね」


娘「……みんなのおかげですね」


ドラゴン「……」


兵長「まぁ、それでも魔物への恐怖心や猜疑心ってのは長い年月をかけて刷り込まれた"常識"だ」


兵長「だから、正直な話、いまいち飲み込めねぇやつばかりだろうけどな」


男「それは、自分の話かい?」


兵長「……さぁ、どうですかね」


娘「……」


 ◆


カラカラカラ……


ドラゴン「おっ、料理が来たみたいだぞ」


子ドラゴン「キュー!」


男「ふむ。そろそろお時間かな。今日は警護、頼むよ兵長さん」


兵長「了解でございます」ビシッ


スタッスタッ


娘「……あのっ」


兵長「む?」


娘「まだ、私は悪でしょうか?」


兵長「悪?」


娘「前に……兵長さんが言ってたから……」


兵長「あぁ、俺が正義で、お嬢様はわがままだってやつか」


娘「は、はい。それです」


兵長「今も、あんときも、お嬢様は悪かねぇよ」


娘「……え?」


兵長「わがままは、わがままだろう?」スタスタ


娘「……あ、あの!」


兵長「……どうした?」


娘「私はまだ、わがままですか?」


兵長「……」


兵長「あぁ、そうだな」


娘「……」


兵長「……だがな」チラッ


兵長「ここから見えているものを、よく見てみることだ」


娘「えっ」


スタスタ……


娘「それって……?」チラッ


ワイワイガヤガヤ


娘(……)


娘(そんなに悪い人でも……ないのかな……)


 ◆


ガラガラガラッ……


青年「こっちにもいろんな料理が来るなぁ」


少女「チキン!チキン!パーティっぽいよ!」


子ドラゴン「キュー!……キュ?キュ?キュー!」


娘「子ドラゴンは初めて見る食べ物ばっかだね」


子ドラゴン「キュー!」


ガラガラガラッ……


ヒソヒソヒソ……


少女「わわっ、ドラゴンさんのアップルパイすごいよ!」


青年「お、大きいな」


ドラゴン「子ドラゴンほどアップルパイが好きである自信はないが、嬉しいものだな」


子ドラゴン「キ,キュー……」ポカーン


少女「子ドラゴンもリアクションが追いついてないよ……!」


青年「まさに圧巻だな」


娘「ふふっ……こっちの私達のぶんのアップルパイも美味しそうだよ」


少女「わ、ほんと!後でみんなでいっせーのっで食べようね!」


青年「町長のスピーチが終わるまで待つんだぞ」


少女「が、がんばる」


ドラゴン「がんばるとかそういう問題なのか」


ブゥーンッ


『あー、マイクテス、マイクテス、あーあー。ボクの声、聞こえてるー?大丈夫ー?……って確認の取りようがないな……あっ大丈夫?わかったわかった』


…………


娘「これ、子ドラゴンのときの放送と同じ……」


少女「それにしても男さん……」


青年「もうほっておいてやろう」


…………


『それじゃースピーチを始めるよー』


\ヒューヒュー/


『おお、盛り上がってるね。聞こえる聞こえる。それでは町長からのお言葉だよ』


…………


キィーン,ゴツッポツッ


『……ふむ。この放送機材もあまり使うことはないのじゃが、このように使うと便利じゃな。城のどこからでも皆にわしの声を届けることができる』


『見えるかの?今は城の頂上、町長室から皆を見渡しながらスピーチをしておる』


…………


少女「……あっほんとだ」


青年「機材紹介になってるがいいのか?」


…………


『ほっほっほ。長々と喋っておっても料理が冷めるだけじゃ。ここは手短に済まさせてもらおうかの』


『ここから見える景色をわしは今までずっと変わらず眺めてきた。……しかし、今日を境にこの眺めは少し、変わるのじゃ。どう変わるかは……"おぬしたち"次第であり、わし次第でもある』


『皆の見えとる景色、そしてわしが見えとる景色が少しでも広く、よいものになるよう、願っておる』


『……ふむ、ふむふむ。ではわしから言わせていただくとするかの』


『みなのもの……乾杯じゃ』


\ワーワー!/


カキンッ……カキンッ……


ワイワイガヤガヤ


 ◆


少女「よーし、みんな、アップルパイ持ったーっ?」


青年「持ってるんじゃないか?」


子ドラゴン「キュー!キュー!」


娘「そんなに急かさなくても大丈夫だよ、子ドラゴン」


ドラゴン「アップルパイは逃げないからな」


少女「よーし、それじゃあ……」


「「「「いっせーのーっ」」」」


パクッ……



ドゥンッ

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