EXP09.5
…………
娘「うぅ……」
娘「ここは……ベッドですか……あれ?私、ベッドで寝ましたっけ……」
娘(よ……っと)ギィ
パタッ
娘「濡れた……タオル……?一体誰が……」ササッ
ギィッ……
ドラゴン「おう、起きたか」
娘「……!?!?」
ドラゴン「ん?どうした?」
娘「ど、どちら様ですか」
ドラゴン「……あぁ。人間に化けたままだったな、ドラゴンだ」
娘「ドラゴン……さん……」
ドラゴン「そこにあった紙の通りに材料を揃えておいたがこれでいいんだよな?」
娘「だい、じょうぶ……です」ユラッ
ドラゴン「……っと。ほら、肩」ドサッ
娘「……ありがとうございます」
ドラゴン「これくらい、気にするな。ところでこれ、まずはどうしたらいいんだ?」
娘「えっ……と……まずはですね……」
グツグツ……
ドラゴン「もう食べ飽きちゃいるが、匂いはやっぱり旨そうだな」
娘「ドラゴンさんは、私を止めないんですか?」
ドラゴン「ん?」
娘「……私が、ふらふらですから。お屋敷にいたときなんかは、こうなるとメイド達が邪魔だなぁってくらい、無理をするな無理をするなって言ってくるんです」
ドラゴン「俺も言ってやりたいがな。娘は無理をするなって言ってほしいか?」
娘「それは……いえ」
ドラゴン「だろ?というか、そもそも無茶なら最初からしてるじゃないか」
娘「……そうですか?」
ドラゴン「余裕がなくなったりすると敬語が出てるんだよ」
娘「……え?」
ドラゴン「娘は最初から無茶して、無茶し続けて、ここまで来てるんだ」
ドラゴン「俺が娘だったら、誰に止められようが誰に邪魔されようが最後まで無茶してやるだろう。……いや、最後まで無茶したい」
ドラゴン「だから、無茶を止めようとは思わん。無茶であっても無理だとは思っちゃいないからな」
娘「無茶であっても無理だとは思っちゃいない……ですか」
ドラゴン「だから俺は俺なりにできることを手伝ってやるだけさ。こうやってな」
グツグツ……
娘「ドラゴンさんは本当に……面倒見が良いですね」
ドラゴン「おっ、それ久しぶりに聞いた気がするな」
娘「ちなみにその姿、無駄に美化しすぎじゃないですか?」
ドラゴン「別にいいだろ、魔法なんだから」
◆
娘「さて……と」
ドラゴン「最後だな」
娘「……うん。っていうかやっぱりドラゴンはそっちの姿の方が見慣れてていいね」
ドラゴン「そうか?」
娘「うんうん、かっこいいよ」
ドラゴン「……すまない。俺や子ドラゴンのためにそこまで無茶させてしまって」
娘「ううん。ドラゴンや子ドラゴンのためじゃない……いや、ためかもしれないけれど、一番は私がこうしたいからやってるの」
娘「だからきっと、これは私のためでもあるんだよ」
ドラゴン「……だな」ハハッ
娘「むぅ、そこは否定するとこだよ?」
ドラゴン「そうか?」ハッハッハ
娘「そうだよー」ハハハ
ドラゴン「……」
ドラゴン「よし、いってこい」
娘「いってきます」ニコッ
◆
[町、大通り]
娘「あ……アップルパイです!いかがですか!美味しくできてます!自信作です!いかがですか!」
…………
『あら見て、あの子ったら今日もまた……』
『もう、止せばいいのに。誰もあんなもん貰うわけないに決まってる』
『あんなになるまで……ドラゴンに洗脳されてしまってかわいそうな子』
…………
娘「あっ……ぷるっ……ぱいっ!美味しくできて……ますからっ!おひとつ……いかがですか!」
娘(このままじゃ、私は透明人間だ)
…………
『いっつもいつも邪魔なんだよ、どいてくれ』
『ほんと、ここ数日ずっとうるさいわねぇ』
『ほら見てこれ、今朝の新聞。あの子よ』
『"ドラゴンに呪われた娘"、"狂った林檎菓子売り"……良い気味ね』
…………
娘「へ、変な魔法をかけたりなんてしてません!本当です!」
娘(みんな、みんな。私を見ながら、私を蔑みながら、いないものとして扱う。……そんなの、まるで透明人間じゃ……いえ。透明人間以下じゃないですか)
…………
『口ではどうとでも言えるわ。もしもあのパイに魔法や毒が入っていてごらんなさい。町は一夜にして滅ぶわよ』
『パイなんぞいらんから、さっさと消えてくれ』
『噂によるとあの少女、魔法を使えるらしいぜ』
『げっ、そこまで魔物に染められてるのかよ……やっぱりドラゴンってのは恐ろしいもんだぜ』
…………
……
娘(そんな、そんなことないのに……全部全部、勘違いなのに……そう、呪われてるのなんて……そっちじゃない。勘違いってまるで、そう……呪いみたいで……)
…………
娘「あっぷる……アップルパイを……」
ドンッ
バサッバサバサッ
娘「キャッ」
『……チッ』スタスタ
娘(あっ……そっか……怒ることすら、してくれないんだ)
グチャッ
グチャッグチャッ……
娘「あっ……アップルパイ、拾わなきゃ……ふ、踏まないでくださっ……あのっ……」
グチャッ……
グチャッグチャッ……
娘(パイが……次々に……こんな………こんなのって……)
娘(最後が……こんなのって……)
娘「う……うぅ……」ポロポロ
ヒョイッ
娘「あの、それ……」
パクッ
青年「んー、まぁ旨いじゃん」
少女「……どれどれー」パクッ
少女「わ、ほんと!おいしい!そういえば娘ちゃんのアップルパイって初めて食べるね!」ニコニコ
青年「まぁ、うちのアップルパイには負けるけどな」
少女「世界一のアップルパイだって豪語してるもんね」
青年「おうともさ」
娘「な、なな、なん……でぇ、ふっ、ふたりともぉ……ここ、隣町じゃ……な……いのに……」ポロポロ……
少女「ふ……へ!?泣いてるの!?どうしたの!?大丈夫!?」
娘「だいっじょーぶ……だいっ……じょーぶだから……」ポロポロ
青年「……とりあえず、どっか入れるとこでも探そうぜ。どっかあるか?」
娘「入れるところ……なんて……」ポロポロ
娘「……あっ」ポロッ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます