〈Level08:思いを込めてアップルパイレター〉

EXP08

青年「その三角帽子はどうしたんだい?」


娘「魔法使いっぽいかな……って」


カランカラン


少女「うぃーっす……ってあれ!何それ!すっごく魔女っぽい!」アハハ


娘「魔女って……」


青年「魔法使いも魔女も大差ないんじゃない……?」


娘「魔女ってなんかこう……悪者っぽいです」


少女「いっそのこと魔法少女ってのはどうよ?」


娘「どうって……魔法少女を自称するんですか?」


少女「なんかかわいいじゃんっ?っていうかせっかくだしローブもほしいね!」チラッ


青年「ここはパン屋だからな。代わりになりそうなもんなんてないぞ」


少女「ちぇーっ、そうだ!私にもそれ被らせてよ!」


娘「えっ……ちょ……」


ヒョイッ


少女「……」


青年「……」


娘「……」


少女「髪切った?」


娘「……ちょっとだけ」


…………


カポッ


少女「……似合ってるよ」


娘「……ありがとう」



娘「……こほん。ところで、誰かと仲良くなるにはどうしたらいいんでしょうか」


青年「なんだ?人間関係の悩みでも抱えてるのかい?」


娘「なんというか、嫌われてまして」


少女「えーっ、娘ちゃんを嫌うような人がいるの?」


娘「……ちょっとだけ」


青年「……」ジーッ


少女「……」ジーッ


娘「……結構?」


青年「喧嘩なら時間が経てば熱が冷めるもんだよ。相手は一人なの?」


娘「いっぱい……です……」


青年「あちゃー、じゃあもうそういうのは冷めるのを待つしかないかな」


娘「冷める?」


青年「好きってのも嫌いってのも燃料を投下しない限りは時間と共に冷めてくものだよ。だからそっとしておくといい」


少女「えーっ、でもずっと話さないってのも辛くない?」


青年「でも話して辛いだけなら話さない方がいいだろ?」


少女「そんなの逃げだよ!」


青年「うるせぇ」


娘(……逃げ、かぁ)


娘「もしも……逃げないなら、逃げたくないなら、何をしたらいいんでしょうか」


青年「何をするかというより何ができるか、だよなぁ……」


少女「私ならこう、私は敵じゃないよーってアピールするかな?」


娘「アピール?」


少女「こう、いいことを教えてあげたり……自分や好きなものをあげたり……相手が好きそうなものをあげたり?」


青年「そんなので懐柔されるのは少女くらいだろ」


少女「私はこれでも頑固ですよーだっ」


青年「アップルパイ食べ放題の券をやろうか?」


少女「なんなりとお申しつけください!」


青年「やらねーよ」コツンッ


少女「あうっ」


娘「ふふっ」


娘(好きな、もの……)



[洞窟前]


娘「……って言われたんだよねぇ」ムシャムシャ


子ドラゴン「キュー……!」ハムハム


ドラゴン「なるほどな。一理あるんじゃないか?」ガツガツ


娘「確かに、私にはもうなんにも思いつかないし……それもいいかなって思うんだけど、私が好きなものとかピンと来なくて……」ムシャムシャ


ドラゴン「本当にそうか?」ガツガツ


娘「……?魔法は好きだけど、逆効果かなって」ムシャムシャ


ドラゴン「そうじゃない」ガツガツ


娘「へ?」ムシャムシャ


ドラゴン「目の前にあるだろ」ガツガツ


娘「……あっ」


娘「アップルパイ?」


ドラゴン「みんな……娘も大好きなんだろ?」


娘「まぁ、そりゃあ……美味しいし。食べ放題券を配るの?」


ドラゴン「いや……それは……どうなんだ……」



[パン屋]


青年「ねーよ」コツンッ


娘「あうっ」


少女「わ!ついに娘ちゃんもやられたね!でこぴん!お揃いだよ!お揃い!」


青年「何でテンション上げてんだ……よっ」コツンッ


少女「あうっ」


少女「はいはーい!今のは理不尽だと思いまーす!慰謝料としてアップルパイ一年ぶんを請求します!」


青年「却下」


少女「ですよねー!」


青年「魔法でたまに手伝ってもらってたりもするからな。娘ちゃんのためならできることならなんでもしてやりたいが、嫌ってるっていう数人にアップルパイ食べ放題券を配ってしまったら流石に商売にならない」


娘「ですよねぇ」


少女「娘ちゃんを嫌ってるようなわからずやに渡すくらいなら私が貰っちゃうもんね、無料券」


青年「誰にもやらねぇから安心しろ」


青年「……まぁ、アップルパイをいくつか持ってってやるって程度なら用意しないでもない」


娘「ほんとですか!?」


青年「俺のアップルパイなんかで仲直りができるかはわかんないけど、力になれるなら」


少女「えーっ、私にはー?私にはー?」


青年「あー、もう、わかったわかった。ついでに一切れくらいは少女のぶんも焼いてやるよ」


少女「いっえーい!太っ腹ぁ!」


青年「ただし、一日ここで働いてもらうぞ」


少女「対価に見合わないよ!?」ガーンッ


青年「冗談だ。……まぁ手伝いのことを抜きにしても娘ちゃんも今までアップルパイをいっぱい買ってもらってるからな。少しくらいはお客さんに還元するのも悪くはないだろ」


少女「そういえばいつもこんなに食べきれるの?ってくらいアップルパイ買ってくけど娘ちゃんの家族の人ってあれ全部食べちゃうの?」


娘「えぇ、まぁ」


青年「うんうん、焼き甲斐があるってもんだな」



[洞窟前]


娘「……ってことになったんだけどさぁ」パクパク


子ドラゴン「キュー!」ガツガツ


ドラゴン「よかったじゃないか。町で配るのか?」ムシャムシャ


娘「そのつもりだけど……でも作ってもらえる数にも限度はあるし、無理があるよね……やっぱり青年さんに悪いかなぁ……」


ドラゴン「最近は娘も頑張りすぎてたからな。ここらで誰かを頼って休むってのもいいんじゃないか? 」


娘「うー。そもそもずっとドラゴンさんには頼りっぱなしですし……あっ」


ドラゴン「どうした?」


娘「それですよ、それ」


ドラゴン「どれだよ」


娘「頼りすぎなんです。これじゃ私、配るだけで何にもしてない……」


ドラゴン「その、配るのが大事なんじゃないのか?」


娘「でもなんか、腑に落ちないよ」


ドラゴン「ははぁ」


ドラゴン「じゃあ、自作すればいいじゃないか」


娘「自作って……アップルパイを?」


ドラゴン「アップルパイを」


娘「その発想はなかったです」


ドラゴン「なんでだよ」


娘「本棚の料理本にはアップルパイはあったでしょうか」


ヒューッ……


パタッパタッ


スタッ


娘「うーん……」ペラペラ……


ドラゴン「小屋から好きな本を呼び寄せられるのか……」


娘「もう本棚の本の数もばかにならなくなっちゃいまして」エヘヘ


ドラゴン「本がはばたくのはそういう魔法なのか?」


娘「それは趣味です。あっ、ありました」



ジューッ


娘「……とりあえず焼いてみたけど」


ドラゴン「あの小屋のキッチンもいつのまにやらそれなりになってるんだな」


娘「増築に必要な魔法は最初の頃に頑張って覚えたからね」


ドラゴン「とりあえず食べてみるか」


子ドラゴン「キュー!キュー!」


娘「切り分けるからちょっと待ってね?」


子ドラゴン「キュー!」


…………


パクッ

パクッ

パクッ


…………


ドラゴン「なんというか……違うな」


娘「……違うね」


子ドラゴン「キュー……」



[パン屋]


娘「……ということでですね、あの」


青年「ぷっ……あはははは!!」


娘「へ?」


青年「ごめんごめん!そうだよな!自分で作らねぇとダメだよな!あっはっは!」


娘「えっと、その……おいしいアップルパイの作り方を……」


青年「よっし、わかった」


娘「……!ほんとですか!?……でもお店の秘伝のレシピとかじゃ……」


青年「秘伝のレシピも後の世代に伝えねぇと廃れちまうんだよ、ばーか」コツンッ


娘「あうっ……えへへ」


青年「ふっ……ふへへっ」


カランカラン


少女「おいーっ……何この空間」



青年「まず材料だが……分量と一緒にまとめたメモがそっちにあるから後で写しといてくれ。とりあえず材料だけ一通り説明すると……りんごはもちろん、生地に使う薄力粉に……強力粉。それに……」


…………


青年「……あとはシナモンパウダー……とラム酒だな。ついでにジャムも用意しておくといい」


少女「材料を揃えるだけで一苦労だね」


娘「魔法より……難しいかも……」


青年「ねーよ」


…………


青年「……っと、とりあえず生地ができたらいったん冷やしておいてだな」


娘「氷系の魔法かけておきますね」ヒョオー


青年「おう、助かる」


少女「へぇ、いつもこうやって手伝ってもらってるんだ」


青年「暖めるのは簡単なんだが冷やすってのは難しいからな。魔法ってのも便利なもんだよ」


…………


青年「こっちに絞ったレモンの果汁を……こう」


少女「アップルパイなのにレモンの果汁ってなんだかおもしろいね」


青年「おいしくなるんだからいいだろ」


少女「確かに確かにー」


娘「なんだかいよいよこんがらがってきました……」


青年「レシピは後で文字に起こしておいてやるよ……シナモンと酒を加えて……っと、こっちも冷やしてもらっていいか?」


娘「は、はい」ヒョオー


…………


青年「あとは焼くだけだ」


少女「焼くって……どれくらい?」


青年「こう……良い感じになるまで?」


少女「曖昧すぎるよ!」


青年「大体体内時計で作れんだよ!」


娘「時計、見ときますね……」


少女「時間がわかったり計れる魔法はないの?」


青年「いらないだろ……」


少女「いきなり無人島に迷い込むかもしれないじゃん!」


青年「ねーよ」



青年「……というわけで、完成だ」ジューッ


少女「これ、食べていいの?」


青年「特別だぞ。三人で分けるか」


少女「よっしゃ!作れる気はしなかったけど見ててよかった!」


青年「おいおい……」


少女「早く早くぅー!」


青年「うっせぇ、切り分けるから待ってろ」


娘(なんだかどこかで見たような光景だなぁ)


…………


パクッ

パクッ

パクッ


少女「うーん!やっぱこれだね!最高に焼きたてだから最高においしい!」


娘「……すごいです」


青年「だろ?」ドヤッ



[洞窟前]


ジューッ


娘「ということで……言われた通りに作ってみたんだけど」


ドラゴン「まぁ前のもおいしいといえばおいしいものだったけどな」


子ドラゴン「キュー!」


娘「とりあえず食べてみよっか」


…………


パクッ

パクッ

パクッ


ドラゴン「……近くはなったんじゃないか?」


娘「やっぱり完全再現は難しいかぁ……」


子ドラゴン「キュー!」パクパク


ドラゴン「まぁ、これだけおいしいなら十分、いいんじゃないか?俺は好きだぞ」ガツガツ


娘「うん……うん!よし!これでいく!」



娘「……うーん」カチャカチャ


ドラゴン「もう準備してるのか。そんなにすぐ配りに行くのか?」


娘「うん、明日から配ってみる!だから、とりあえず今日のうちに材料をまとめとかなきゃ」


子ドラゴン「キュー!キュー!」


娘「……ごめんね。子ドラゴンが行きたいのもわかるけど、私一人で行くことにしたの」


娘(連れていっちゃうと今度こそ、処刑されかねないし……)


ドラゴン「みんな、好きになってくれるといいな」


娘「大丈夫だよ、私が大好きなアップルパイなんだから。みんな、わかってくれるよ」


ドラゴン「……そうだな。きっと大丈夫さ」

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