〈Level07:迷って繰って魔法書メソッド〉

EXP07

……カッコーン


チョロチョロ……


ドラゴン「……」


子ドラゴン「キュー……」


娘「……」ペラッ


……カッコーン


ドラゴン「なぁ」


娘「なに?」


……カッコーン


ドラゴン「最近は涼しくなってきたしこうやって風呂に浸かれるのはいいんだが……」


娘「ドラゴンはほぼ足しか入ってないけどね」ペラッ


……カッコーン


ドラゴン「あのさっきからカポンカポンと鳴っているものはなんだ?」


娘「なんだっけ。名前は忘れちゃった。絵本で見たの。遠くの国の文化らしいけど……雰囲気がいいでしょ?」


ドラゴン「……そうだな」


……カッコーン


ドラゴン「しかし、風呂でまで魔法書を読むのはどうなんだ」


娘「町に行ったとき、私はやっぱりもっと魔法を知らなきゃって思ったから……」パタン


娘「いろんな事ができるようにならないと、ね」


……カッコーンッ


ドラゴン「しかし、そんなに四六時中読みふけるのもそれはそれで問題があるんじゃないか?集中力も続かないだろう」


娘「んー、でもその甲斐もあってか、もうこんなこともできるようになったんだよ」シュゥゥ……


カコン……ガコンッ……ガコッガコッガコガコガコガコッ……


ガッコーンッガッガッコーンッガッコーンッガッコーンッ


子ドラゴン「キュー……?」


ドラゴン「……」


娘「……」


ガッコーンッガッガッコーンッガッコーンガガガッガッコーンッ


ドラゴン「遠隔操作魔法はすごいが……これ、楽しみ方が違うんじゃないか?」


娘「私もそう思う」


ドラゴン「それに、魔法を知るのも大切だが、その他のことを知ることも大切だぞ」


ドラゴン「魔法だけ覚えていても使い方を誤れば……魔王にすらなってしまうしな」


娘「その他のこと……?例えば……?」


ドラゴン「料理とか……薬草とか……」


娘「そういう本もちゃんと読んでるよ。薬草はあんまり探しに行かないけど、料理はしてるし……」


ドラゴン「……娯楽とか?」


娘「娯楽……こうして話してるだけでも楽しいけど……」


……カッコーン


ドラゴン「ついでにすごい今更なんだが、俺と娘って一緒に風呂に浸かってていいのか?」


娘「なんで?」


ドラゴン「俺はこれでもオスだぞ」


娘「ドラゴンはドラゴンでしょ?」


ドラゴン「……そうか」


……カッコーン


ドラゴン(このまま成長していくと嫌がられたりするのだろうか……)


……カッコーン



ピュオォオ……


ドラゴン「風の魔法で髪全体を乾かすのは便利そうだな」


娘「ずっと伸ばしっぱなしだからね……すごく長くなっちゃったなぁ」ピュオォオ


ドラゴン「流石に町の方に髪を切りにいくわけにもいかないだろうし……隣町に切りにいってみるのはどうだ?」


娘「いっそこの髪を遠隔操作していろいろと便利に使えないかな?長いから遠いとこのものも取ったりできそうだし」……クネクネ


ドラゴン「発想が狂気じみてきているぞ……というか魔法の上達が最早魔族クラスだな」


娘「そんなに早いの?私」ピュオォオクネクネ


ドラゴン「魔物よりも化物じみたスピードだな」


娘「才能あったんだね、私」ピュオォオクネクネ


ドラゴン「そういえば隣町の友人にはまだ俺達のことは話してないのか?」


娘「うん、まぁ……」


ドラゴン「その友人の前でもいろんな魔法を?」


娘「ドラゴンたちの前ほどじゃないけど少しは魔法を使ってるよ。こっちの町とは違ってちょっとした魔法くらいなら受け入れてはくれるし」


ドラゴン「なるほどな」


娘「また私にドラゴン達のことをちゃんと言えって言おうとしたでしょ」


ドラゴン「俺はそれが少女のためだと思ってるからな。友人との間に隠し事なんてするもんじゃない」


娘「……したくてしてるわけじゃ、ないんだけどなぁ」



ドラゴン「町から戻ってきてからずっと魔法の勉強ばかり……大丈夫なのか?」


子ドラゴン「キュー……」


娘「大丈夫だよ、大丈夫。きつい運動をしているわけでもないし」


ドラゴン「それでも、俺には無理をしているように見えるぞ」


娘「だって……私には何もできないから……」


ドラゴン「そんなことはない」


娘「そんなことあるよ!今でも畑のお世話はほとんどドラゴンに任せっきりだし、魔法書もわからないところは聞いてばかりだし」


娘「でも、私にはどうしたらドラゴン達が町に受け入れてもらえるのか……わからなくて……探し続けたら……何か解決できる魔法があるかもしれないでしょ?」


ドラゴン「なるほど、それで隣町から買ってくる魔法書も増えてきたのか」


娘「ねぇ、ドラゴン。私を北に連れていってくれない?」


ドラゴン「北?」


娘「私、魔法学園に行きたいの。ここからずっと北にある、魔法学園に。ドラゴンならひとっ飛びでしょ?」


ドラゴン「断る」


娘「そんな……どうして?」


ドラゴン「出不精なんだよ」


娘「で、でぶ……ドラゴン達を救える魔法があるかもしれないんだよ?」


ドラゴン「だからこそ、だ。魔法はそんなことのために覚えるものではない」


ドラゴン「魔法は拠り所でも逃げ道でもないんだよ」


娘「……むぅ」


ドラゴン「……まぁ、なんだ。正直あるにはあるんだ。今の状況を一発で解決する魔法もな」


娘「だったら……」


ドラゴン「洗脳魔法とか、記憶の改竄魔法のような魔法だ」


娘「……いっそ、それでも」


ドラゴン「そう、魔法を頼りすぎれば、そうなるから連れていけないんだよ」


ドラゴン「そんなことをしてしまえば、まさに恐れられている"ドラゴン"のイメージそのものだろう?」


娘「……っ!」


ドラゴン「言ってしまえば、あの町の人々はもう、魔法にかかってるんだよ」


ドラゴン「時間がかけた……ある意味時間をかけて俺自身がかけてしまった、すれ違いという魔法にな」


ドラゴン「だから、俺達がしなきゃいけないのは"魔法をかける"ことじゃなく、"魔法を解いてやる"ことなんだよ」


娘「それは、どんな魔法を使えば……」


ドラゴン「魔法じゃない。魔法じゃないんだ」


ドラゴン「きっとそれは、考えてるより単純なものなんだ。人間同士でもすれ違いなんてよくあるだろ?似たようなものだ」


娘「……はぁーっ!」パタンッ


ドラゴン「……どうした?」


娘「私、頑張りすぎたみたい」


ドラゴン「……おう、もう寝るといい」


娘「んー……そうする。おやすみなさい」


ドラゴン「おやすみ」


子ドラゴン「……」スピー


娘「子ドラゴンったら……いつのまに……」



チュンチュン


娘「…………」


ドラゴン「…………」


娘「……おはようございます」


ドラゴン「おはよう」


娘「……」


ドラゴン「……」


娘「……」


ドラゴン「あー……」


ドラゴン「どうしたんだ、その……前髪は」


娘「昨日の夜に風の魔法で髪を切ろうとして……」


ドラゴン「おう……」


娘「切りすぎました……」


ドラゴン「そうか……まぁ……かわいいぞ……」


娘「髪……」


ドラゴン「髪?」


娘「髪を伸ばす魔法を……探さないと……」


ドラゴン「……頑張れ」

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