〈Level06:駆けて架かるトラブルレインボー〉
EXP06
ミーンミンミン……ミーンミンミン……
ドラゴン「毎年のことではあるが、夏は流石に暑いな」
娘「あ、それなら、ほら」ヒュオオ……
ドラゴン「氷雪魔法?……そんなものまで覚えたのか?」
娘「うん。お湯は水系の魔法に火系の魔法を組み合わせたらすぐできちゃうのに氷系の魔法は水の魔法に全く別の冷化魔法を重ねなきゃで資料を漁るのも覚えるのも大変だったけどね」
ドラゴン「魔法を使いだしてから……まだ一ヶ月そこらか?もうそんなところまで覚えたのか?」
娘「もう野菜もきゅうりとか、トマトとか採れちゃうようになったしそんなものなんじゃないの?」
ドラゴン「いや、野菜と魔法は違う。俺から見てもその上達ペースは相当速いと思うぞ」
子ドラゴン「キュー」ダバー
ドラゴン「この通り、子ドラゴンも最近やっとお湯が出せるようになったところだしな」
娘「子ドラゴンはお湯が出せるようになったのはいいけど、もう夏真っ只中だから水浴びの方が気持ちいいのが残念だね……」
子ドラゴン「……キュー」タポ…タポ…
ドラゴン「お湯でも打ち水になっていいんじゃないか?」
娘「それじゃあ打ちお湯だよ……あれ?子ドラゴン、なんかちょっとおっきくなった?」
子ドラゴン「キュー?」コロコロ
娘「なんか……ちょっとだけ」
子ドラゴン「キュー!キュー!」
ドラゴン「……」
娘「……?」
ドラゴン「……」
娘「どうしたの?」
ドラゴン「やっぱり、娘は一度町に戻るべきなんじゃないか?」
娘「またその話?最近はいつもいつもその話ばっかり……そんなに私が邪魔なの……?」
ドラゴン「そういうわけではない。……たとえば、隣町でアップルパイを作ってくれているという友人には俺達のことは話しているのか?」
娘「……言うわけないよ」
ドラゴン「何故だ?」
娘「そんなの……」
ドラゴン「怖がられて、嫌われるのが怖いんだろう?町に帰るのを躊躇っているのも似たようなものなんじゃないか?」
娘「そんなっ!……ドラゴンさんは私のこと、なんにもわかってないです!」
ドラゴン「これでも、心配してるんだ」
娘「どこがですか!」
ドラゴン「このままじゃ、娘が……」
娘「あー!もう!聞きたくないです!私、小屋にいますから!」パタパタ……
バタンッ
子ドラゴン「キ,キュー……」アワアワ
ドラゴン「放っておけ。ああいうのは時間が経てば収まるんだよ」
子ドラゴン「キュー……」ショボン
◆
…
……
……ガンッ
ガンッガンッ
……いっ
娘(うるさいなぁ)
ガンッ……ガンッ!
……おいっ
娘(まだ、起きる時間じゃ……)
ガンガンッ
……起きろ!娘!
娘「……あー!もー!うるさいです!」ガバッ
ドラゴン「起きたか!?娘!出てこい!」ガンガンッ
娘「なんですか!?昨日の続きで嫌がらせですか!?ドラゴンのくせに人間が小さ……ドラゴンが小さいですよ!」
娘(……って、あれ?)
娘「ドラゴンさんって朝に弱いんじゃ……」
ドラゴン「いいから早く出てこい!大変なんだよ!」
バタバタバタッ
ガチャッ
娘「ど、どうしたんですか?」
ドラゴン「子ドラゴンがどこにもいねぇんだよ!」
娘「子ドラゴンが……?森の中を歩いてるとか……」
ドラゴン「さっきまで飛び回って探してみたがな、なんせ森だ。まだ日が出てないこともあって探しにくくてな。見つからないんだよ」
娘「時間は……ええと。6時?もう日の出は過ぎてるけど……」
ドラゴン「日の出を見て起こすことに決めたんだ。一時間近く起こしてたんだぞ」
娘「……あぁっ!もう!ちょっと待っててください!着替えます!」
ドラゴン「あぁ、早めにな」
娘「言われなくてもわかってますー!」
バタバタバタッ
◆
娘「えっと……それで?」コホン
ドラゴン「俺は上空を飛び回って森を探す。……だから、娘には町を探してもらいたい」
娘「……町」
ドラゴン「俺は……どう考えてもあの町には入れない。下手すりゃ武装した部隊か何かが出てきてもおかしくないくらいだ。……子供とはいえ、同じドラゴンである子ドラゴンも同じくらい危険だ」
娘「でも、子ドラゴンが町に行ったかなんてわからないでしょ?」
ドラゴン「あぁ、わからない。だが、昨日の喧嘩があってのこの騒ぎだからな。子ドラゴンが何か考え、町に向かった可能性も否めない。……それに」
娘「それに……?」
ドラゴン「もしも、ハンターの類いに捕まってるとしたら、町まで連れていっている可能性が高い」
娘「は、ハンター?」
ドラゴン「ハンターといえども魔物を長時間身近に置いておきたくはないだろうからな。付近の町に売りつけるパターンが最も多いんだよ」
娘「う、うぅ……」
ドラゴン「娘なら土地勘もあるだろ?なんとか見つけてやってほしい」
娘「土地勘なんて……ないです……」
ドラゴン「……?あの町出身なんだろ?」
娘「ずっと……屋敷の中で育てられてきたから……」
ドラゴン「おいおい……箱入り娘極まりないな……」
娘「や、屋敷といっても庭もあったし、お城には出入りできたし、たまにならメイドと一緒に町に出かけたりもできましたし引きこもりってわけじゃ……」
ドラゴン「うわぁ……本物だ……」
娘「うぅ……」
ドラゴン「だが、俺もどうやってもあの町には入れない。……まぁ、土地勘がないってのはお互い様だろ」
娘「生け贄に出された私がそのまま町に帰ってきたら……どうなるの?」
ドラゴン「逃げてきたと思われてこっちに送り返されるんじゃないか。そういう人間はいままでにもいたしな」
娘「……あんまり人には見つからない方がいいんだね」
ドラゴン「確かに取り押さえられては元も子もないからな」
娘「もしも……ハンターに捕まってたら子ドラゴンは?」
ドラゴン「どっかの町や貴族に売り飛ばされるかもしれないな。その後どうなるかは買い手次第だ。その場合は……オークション会場なんかを探し当てる必要があるが……些か危険だ」
娘「あー!もう!」クシャクシャ
ドラゴン「……覚悟は決まったか?」
娘「ぜんっっっっぜん!」
ドラゴン「……そうか」シュン
娘「でも、行く。行きます。行ってやります」
娘「……子ドラゴンのためですから」
ドラゴン「……」
ドラゴン「……!」パァ
ドラゴン「良い返事だ。乗れ。飛ぶぞ」
◆
バサッ……バサッ……
スタッ
ドラゴン「これ以上町に近づくのは危険だな。悪いがここまでだ」
娘「町に行ったらとりあえず……探し回ればいいんだよね?」
ドラゴン「闇雲に探すのは流石に無理がある。町一番の屋敷を持っている家ってんだから、親を頼るのが一番だろうが……」
娘「親は無理だよ。もう、何年も会ってないもん」
ドラゴン「な、何年も?」
娘「お城で働いてたんだけど、途中から北の遠いとこに行かなきゃいけなくなって……最初は手紙をくれたんだけどそれも段々と減って……この一年くらいは何も……」
ドラゴン「聞けば聞くほど冷たい親だな」
娘「昔は一緒に遊んでくれたんだけどなぁ。どっちにしても今はこの町にはいないから……」
ドラゴン「だったらメイドとやらだな」
娘「メイドなら……確かに力を貸してくれるかも」
ドラゴン「よし、決まりだな。娘は屋敷に向かって、メイドを頼るんだ。俺は上空から周辺の森をひたすら散策する。何かあったら……」ガコンッ
娘「これは?」
ドラゴン「洞窟の奥にあるのは宝石だけではなくてな。魔法石という魔力の封じ込まれた魔法石もある。それはそのうちの一つだ。何かあったらそれに魔力を注いでみろ。俺を思い起こしながらな」
娘「注ぐとどうなるの?」
ドラゴン「それは魔力を注ぐと意思伝達ができるタイプの魔法石だ。俺と意思伝達ができる……わかりやすく言うならテレパシー魔法ってところだな」
娘「そんなに便利なものがあるならもっと早く教えてくれたらいいのに」
ドラゴン「魔法石を扱うにはそれなりに魔法制御の技術が必要なんだ。正直、それを持たせておいても使えるかどうか……。ないよりマシって程度だな。使えたとしても使い続けられる保証はない。繋がったら要件は手短に伝えるんだぞ」
娘「すごい賭けだね……」
ドラゴン「まぁ、必要ないかもしれないけどな」
娘「ないよりはましかぁ」
ドラゴン「よし、行ってこい」
娘「……うん!」
◆
[町]
ワイワイ……ガヤガヤ……
娘「うぅ、もうこんなに人がいるなんて……」
『おい、なんかこの町に魔物が出たって噂だぞ』
『おいおい、見間違いだろ』
『確かにありえねぇよなぁ……』
『でも、本当だったらどうするよ?俺達死ぬかもしれねぇぜ?』
『そんときはドラゴンに生け贄をもっと捧げて守ってもらえるように頼んでみっか?へへっ』
『冗談になってねーよ……』
娘(噂になってる……ということは子ドラゴンはやっぱりこの町に……?)コソコソ
娘(と、とりあえず屋敷を目指さなきゃ……って屋敷ってどこだろ?)
娘(表通りはとてもじゃないけど歩けない。路地裏を縫って探すしかないみたいですね)タッタッタッタッ
…………
『魔物だって?ありえねぇ!殺しちまえ!』
『おいおい、俺達が殺せるわけねぇだろ?』
…………
娘(……ここでも噂になってる)タッタッタッタッ
…………
『城の兵隊は何をやってんだ!こういうときのための兵隊なんじゃねぇのか!』
『まだはっきりとした目撃情報があるわけじゃないらしいしね……動くに動けないんでしょ?』
…………
娘(子ドラゴン……早く探さなきゃ……っ)タッタッタッタッ
…………
『魔物だと?またこの町が焼かれたらどうするんだ?』
『そんなドラゴンレベルのもんが紛れ込んでるわきゃねぇだろ』
…………
娘(路地裏で建物の影ばかりだから……お屋敷が全然見えない!)タッタッタッタッ
…………
『私、隣町に逃げようかしら……』
『本当に魔物が紛れ込んでたら、町の外にも何体いるのかわからないのよ?今出ていくなんて正気じゃないわよ』
…………
娘(子ドラゴンも見当たらない……!)タッタッタッタッ
…………
『おい!今この町から出てってるやつに連絡はつかねぇのかよ!こっちに来ねぇように伝えねぇと!』
『電話っつー技術もまだまだ出てきたばかりだからな……遠くの町まではとてもじゃねぇが……』
『あぁーっ!くそっ!科学も科学で野蛮な魔学の真似事なんぞをするからこうなるんだ!』
…………
娘「はぁ……はぁ……もう!どこなんですかっ!子ドラゴン!」
バサッ
バサバサバサッ
娘「……ひっ」
娘(後ろから物音……!?こんな路地裏でっ!?いやっ……逃げなきゃ……)
???「……ま?」
娘(逃げるってどこへ!?目の前は表通りです!)
娘(表通りに出た方がどう考えても状況は悪くなる!)
娘(だったらいっそ浮遊魔法で……)
娘(いや、ダメです。この路地の建物は高すぎる……まだ慣れてない浮遊魔法を使って落ちたら……)
???「……お嬢様?」
娘「……へ?」キョトン
???「お嬢様ではありませんか!」
娘「め、メイドさん?」
メイド「はいっ!そうでございますっ!」
娘「あ、あの、荷物……」
メイド「あら、私ったらいけない。大切なお荷物が……」
娘「手伝います」ヒョイッヒョイッ
メイド「そんな……お嬢様のお手を借りるなんて悪いですわ」
娘「ふふっ」
メイド「どうかなされましたか?」
娘「いえ、メイドさんにそう言われるのも少し懐かしくて」
メイド「確かに……もう随分と言っていないような気がします」
メイド「ところで、お嬢様はどうしてここに?」
娘「少し話があるんだけど……いいかな?」
メイド「話……ですか。そうですね……では」
ガシャンッ……カラカラ……
メイド「お嬢様は町の中では生け贄の身。見つかったらまずいでしょうし、まずはお屋敷に戻ることにいたしましょう」
娘「台車?」
メイド「中にお隠れください。お屋敷までお運びします」
娘「わ、わかりました」キュッ……ガコンッ
メイド「では……」
カラカラカラカラ……
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