〈Level05:覚えて紡いでマジカルホープ〉

EXP05

娘「このままじゃだめです!」


ドラゴン「は?」


子ドラゴン「キュー?」


娘「ここに来て、もう一ヶ月!色々と整ってきたけど……これじゃだめなの」


ドラゴン「暑さで頭がやられたのか……?」


娘「違います!


ドラゴン「小屋も増築してやったし、風呂も流石に俺が吐き続けるのもなんだからある程度洞窟の岩で整えてやっただろ?畑の方も流石にまだ収穫とはいかないが、順調だ。他に不満があるのか?」


娘「それがダメなんです!」


ドラゴン「……?」


娘「私、本読んでるくらいしかなにもしてない……」


ドラゴン「でもまぁそのおかげで今では食えるものと食えないものの判別もできているし、美味い調理法もわかって助かっている。これでいいんじゃないか?」


子ドラゴン「キューキュー!」


ドラゴン「ほら、子ドラゴンもそう言ってるぞ。最初なんて毒キノコと普通のキノコがすごく似ているキノコがどっちかわからず食べようとしてるのを俺が全力で止めてたしな」


娘「でも、このままじゃ頼りっぱなしでしょ?」


ドラゴン「つまりどういうことだ?」


娘「魔法を教えてください」ドゲザァ


ドラゴン「結局頼るんじゃねぇか」



ドラゴン「じゃあまずは口から炎を出すためにはだな」


娘「それはいらない」


ドラゴン「じゃあ炎よりは難しいんだが口からお湯を」


娘「もっといらない」


ドラゴン「口からお湯を出して湯を溜めながら身体を洗ったりできるぞ」


娘「気持ち悪いです」


ドラゴン「はぁ……じゃあとりあえず小屋から魔法書を持ってきてみろ。なるべく簡単そうなやつな」


娘「わかった!」トコトコ……


…………


ドラゴン「本当に魔法を教えることになるとはなぁ」


子ドラゴン「キュー」ブワー


ドラゴン「……お前には今度お湯の出し方を教えてやるからな」


子ドラゴン「キュー!」



娘「これで大丈夫かな?」


ドラゴン「まぁ、妥当なところじゃないか?」


娘「よーし!」ペラペラ


ドラゴン「まずはどんな魔法を覚えるんだ?」


娘「やっぱり火を出す魔法が一番オーソドックスなのかな?」


ドラゴン「他にも水とか雷とか土とか……風を操ったりとかもあるけどな」


娘「水は出せると井戸まで水を汲みにいかなくてよくなるし、風は涼しくなりそうでいいね!雷は……電気で動かせそうなものはないからまだいいかも。土は……?」


ドラゴン「ここまで実用性重視の魔法使い志望は初めて見たぞ……」


娘「えー、絶対嘘だよ。魔法って便利でいいなぁって私は昔から思ってたよ?」


ドラゴン「まぁ魔法使いなんて、そんなに見ていないんだけどな」


娘「むむぅ。どれが一番簡単なの?」


ドラゴン「どれも似たようなもんだな。知識としてはどれも難しいが、感覚としては似たようなところもあるから、一番の難関はひとつめだ」


娘「んー……じゃあ炎にします」


子ドラゴン「キュー!」ブワー


ドラゴン「よーし、まずはだな……」



ボフッ


娘「うーん、一瞬しか出ないなぁ」


ドラゴン「いや、曲がりなりにも一日で魔法を少しでも発動できてるってのは大したもんだぞ」


娘「へぇ……そうなんだ……」


ドラゴン「子ドラゴンは数ヶ月かかってもまだ火を吐けるだけだしな。小さく吐くだけでも一週間はかかっていたぞ」


子ドラゴン「キュー!」ボワー


ドラゴン「別にバカにしているわけてはないから俺を燃やそうとしないでくれ」チリチリ


娘「すごい……のかな……?それに、こうやって教えてもらいながらなら、最初は何も読めなかった魔法書も少しずつなら読める……かも……」


ドラゴン「それはさらにすごいな……センスがあるんじゃないか?」


娘「いろんな便利な魔法を使えるようになれるかな?」


ドラゴン「……あぁ、そうだな」



[隣町、パン屋]


娘「……ほ!」ボワッ


少女「わっすごいじゃんなにそれ」


青年「おや。娘ちゃん、魔法使いだったのか」


少女「魔法?これが魔法なんだ。初めて見たや。娘ちゃんすごーい」


娘「見習いですけどね。まだ一週間くらいしか練習してませんし」


青年「それでもすごいじゃないか。ここらの地域は魔法を使える人が極端に少ないしな」


少女「町によっては"魔法は魔族がもたらした殺人技術だー"、なんて言ってる人もいるらしいよ?」


娘「殺人技術……」


青年「なんとなく凝り固まった考え方って気がするけどな」


少女「確かに確かにー」


青年「少女、適当だろ。さては本で読んだだけとかだな?」


少女「そんなことないよー」ヒューヒュー


娘「魔法ってあんまり使わない方がいいのかな?」


少女「魔法を目の敵にしてるようなとこでは使わない方がいいかもね」


青年「魔物と魔法、どっちも絶対に悪だって人は少なくないからなぁ」


娘「人を傷つけたりしちゃうかもしれないんですもんね……」


青年「だからそれは凝り固まってるっての……道具なんて大抵そんなもんだろ?


青年「包丁だって人を傷つけたり、ときには殺してしまえたりするんだし。要するに使う人次第だろ」


少女「おー、たまにはいいこと言うねぇ」ヒューヒュー


青年「少女には言われたくねぇな」


娘「でも、確かにそうですね。使う人次第、かぁ」


青年「あっ、もうこんな時間か。そろそろ生地が焼けたんじゃないか?」


娘「いつもわざわざ申し訳ないです」


青年「いやいや。ヘビーユーザーが増えて喜ばしい限りだよ」


少女「うんうん。こうやってお話しするのも楽しいし、私も焼きたてが食べられるしね!」


青年「焼きたて目当てだったのかよ……金はちゃんと払うんだぞ」


少女「はぁーい」チャリンチャリン


青年「まいどありー」



[隣町付近、湖への森]


ボウッ


娘(まだまだ小さな炎しか出せないけど、は森夕方でも暗いので灯りには便利だなぁ)


ガサガサッ


娘「ひっ」


オオカミ「ガウッ……ガウッ……」「ガウー」「ガウガウッ……」「グルル……」


娘「お、オオカミ……ひぃ……ふぅ……み……えぇ……」


娘(いっ、いっぱい。に、逃げなきゃ……)


オオカミ「ガウ……ガウッ……」


娘「あれ……?近づいてこない……?」


娘(この炎を警戒してる……?でも時間の問題かな……)


娘(だったら……無理を承知で魔力をもっと強めて炎で……)


『町によっては魔法を魔族がもたらした殺人技術だー、なんて言ってる人もいるらしいよ?』


娘(……私には)


娘「……無理、無理だよ」


娘(オオカミもこわいけれど……)


娘(魔法も、こわいんだよ……)



ボワーッ



娘「きゃっ!」


娘(……魔法!?)


オオカミ「ガウッ!?……ガウガウッ」


ドラゴン「悪いな、こっから先は俺のテリトリーなんだよ」バサッバサッ


娘「ど、ドラゴンさん?」


ドラゴン「襲われるぞ、早く乗れ!」バサッバサッ


娘「う、うん!」ガチャガチャ


バサッ……バサッ……


…………


ドラゴン「絵に描いたような危ないところだったぞ」


娘「私も……そう思います……」


ドラゴン「…………」


娘「…………」


バサッバサッ


娘「ねぇ」


ドラゴン「なぁ」


娘「えっと、その、あの」


ドラゴン「……先に言っていいぞ」


娘「あの、さ……」


娘「魔法って……人を傷つけたり、するのかな……」


ドラゴン「……まぁ、そういうこともあるな」


娘「じゃあ……やっぱり」


ドラゴン「とはいえ、さっきもそうだが魔法がなければどうにもならないこともある」


娘「それは……そうだけど……」


ドラゴン「まぁ、なんだ。強い精神を持て、だとかそんなことを言うつもりはない」


娘「え?」


ドラゴン「最初から信じてるからな」


ドラゴン「俺も魔法をむやみやたらと使うようなやつに魔法を教えているつもりはないんだよ」


娘「そ、そんなのっ!」


ドラゴン「ま、娘なら大丈夫だよ。……だから、さっさと戻ってアップルパイ食べようぜ」


娘「……うん」


ドラゴン「子ドラゴンも待ってるからな」


娘「……うん」


バサッバサッ……


…………



[洞窟前]


子ドラゴン「キュー……」ボワッ


子ドラゴン「キュー……!キュー……!」パクパク


娘「すごく気に入ってるなぁ……」


ドラゴン「自分で焼き直した後に食べるってどうなんだ」


子ドラゴン「キュー!キュー!」パクパク


ドラゴン「そうだ、魔法についてだが……」


娘「うん?」


ドラゴン「ときどき忘れそうになるが娘はあの町の出身だ」


ドラゴン「あの町は……俺のせいなのかもしれないが、魔法や魔族の部類をすごく恐れている」


娘「……うん」


ドラゴン「だから、娘が恐がるのも仕方ないといえば仕方ない。あの町の出身なんだからな」


ドラゴン「最初は軽い気持ちでも、使えば使うほど得体のしれなさを感じることもあるだろう」


ドラゴン「でも、だからこそ、だ」


ドラゴン「俺は娘に魔法を使ってもらえると嬉しい。最初はちょっとした冗談だったんだが希望も交えてるんだよ」


ドラゴン「……たぶんな」


娘「希望?」


ドラゴン「ここに来て百数年、ずっと俺は恐れられてきた。……つまり、理解されずに生きてきたんだ」


ドラゴン「ここに生け贄として来た娘たちもそうだ。警戒心だらけだったり、そもそも俺の話に聞く耳を持たなかったり。酷いものになると生け贄として連れてこられたのにも関わらず俺に殴りかかってきた娘もいた」


娘「それは……ひどいね……」


ドラゴン「いや、すまん。いらない話だった」


ドラゴン「つまり、俺は理解されたかったんだよ。寄り添ってくれて嬉しかったんだ。舞い上がってたんだ」


ドラゴン「……だから、娘に魔法を教えたのは俺の私情に巻き込んでしまったようなものだ」


ドラゴン「魔法を教えてしまえば、いざ町に戻ったところで、娘まで迫害される可能性もある」


ドラゴン「……わかってたんだ」


娘「私は……大丈夫だよ。魔法を教えてもらえて、嬉しかった。……ううん、嬉しいし。それに……」


娘「私は、ここが。ドラゴンさんと、子ドラゴンさんが……今の"日常"がちゃんと、好きだからさ」


ドラゴン「……そうか」


娘「あっ、さっき言いかけてたことって」


ドラゴン「いや、そっちはもう大丈夫だ」


子ドラゴン「キュー……」パクパク


娘「あっ!子ドラゴン、私のぶんまで食べてるんじゃ……」


子ドラゴン「キュー……」


子ドラゴン「キュー!」パタパタ


娘「逃げても許さないですよ!」

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