〈Level03:集めて繋がる隣町トラベル〉

EXP03

ドラゴン「それだけでいいのか?」


娘「宝石をジャラジャラ持った女の子がいきなり町を訪れても怪しいだけですよ」


ドラゴン「あぁ、確かにな」


娘「ドラゴンさん達はついてこないんですか?」


ドラゴン「人間の姿に化ける魔法もないではないが、その手の魔法使いなんかが町にいるとややこしいことになるんだよ」


娘「難しい世の中なんですね」


ドラゴン「遥か遠く、北に行けば魔物と人間の共存している町もあるとは聞くが……俺はちょっとイレギュラーでな」


娘「行っちゃだめなんですか?」


ドラゴン「いろいろややこしいんだよ」


娘「大変ですね」


ドラゴン「その点、このあたりは魔物が少なくていいところだ」


娘「確かに、魔物がそこらを歩いてたら町中に号外がばらまかれることになりますね」


ドラゴン「その代わり、人間にひどく恐れられているのが悩みの種ではあるんだがな」


娘「いつか誤解がとけるといいですけど」


ドラゴン「実は俺はすごく悪い魔物なのかもしれないぞ」


娘「大丈夫です。私は、信じてますから」


ドラゴン「町の人間も方向性が違うだけで何かを信じた結果が今なんだろうがな……」


ドラゴン「娘も、町にいた頃は俺を恐れていたんだろう?」


娘「それは……」


娘「そうですね」


ドラゴン「……正直なのはいいことだ」


ドラゴン「実際がどうなのか、なんてのはどうでもいいんだよ。どいつもこいつもな」


娘「ちょっと難しい話です」


ドラゴン「みんな、最善策より目先の安全策をとりたがるのさ」


娘「……?」


ドラゴン「人間にとっての危険因子である俺みたいな魔物ってのは人の多いところに行くわけには行かないんだよ」


娘「……そっかぁ」


ドラゴン「子ドラゴンくらいならそんなに問題にならないとは思うが……魔物が少ない地域ではやはり避けておいた方がいいだろうな」


子ドラゴン「キュー……」


娘「むー……じゃあひとりで行ってきます……」


ドラゴン「町の近くの湖までにはなるが、送り迎えぐらいはしてやる。だからそういじけるな」


娘「はぁーい」


ドラゴン「買うものはリストにまとめたか?」


娘「うん。小屋に紙とペンがあって助かったよ。随分と古いけど」


ドラゴン「雰囲気があっていいじゃないか」


娘「ついでに初めてまじまじと本棚を見てみたんですけど、魔法書以外にもいろいろとあるんですね。薬草百科とか、きのこ百科とか」


ドラゴン「俺の見張りだけではなく、このあたりの生態についても調べていたのかもしれないな」


娘「なるほど。じゃあこのあたりの植物なんかをまとめた本も今はあるのかな……?」


ドラゴン「調べてみてもいいかもな」


娘「なるほど……じゃあ送り迎え、よろしくお願いします」



ドラゴン「準備はいいか?」


娘「……それなりに」


ドラゴン「それなりにってなんだ」


娘「それなりです」


ドラゴン「……まぁいい。いくぞ」バサッ……バサッ……


娘「うひゃっ」ズリッ


ドラゴン「大丈夫か?」バサッ……バサッ……


娘「少しびっくりしただけです。目、瞑ってるのでなんとか」


ドラゴン「落ちても俺が途中で拾ってやるから安心しろ。死なせはしないさ」バサッバサッ


娘「男らしいですね」


ドラゴン「ドラゴンだからな」バサッバサッ


娘「意味わかんないです……ドラゴンさんの肌って思ったより固いですね」ペチペチ


ドラゴン「くすぐったい。落ちるからやめろ」バササッ……バサッ……


娘「ほ、ほほ、本当に私、生きてたどり着けますか?」グラグラ


ドラゴン「ドラゴンだからな」バサッバサッ


娘「私は人間ですー!」


バサバサバサバサ…………


…………


バサ……バサ……



[湖]


ドラゴン「……まぁ、ここくらいまでだな。この湖で待ってる。わかりやすくていいだろ」ドサッ


娘「うーん、と」スタッ


パッパッ


娘「じゃあ行ってきますね!」


ドラゴン「あぁ、いってらっしゃい」


パタパタパタ……


ドラゴン「"いってらっしゃい"とか今まで言ったことないかもしれないな」


子ドラゴン「キュー?」


ドラゴン「おまえが言えるようになるまでは何年かかるかな」


子ドラゴン「キューイ……」



[隣町(薬学と時計塔の小さな町)]


ワイワイガヤガヤ


娘「わ、わー……賑やか……といっても私の町とはあんまり違いないか」


青年「おや、お嬢さん見ない顔だね」


娘「わ、わかっちゃいますか?」


青年「この町もそんなに大きいわけじゃないからな。旅の人かい?」


娘「そういうわけじゃないんですけど……」


青年「ふぅーん、まぁいいや。こいつは歓迎の印ってことで」


娘「これは……アップルパイ……?」


青年「俺、そっちの方に行ったとこの店通りでパン屋やってんだ。この町は薬ばっかが有名な小さな町だけど、薬以外にもいろいろと売ってっからさ。よかったら覗いてくれよ」


娘「は、ははぁ……」


青年「なーんてな、じゃあな」カラカラカラ……


娘「不思議な人だなぁ……」


娘(でも、アップルパイはとっても美味しそう!)ワクワク


スタスタ……



カーン……カーン……


娘「わっ!」


少女「わっ!……って私までびっくりしたじゃん!」


娘「えっと……ごめんなさい?」


少女「ふふっ……冗談だよ。お昼になると、鐘が鳴るの。あの時計台」


娘(……おっきな時計台だなぁ)


少女「この町にシンボルを作るためだーって十数年前に建てられた……って噂なんだけど」


娘「薬が有名なんじゃ……?」


少女「まぁ、そうなんだけど。薬が有名ってなんだか体に悪そうじゃん?」


娘(よくわからない……)


少女「まぁあの時計台も薬の研究施設の一部らしいけどね。そんなもんだから、今じゃどこの町も町だっていうのに王宮とかお城とか作っちゃうんだからおもしろいよね」


娘「……うちの町のお城もその影響なのかな」


少女「……ところであなたはどちら様?お城ってことは隣町の人?」


娘「えっと……その通りです」


少女「やっぱり。隣町……何もないとこだよね」


娘「えっと……畑なら……野菜は美味しいし……」


少女「うぇー、田舎」


娘(確かに田舎には違いないなぁ)


少女「ふむふむさてさて、私、暇なんだよね」


娘「ははぁ」


少女「そのアップルパイひとつでこの町を案内してあげないでもないよ」


娘「……半分だけなら」


少女「ぶーぶー」


娘「お、美味しそうなんですもん」


少女「のーのー、違うんだなぁ」


娘「……?」


少女「美味しそうなんじゃなくて、美味しいんだよ。ヘビーユーザーの私が言うんだから間違いない」


娘「は、はぁ」


青年「ヘビーユーザーなら布教しろよ」


少女「げっ……まだ店に戻ってなかったの」


青年「ちょっと果物も買っておこうと思ってな。ジャムにするやつ」


少女「あんたんとこのジャムパンって週替わりだよね。私マーマレードがいいな」


青年「週替わりつっても月始めに使う果物決めてんだよ。来週は……うわ、オレンジだわ」


少女「いぇーい、私の勝ちー」


青年「なんかムカつくな」


娘「えっと……?」


青年「ははは、悪い。いつもこんな感じでさ」


少女「うぇーい」テヘペロ


青年「うーんと、何か買い物?」ゴツンッ


少女「いたっ」ナデナデ


娘「ええ、まぁ、いくつか」


青年「ふむふむ……そうだね。どこに何があるかくらいは教えてあげるしお昼ついでにうちにおいでよ」


少女「初対面の女の子を自宅に連れ込むとは……やるね」


青年「ただのパン屋だろ、ばか。座るスペースもあるしな」


少女「ふぅーん。あっやしー」


青年「お前も来るんだぞ」


少女「それってパン食べ放題?」


青年「特別にひとつだけならくれてやる」


少女「……ありだね!」


青年「どこから目線なんだよ」


娘「えっと、じゃあお世話になります……?」


少女「お世話になられましょう!」


青年「お前じゃないだろ」



[パン屋]


〈メモ〉

・宝石の換金

・方位磁針

・このあたりの薬草や食べ物の本

・釣り道具

・着替え

……


青年「サバイバルでもするのか?」


娘「似たようなものです」


少女「すごく謎に満ちてるよ……」


青年「まず宝石の換金ってなんだよ」


娘「これです」ゴロゴロ


少女「うわっすごい。これアップルパイ何年ぶんくらい?」


青年「少女はなんでアップルパイに全財産を捧げるつもりなんだよ」


娘「宝石を換金できるとこってありますかね……」


青年「うむうむ、お嬢さんは俺と一緒でよかったな」グッ


娘「……?」


少女「この町の宝石商さんね、他所の人にはすごくぼったくりで有名なの」ボソッ


娘「……なるほど」ボソッ



パクッ


娘「わ、わぁ!アップルパイ美味しいですね!」


少女「うんうん、他のパンも美味しいけどやっぱり一番はアップルパイだね」モグモグ


青年「少女は口に物を入れながら喋るな」


娘「こんなにおいしいアップルパイは初めてです!」


青年「おう。ありがとな。……とりあえず宝石の換金にはついてってやる。そのあとは少女、案内してやってくれ」


少女「えっ、私だけ?」モグモグ


青年「だぁーかぁーら、口にだな……まぁ言っても聞かねぇか。俺は流石にずっと店を開けるわけにはいかないんだ。店番もやらなきゃなんねぇんだよ」


少女「え、えー」


青年「なんのためにパンをやったと思ってるんだ」


少女「しまった……ハメられた……そういうことだったのか……」モグモグ


娘「えっと……嫌なら私ひとりで……」


青年「通過儀礼みたいなもんだから気にしないで」



[町]


青年「……」グッ


ジャラジャラ……


少女「無言のガッツポーズがムカつくけど……すごいねこれ」


青年「相場の1.3倍くらいはいったんじゃねぇかな」


少女「どんな交渉術を使ったの?」


青年「あのおっさんが好きなパン、あんまり売れねぇから製造ストップしてもいいんだぞって言えばこんなもんよ」


少女「ゲスい……」


青年「まぁ今でも一日に三つしか作っちゃいないんだけどな」


娘「うわぁ……釣竿何本買えますかこれ」


青年「おぉっと、釣竿換算はアップルパイ換算より意味がわからないぞ」


娘「えへへ……」


青年「まぁそれ使って、いるもん買っていきな」


少女「じゃあ私と回ろっか~」


娘「よろしくお願いします!」


少女「まずは……着替えだね!」


娘「えっ」


少女「楽しそうだし!」


青年「着せ替え人形にして遊ぶんじゃないぞ」


少女「えーっ、いいじゃーん。私、同年代の友達少ないしぃ」


青年「ははぁ……まぁ付き合ってやってくれ」


娘「は、はい!あんまり慣れてないですけど……是非!」


少女「……ふぅーん」


娘「……?」


少女「や、なんでもないよ、よーしれっつごー!」



少女「サバイバルだったよね?なら動きやすい服装がいいのかな?」


娘「う、うーん。割となんでもいいかも?」


少女「えっ……うーん、だったら趣味全開で……ほら、こういう……ちょっとボーイッシュに……!」


娘「うん、動きやすくていいかも」


…………


少女「お金はあるんだから何個か買っちゃおうか!……ドレスとかどうよ!」デデーン


娘「いやいやいやいや……」


…………


少女「うんうん、白いワンピースに裸足、これで花畑走ってたらもうなんか雰囲気抜群だよ。これにしよう!」


娘「花畑……あるかなぁ……」


…………


少女「見て見て!これ!外国の衣装!本で見たことある!」


娘「着るのにすごく時間がかかったね……店員さんすごい……」


少女「じゃあ、ほら!よいではないかー!よいではないかー!」


娘「あーれー」


…………


………


……


[パン屋]


娘「荷物の半分が服ってどういうことですかね……」


少女「でもほら、お金はまだあるしー、リストにあったものは大体買えたし!」


青年「……おつかれ。もう並んでるパンは売れ残りのようなものだから食べていいぞ」


少女「えっ?ほんと?アップルパイはある?」


青年「ない」


少女「ジャムパンは?」


青年「ない」


少女「……あのおっさんの好きだっていうパンは?」


青年「キャラメルチョコメロンパンな。みっつあるぞ」


娘「ひとつも売れてないんですね……」


青年「不味くはないと思うんだがなぁ」パクッ


少女「確かに不味くはないね」モグモグ


娘「ファンがいるので、いいんじゃないですか?あとひとつお願いが……」モグモグ



[湖]


娘「ただいまぁ……」ガラガラ


ドラゴン「むむっ、遅かったな」


娘「なんか、こう、お友達ができちゃいまして」


ドラゴン「ほほう、それはいいことだ。森に引きこもっていると他の人間との関係は嫌でも消えてしまうからな」


娘「ドラゴンさんは友達とかいるんですか?」


ドラゴン「……こいつとか?」


子ドラゴン「キューキュー!」


娘「……私がいますよ」


ドラゴン「……あぁ、そうだな。じゃあとりあえずそう気を張るな」


娘「気を……?」


ドラゴン「敬語とか使わなくていいし、俺を呼ぶときはドラゴンさんじゃなくドラゴンでいい。ありのままで接してくれればいいんだよ」


娘「き、気をつけます……じゃないや。気をつけるね」


ドラゴン「あぁ」



娘「ところでこの荷物、どうしましょう。ドラゴンさんの背中に乗ります?」


ドラゴン「そういうときは、こうするんだよ」


シャラララララ……

フワフワ……


娘「わ、浮いてる……」


ドラゴン「浮遊魔法だ。娘が俺の背中から落ちてもこの魔法で落ちる前に助けてやれるから大丈夫だ」


娘「しがみつくより浮遊魔法で飛ぶ方がむしろ怖くないのでは……」


ドラゴン「そうか?下があまり見えないぶん、俺に乗った方がいいかと思ったんだが」


娘「ふふっ……まぁ私は今のままでいいですよ」


ドラゴン「そうか。なら今まで通りにさせてもらう」


娘「それと、飛ぶ前にひとつ、いいですか?」


ドラゴン「うん?」


シュルルル……

パカッ


娘「冷める前に焼きたてのアップルパイをいただきましょう」


子ドラゴン「キュー?」


ドラゴン「どうしたんだ?これ」


娘「明日のぶんの材料からひとつ、焼いてもらいました。少し時間はかかっちゃいましたけど」


ドラゴン「ほほう……初めて食べるが美味しいな」モグモグ


娘「えぇ、私もこんなに美味しいのは美味しいのは初めてです。子ドラゴンさんもどうぞ」


子ドラゴン「キュー……キューゥ!」パクパク


子ドラゴン「……!」キラキラ


ドラゴン「ところでひとついいか?」


娘「なんでしょう」


ドラゴン「敬語が全然抜けてないぞ」


娘「……癖かなぁ」

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