24 鎌
バジリスクは、子供たちに向かってチロチロと舌を出しては引っ込め、出しては引っ込め、を繰り返している。
バジリスク。別名、「蛇の王」
その冠する二つ名のとおり、巨大な蛇の体をしている。
軽く3mは超えているであろう高さ。
引きずる尻尾からは緑色の液体が流れ出ており、触れた草花が煙を上げて溶けていく。
人一人は軽く飲み込むであろう口。
そんなバジリスクが、子供たちの前で威圧感を放っていた。
ソルトは意を決してその間に入る。
気づいたバジリスクが液体を吐き出すのと同時に、子供をまとめて抱え上げ、身を投げ出す。
ゴロリと転がり、短刀をバジリスクに向ける。
這う様に動きながらこちらを睨むバジリスクは、獲物が増えたとばかりにチロチロと舌を出した。
「おねえちゃ…」
「離れないで。こいつ一匹じゃないでしょう?」
ごくりとつばを飲み、子供たちを背にバジリスクと少しずつ距離をとる。
一人じゃ、この短刀じゃ、勝てない。
解りきっているからこそ、無駄な戦闘は避けるべきだ。
「すぐに走れるように準備を。合図と同時に、走って。」
「わ、わかった!」
一回り大きな少年が答える。
彼の頭を、片手で軽くなでてから、ひとつ息を吐いてバジリスクを睨む。
不意に頭上に影が差した。
咄嗟に子供たちを庇いつつ避け、影の正体を確かめる。
「もう一匹…!」
その正体は、もう一匹のバジリスクの尻尾であった。
囲まれた。そう思った時は既に遅い。
正面のバジリスクが尻尾を振り上げる。
それを間一髪で避けた先は、背後のバジリスクの牙の前。
本能で、ソルトは上空へと飛び上がっていた。
子供たちを全員、抱えて。
着地と同時に足を回転させる。
二匹のバジリスクが這う様に追ってくるのが解る。
「走って!」
子供をおろし、一番小さい子の手を引く。
枝が、葉が、頬を、服を引き裂いていく。
すぐ背後までバジリスクが迫っている。
子供を抱き上げ避け、下ろして走っての繰り返し。
そんな中、一人が転んだ。
咄嗟に手を伸ばしても間に合わない。
誰か———!!
「うらぁっ!」
転んだ子に噛み付こうとしたバジリスクの首を一瞬で落としたのは、最初に目につくのは銀色の刃。
そして次に、血のような赤黒い髪の毛。
地面に降り立った少年は、チラリとソルトを見て薄く、薄く笑った。
紅き少年は、鎌を片手に、蛇の王の血を拭い去った。
「シューにい!」
「よぉお前ら。ソルト、ありがとよ!」
シューにい?
ソルトは疑問を覚えつつ頷いた。
「お前らは走れ!騎士団が助けにきてくれている!」
「あなたは!?」
「俺は」
少年は、再び笑みを見せた。
余裕に満ちた、狩人の目。
「俺は、こいつらをぶっ殺しておくんだよ!」
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