17 エルフの事情
「……随分といい景色かしら」
「そ。私の穴場よ」
散歩と称してルピスを連れ出したソルトは、くすりと笑みをこぼした。
何を見ても驚き、楽しむルピスが可愛らしかったのだ。
村を歩き、あれはなんだ、これはなんだと尋ねる様はまるで子供のようである。
ならばと、村全体を見回せ、かつ海まで見える丘の上にある高台へと登ったのだ。
予想通りの、期待通りの反応をしてくれたのでソルトは満足であった。
「……じゃあ、教えてくれる?」
「何をかしら」
「あんな場所で、あんな塔にいたこと。」
ソルトは誘い出した当初の目的について尋ねる。
ルピスの表情が微かに曇った。しかし、ふ、と短く息を吐き出し、ポツリポツリと話し始める。
それは、悲しい過去の話であった。
ルピスとカイルが生まれたのは、ここから遠い、遠いエルフの集落。
優しい親の間に生まれた双子であった。
しかし、エルフの双子というのは禁忌に触れる、という理由で生まれてすぐ殺される掟であったのだ。
「じゃあ、なんで生き延びたの?」
「ズバズバと物怖じもせず聞いてくる小娘かしら。…それは、ルーとにーちゃが、特別だったからかしら」
カイルとルピスの持つ魔力は特別であった。
カイルは、伝説とされている治癒術の魔力。
ルピスは、膨大な魔力に加え、聖竜に愛された魔力。
その天性の魔力によって2人は殺されることがなかったのである。
だが、やはり双子は禁忌。たとえ特別であったとしても、集落の住人が見る目は冷ややかなものであった。
2人が5歳の誕生日を迎えた日、ある出来事が起こった。
集落は燃え、人は逃げ惑い、そして死んでいった。
助かったのは、その膨大な魔力で小さな障壁を作り続けたルピスと、皆を治癒して回るついでに自らも回復させていたカイルであった。
襲撃の原因は、神話生物であった。
「11年前に初めて出現したんじゃないの…!?」
「116年前かしら。いたとしても、おかしくないかしら。そもそも、神話生物は世界の誕生と同じくして生まれたのよ。ただ、凶暴化したのが11年前だというだけで。」
その後、障壁を発生させ続け、自分が住んでいた集落が燃えるのを見ながら意識を失ったルピス。気がついたら、王宮の一室にいた。
カイルの姿はなく、しかしある騎士が訪れ、言葉を告げた。
「巫女殿、貴女様は世間に触れぬ場所で過ごして頂きます」と。
王の命令だと聞いたルピスは逆らうことなどできるわけがなかった。
幼く、世論などわからないルピスでは、“エルフの魔女”がどれだけ悪印象なのかが、わからなかったのだ。
「……それで、今日まで116年間、ずうっと、あの塔にいたかしら」
ソルトは言葉を失っていた。
いくら悪印象になるとはいえ、それだけの理由で監禁するだなんて。
目の前の小さな体つきの少女はいったい、どれだけ孤独を感じていたことか。
いったい、どれだけ不安を感じていただろうか。
悲しみの海に沈んでいただろうか。
ソルトにはわからない。
わからないけれど、護ってやろうと、そう感じていた。
二度と、この双子を離れさせてはいけない。
二度と、ルピスを独りにしないために。
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