15 ルピスの正体
帰る場所がなくなったルピスを置いていくわけにもいかないので、とりあえずとガルドらが待つ家へと帰ることにしたソルトは、ルピスの手を引いて森を歩く。
ペガサスの羽根を数枚ルピスに持たせ、手を引く様は姉妹のように見える。
「……ま、まだつかないの…かしら…」
「あと半分くらいかな」
塔から出たことがないというルピスの息はすぐに上がり、ソルトは呆れたように苦笑した。
ルピスはそんなソルトを悔しそうに睨み、足を運ぶ。
空は次第に赤みを帯び始めていた。
「おかえりソルト、遅かったねえ」
「ただいまカイル!」
帰宅したのは空に星が見え始めた頃であった。
途中でルピスが限界を迎え、ソルトがおぶったからなのだが。
「おかえり。……そいつぁ誰だ?」
ガルドはというと酒を飲んだのか呂律が若干回っていない。しかし見るところは見ているのか、はたまた狼男としての本能か。
そんなガルドに苦笑いをし、ソルトは後ろにいるルピスを前に出す。
「ルピスよ。ペガサス退治の時に会ったの」
「へーぇ…。…ヒック」
しゃっくりをしたガルドの声は、カイルが食器を落として割った音に掻き消された。
驚いて振り向くソルトが目にしたのは、酷く狼狽しているカイルの姿であった。
「……ル…ピス……?」
「なんなのかしら。」
震える声で絞り出すようにして出した声は擦れていた。
ソルトとガルドはお互い視線を交わし、何のことやらわかっていない。
ルピスもまた、なにがなんだかわからないといった表情でカイルを見つめていた。
「カイル…?どうかしたの?」
「……なんなのよお前。ルーに何かついているのかしら。」
ルピスの言葉に、フルフルと首を振るカイル。
その瞳には、涙が薄っすらと浮かんでいる。
「…ルピス…。君の…本名は、ルピス・フォン・アルダールか?」
「何故お前がそれを。…ルーの本名はそれかしら」
ルピスの言葉に、カイルはポロポロと涙を零した。
「俺の…俺の本名も、カイル・フォン・アルダールだよ…。ルピス」
「は……」
ひゅ、と息を飲む音が聞こえた。
ソルトからであった。
出会った直後、誰かに似ていると感じた。
よく考えたら、エルフで、青い髪の人はすぐ近くにいたのだ。
顔立ちもよく似ている。
深い翠の瞳の色も同じだ。
兄妹であると予想はつく。
カイルとルピスは、血の繋がった兄妹である。
「え…と…お前は…ルーのにーちゃかしら…」
「覚えていない?俺はルピスのことはよく覚えているよ」
「見方さえ違ったらナンパかしら」
視線をそらし、カイルの視線から逃れるようにするルピス。
おそらく、ルピスも目の前の青年と自分が似ていることに気づいてはいるのだろう。
受け入れないのか、受け入れたくないのか、受け入れてはいるが照れ隠しなのか。
ソルトは薄く苦笑いをするしかなかった。
「ルピス、母様の名前、言える…?」
「アルス様」
「…うん。」
再三にわたって確認し、カイルはぐしぐしと袖で涙を拭った。
「ずっと、探してたんだよ。僕の双子の妹を…」
「ルーは…覚えて無かったかしら…。悪かったのよ」
ソルトはそんな2人の様子を、微笑ましく眺めていた。
ソファーで寝転がっていたガルドが、いびきをかきはじめ、鼻をつまんで止めるまで。
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