14 魔術勝負

「そんな、お前はさっき…」

「幻影術に気づきもしないだなんて魔術師としてどうなのかしら」


 ルピスは辛辣に言葉を綴る。


「お前が不意打ちを仕掛けてくることなんて百も承知かしら。あまりルーをバカにしすぎると、加減をしなくなるかもかしら。…ソルト、こいつはルーが始末するのよ。手出しは無用かしら」


 腕を組んで言う様は、ノエルより背は低いのに、威厳に満ちた、女王のような風格を兼ね揃えていた。


 ノエルはその態度に不快感を感じ、ルピスに向かって手を翳す。

 巨大な魔法陣がルピスの方向に現れ、光を放ち始めた。


「魔女キルケよ、我に力を与え給え…」


 魔法陣の輝きがだんだんと黒くなって行き、やがて中心に黒い玉が生まれ、そしてそれは幾千もの剣を形作る。


「いくら貴女でも防げないでしょう?…降り注げ、闇の剣よ!」


 切っ先がルピスへと全て向き、そしてそれは凄まじいほどの速度となってルピスに襲いかかる。

 一方ルピスは、その剣が形成され、放たれてなお、少しも動くことはしなかった。

 ただ、剣を冷めた表情で見つめていただけ。


「少しは面白いものでもやると思ったのに。…退屈すぎてどうしようもないかしら。目障りなのよ」


 それらすべて、ルピスに刃が届く瞬間、ピタリと

 呆気に取られるノエルは、動くことはできない。


「言ったはずかしら。ルーを殺そうなんて、一万年は早いと」


 剣の切っ先すべてが、ノエルに向く。

 その時初めてノエルの表情から笑みが消え、代わりに恐怖が浮かぶ。

 ルピスは、手を動かしてもいなかったのだ。

 魔術師は簡単な魔法以外、全て手で動きを表し、操る。

 複雑な魔術ならば詠唱もして、手で操る。

 しかしルピスはこの大量の剣を、ほかの魔術師がかけた術を解きそして操ることを、手を使わずに、動きもせずに行った。

 他の魔術師が施した術を解くのも簡単ではない。

 幾千の剣を操ることも、難しい。

 しかし。


使というの…?」


 その呟きは、剣が降り注ぐ音にかき消された。

 ノエルがいた場所に、剣の塊ができる。


「…国最強の魔術師に喧嘩を売ったお前がバカなだけかしら」


 その言葉は、まるでその肩書きを嫌がるかのような声色であった。


「……殺したの?」

「殺してはいないかしら。剣の檻を作ってやったのよ。考えて、一本ずつ剣を外していけば外に出られるかしら」


 殺してはいない、という言葉にソルトはホッとする。

 が、よくよく考えればひとつ間違えれば死ぬんじゃないのかそれ、と思い至るが意見を言うことははばかられた。

 怒らせたら、絶対怖い。

 ソルトは味方であってよかったと胸を撫で下ろすのであった。


「ところでソルト」

「ん?」

「お前が塔を破壊したから、ルーの家が消し飛んだかしら」


 …どうしたものか。

 ソルトは苦笑いをしつつ、頭を抱えるのであった。

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