13 青き巫女の力

 二刀の刀を弾かれ、くるくると回転しながら着地するソルト。

 その横に、ルピスが立つ。


「…ルーに治癒術は使えないかしら。怪我はするなかしら」


 見下すような瞳でソルトを見て、次に飴玉少女を見る。


「…なにが目的かしら」

「………わかるでしょう?巫女を殺して、竜も殺して、魔女キルケ様を復活させるのよ」

「不届き者かしら。胸糞悪いのよ」


 ソルトはゴクリと唾を飲み込んでいた。

 

 である。

 黒髪のエルフの姿であったとされているが、詳しくは不明である。

 聖竜と呼ばれる4匹の竜によってその身を封印されており、しかし殺すことは叶わず、かもしれないのだ。

 その名前を呼ぶのは禁忌とされており、魔女の名前を呼んだ者は嫌われる。

 最悪の場合、罰が与えられる。

 それほどまでに、恐れられる対象なのだ。


「魔女…」

「だからあなたを殺すのよ。わかったら大人しくしなさい?」


 ソルトは少女が飛ばした炎を搔き消した。

 ルピスがフンと鼻を鳴らす。


「お前如きがルーを殺そうだなんて一万年早いかしら」


 一歩も動かず、ルピスの周りに雷の矢が現れる。

「それもまた一興」と少女は嬉しそうに呟いて、特徴的な形の剣を抜き放ち、身構える。

 少女が飛び出したのと同時に、ソルトも前に出た。

 いつまでも見物決め込むのは趣味じゃない。

 そう胸中で呟いて、少女の剣と自らの二本の刀を打ち合わせる。

 金属音が辺りを埋め尽くす中、ルピスの援護射撃が入る。

 多勢に無勢。少女は冷や汗を流した。

 しかしその顔から笑みは消えない。


 再び前に出る少女の刃とソルトの刀が打ちあう。その数、五合。

 一本の刀の刃が欠けるのをキッカケに、少女の刀が追い打ちをかけ、ソルトの刀が一本、吹き飛ぶ。

 ルピスが飛ばした水弾を弾き、剣を、瓦礫に座って退屈そうに欠伸をしているルピスへと投げる。


「不意打ちはさすがに防げないでしょう!私の勝ち…!」


 少女は勝ちを確信し、ソルトは慌てて背後を振り返った。

 そこには、剣に貫かれ、血を広がらせ、地面に倒れるルピスの姿があった。

 表情は、ソルトの位置からは見えない。


「ルピスっ!」

「まあまあまあ。そんなに慌てなくても、すぐに後を追わせてあげるわよ」


 剣を回収し、にっこりと笑顔を見せる少女。

 しかしその目は笑っておらず、暗い、暗い狂気の光を宿らせていた。


「さて、まだ名前を名乗っていなかったわよね。…私はノエル。…ウフフ、よろしく♡」

「……殺すッ」

「まあ、怖い顔。せっかくの美人なんだし、台無しにしたらいけないわ」


 目を細め、楽しそうに笑うノエルは、一瞬でソルトの目の前へ躍り出る。

 ソルトは思い切り一本の刀でその体を吹き飛ばした。


「…けほっ。…あら…巫女よりも手強いんじゃないかしら?」

「巫女という言葉がルーを指しているのなら、心底ムカつくかしら」


 ノエルの背後に現れ、そう囁いたのは、先ほど剣に貫かれていたルピスであった。

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