11 エルフの森

 エルフの森はウィルガーンから南西、王都ヴァルカナから南東の位置にある。

 ウィルガーンとヴァルカナの間にある森から続いているのだ。

 鉱山とはまた真逆に位置し、自然豊かで美しい森。

 太古昔にエルフの賢者が植えたとされる大木が中心にあり、そこから広がったことによりエルフの森とされている。

 エルフが住んでいるわけではないのだ。

 その森を越えれば、国を跨ぎ、隣国との境界線となっている大河がある。

 大河から細く伸びた川が、森の中心部で湖を作っていた。


 今回、ペガサスが集まっているのはその湖と聞いている。

 数回、この森に訪れたことのあるソルトは、迷わず湖まで向かっていく。


 歩き続け、少し開けたところに出たとき、人とすれ違った。

 飴を舐めていて、でもフードで顔が見えない少女。

 こちらを見ているような気はしたが、さして気にも止めなかったが。

 よくよく考えれば、おかしな話である。


「なんでこんなところに人が…?」


 足を止め、振り返る。

 しかしその少女は、既に姿を消していた。

 悩んでいても意味はない。

 そう判断したソルトは再び足を進めた。


 湖は深い青の色で、太陽の光を反射してキラキラと光っていた。

 そのほとりに、純白の翼のある馬が四頭、水を飲むなどして過ごしていた。

 非常に美しい光景に、思わずソルトは息を飲む。

 しかし、うかうかしてはいられない。

 刀を抜き、ペガサスへと歩いて行く。

 こちらに気づいたペガサスが一頭、嘶きを挙げた。


「__ごめんね」


 一匹ずつ、逃げ惑うペガサスの首を落としていき、歩を進めた。

 しかし、数が少なくなるにつれ、異変が生じた。


 最後の一匹。

 その一匹の様子が、おかしかったのだ。


 赤黒い瘴気を身に纏い、ぎらつく瞳でこちらを見据えている。

 先ほどまでは、こんなことなかったのに。

 ソルトは戦慄していた。


 そのペガサスは一直線にソルトに向かって走ってきて、片方の剣を弾き飛ばす。

 ソルトは残った刀を右手に持ち、手を抜く余裕はないと身構えた。


「何が起こってるの…」


 再び向かってきたペガサスの翼を掴み、地面へと叩きつけ、右前足を切り落とす。

 返り血で頬が赤く染まるが気にせず右後ろ足をも切り落とし、暴れるペガサスによって吹き飛ばされた。

 受け身をとって体制を立て直すソルト。

 刀を握り込み、ペガサスへと走る。

 嘶きを挙げ、くるりと背を向けたペガサスは後ろから迫る刀に翼を射抜かれる。

 ソルトは墜落するペガサスの首筋を掴み、蔦の生い茂る岩へとぶつけようと放り投げた。


 しかし、予想に反し、ペガサスの体は蔦を越え、その向こうへと飛んで行ったのだ。

 同時に、何かが崩れる音。

 ソルトは刀二つを回収し、慌てて音のした方向へと向かった。

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