二章 青き巫女

10 ペガサス

「もういいよ。骨もちゃんと繋がってるし、動かせてるし。」

「いいの?ありがと!」


 花の咲くような笑顔を見せるのは、淡い桃色の髪の少女、ソルトである。

 数週間前、セイレーンと戦闘を行った時に右手右足の骨を痛めていたのだが。


「痛かったりしたらすぐに言ってね」

「はーい!」


 元気いっぱいの返事を受け、カイルは苦笑する。


 きっとまた、ソルトは神話生物を狩りに行くのだろう。

 狩人は普通、若くても二十歳を過ぎてから成る者が多い。

 それを目の前の少女は、十五という若さで、熟練の狩人と同等かそれ以上の戦績を叩きだしているのだ。

 無茶をするな、と言っても聞かぬのだろう。

 また無茶をして、また怪我をして。

 命を落とす可能性だって無くはないのだ。

 けれど、また向かっていくのだろう。


「……ソルト」

「ん?なぁに?」

「君が、どれだけ無茶をしても、俺が跡形もなく、治してあげるから。だから、心配しないで、いいから。」


 ならば伝説とも言われる自らが持つ治癒術を、彼女の運命に少しでも役に立てようと、カイルは心に決めている。

 強さを求め、必死に抗う少女に。


「わかってるよ」


「私は、カイルを信じてるからね!」


 に、とソルトは笑った。

 剣を片手に、部屋を出て行く。

 ガルドの呆れた声が聞こえた。


「……まいったな、ソルトには敵わないね」


 カイルは呆れたようにため息をつくのであった。



「ペガサス?」

「そうペガサス」

「ペガサスってあの?」

「そうあのペガサス」

「羽の生えた馬?」

「他に何が居るんだよっ!!」


 ドン、とカウンターを叩く男が一人。

 通り過ぎる人が数人、こちらを向いた。

 話し相手であるソルトは楽しそうにケラケラと笑った。


「ごめんって。で、ペガサスの階級は?」

「ったく。ええと、C級だな。S級とかA級とかは確実に居ないから安心しろ。この前は悪かった」


 この前とはセイレーンの時であろう。

 B級だと聞いていたが、S級が現れたのである。

 調査不足だと罵られる可能性もなくはなかったが、こういった誤報は少なくはない。

 よくあることだよ、死んで無いんだしもういいよ。

 そう言って、ソルトは笑ったのであった。


「南西の、エルフの森の湖の近くだ。数は三、四頭だと聞いているが…受けるか?」

「受ける受ける。報酬は?」

「ペガサスの羽と、一万マニーだ」

「了解っと。」


 ペガサスの羽はお守りになる。

 買い手は多いだろうし、なによりペガサスのお守りは非常に効くことが多い。


 ペガサスとは、羽の生えた馬である。

 神話生物の中でも温厚で、人を襲うことは少ない。

 が、その背に乗ったが最後、命あって帰ってきた者は居ない。

 空高く飛び上がり、何処かに連れて行かれるのだ。

 故に、誤って乗ってしまう者が出ないよう、狩らなければならないのだ。

 ソルトとしては神話生物の中で最も憎めない生き物で、狩ることにいささか抵抗があった。

 ペガサスの上で剣を振れば、高い場所にいる相手とも戦える。

 神話生物の中で唯一、飼いならしてもいいと思っている相手であった。


「じゃ、私は明日行くことにしようっと。予約よろしくね」

「了解」

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