6 鉱山

 セイレーンがたむろしているという東にある鉱山は、ウィルガーンの目と鼻の先にある。

 北西にある王都とは逆方向に ある鉱山は鉱石が多く、鉱石を掘って生業にしている者もいる。

 また、南東に向かって進めば海もあるため、魚もよく取れる。

 海に出現しやすいセイレーンが鉱山にいるのは、近くに海もあるということもあるのだろう。

 海では魚、山では鉄鉱石。

 ウィルガーンが栄えている理由とも言える。


 ソルトが行くのは、そんな鉱山の麓である。

 二刀の刀を腰に差し、ただひたすら歩く。


「なんだ、ソルトかあ?気をつけろよ、この先やべえぞー」


 ふと声のした方向に顔を向けると、作業服に身を包んだ男がソルトに向かって手を振っていた。

 男の視線はソルトの顔から、腰まで下がり、剣に止まる。


「狩りに行ってくれるのか!気をつけろよ!」

「そうよ。帰ってきたら綺麗な宝石をちょうだいね!」

「しっかたねえなあ、持ってけ持ってけ!」


 チャンスとばかりに叫べはやけになったような声が聞こえてくる。

 その言葉に瞳を軽く輝かせたソルトは、足取りが軽く麓まで向かっていった。


 麓に近づくたびに、空気が重くなっていくのを感じる。

 岩陰からそっと広がっている場所を覗けば、確かにセイレーンがいた。


 上半身、いやむしろ頭部は美しい女性の顔である。

 そして下半身は力強い羽ばたきを見せるのであろう白い体。

 その大きさはソルト2人分程であろうか。とにかく大きい。

 人間など丸呑みしてしまいそうである。


 ソルトはしばらく様子を見ていたが気づく様子はない。

 スラリと刀の刃を剥き出しにして、機会を伺う。

 そして、地面を蹴った。


 数は5匹。

 隠れていることも無くはないため、7匹から8匹いる気持ちで飛び込んだ。

 1匹目の首を素早く切り落とし、異常に気づいたもう一匹が声を上げる前に首を落とす。

 さすがにそこまでやるとそこにいた全てのセイレーンが気づいた。


「……狩られたいのはどいつかしら」


 返り血を拭い、ニヤリと不敵な笑みを零す。


「……ああ、客か。すまないね、今は相手する暇がないのでね」


 すぐそばで声がした。

 囁くような、耳に息がかかる程近い場所で。

 すぐに振り返るが誰もいなかった。


「…困るんだよ、勝手に殺されちゃ」


 再び後ろからの声。

 姿の見えない謎の相手に、冷や汗が滴る。


「…僕の可愛い子供達を殺されちゃ、ねえ」

「誰なのっ!」


 思わず叫んだ。

 どうしようもないほど不安と、恐怖で埋め尽くされる。

 こんな経験は一度もない。

 神話生物を狩ることを願う者はいても、止める人なんていない。

 ソルトは冷や汗を拭った。


「……ここだよ」


 不意に、頭上から声がした。

 否、違う。


 背後にいた巨大なセイレーンであった。

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