ネカマット

@Rougoku540

戦火の日々

 様々な人で入り乱れる王国、スィムハー。この国は、国の北東部には森があり、南西には砂漠が広がっている。さらに南東と北西には、他の国が存在している。

 また、この国は住民が陽気なことでも有名である。昼には、時計塔が中央に立つ大広場で、吟遊詩人や楽団などの催しごとが開かれる。一方夜になると、各地に点在する酒場で、どんちゃん騒ぎが起こっている。観光先としても人気の国で、彼らに混じり他国のギャンブラーや音楽家が、足を運ぶほどである。

 しかし、この国が陽気な国として知られていたのは、4年ほど前までだった。今では、隣国と頻繁に戦争を起こしていた。住民は、避難しながらの生活を強いられた毎日だった。農業は発展していたため、食料の面は問題なかった。問題となっていたのは、人材面だった。国の男衆は兵士へと駆り出されていき、そこでは生きるか死ぬかの毎日だった。挙句の果てには、18歳以上の男は兵役の義務が与えられた。逆らえば、処刑。

 現在は、北西に位置した隣国、マヴェットとの戦争が勃発していた。南東の国と中立条約を締結した直後に、マヴェットの王は戦争を仕掛けてきたのだ。


「大変です、マヴェットが進軍を開始いたしました!」

 スィムハーの監視員が、早急に国王へ報告した。

「またか、迎え撃て!」

 国王は、監視員に強く命じた。命を受けた監視員は、すぐに城内で兵士をまとめていた兵団長に伝えた。

「よくやった、ご苦労。君は持ち場に戻れ、ここは我々で何とかしよう」

「はっ‼」

 監視員が持ち場に戻った後、兵団長は副団長などを呼び、作戦会議を開いた。

「さて、どう攻めるか。ハヤブサはどうした」

「ここに。部下の一人が、このようなものをくすねてまいりました」

 参謀家のハヤブサが、兵団長に2枚の巻紙を渡した。それは、マヴェットが用いようとした陣形の図と、その国の地図だった。しばらくの間、兵団長は2つの図をじっと見ていた。地図には、いくつかの砦、入り組んだ道などが記されていた。

「ふむ、これならば、ここの道から少数で攻めたほうがよいな」

 地図を指さしながら作戦を語る兵団長に対し、副団長が聞いた。

「なるほど。あの国は砦も多い。しかし、言うは易く行うは難しの策。回り込みなど、危険です。誰が行いましょう」

「そこは問題ない。わしと、トオルに行かせるか」

 自信たっぷりな兵団長の言葉に、副団長はたじろいだ。

「なんと? 彼は齢18の青二才。そのような大役が果たせましょうか」

「問題はない。この程度の道であれば、思う存分力を振るえる。心配ならば、後衛を固くしろ」

「ぎ、御意」

 作戦会議は終了した。

「全軍、これから名を呼ぶものはわしについてこい!それ以外の者は防衛につとめよ!」

 

「聞いたか? あの国、ガキまで兵士に駆り出しやがったってよ」

「そうだな。見つけ次第、痛い目にあわせるか」

 前衛にいたマヴェットの兵士たちは、余裕そうに会話をしていた。

 すると、相手の国の兵団が押し寄せてきた。

「お、見えてきた。どれ、こちらの力を見せつけねぇとな」

 自信たっぷりに構えた兵士だったが、相手の姿がはっきりした途端、一気に青ざめた。自信は、驚きに変わった。

「な、なんだありゃあ⁉」

 兵士に混じり、ひときわ巨大な兵士がいた。大きさは、10尺前後か。

「構えろ、あいつを倒せば、戦力を削っ——」

 言い終わる前に、兵士は吹き飛ばされた。続いて、そんな彼の後ろに控えていた兵士たちも、風に吹かれた落ち葉の山のように吹き飛んでいった。

 錫杖を槍のように振るいながら、巨兵は進んでいく。敵国の兵士が放った銃弾も、刀による斬撃も気にせず、邁進していく。

 しばらく進んでいくと、道が3つに分かれたところに出た。兵士たちは左右の道へ進んだ。敵国に、新人兵士の邪魔をさせないためだ。

 マヴェットの砦では、兵士たちが迎撃のために準備をしていた。前衛が突破されたと聞いたためだ。

「敵を確認。一番、放てーっ!」

 しかし、いざ砲撃をしようとした途端、砦が音を立てて崩壊した。一つに限らず、他の砦も崩壊した。なんと、先手を打たれていたのだ。しかも、に。

「なんてことだ……」

 崩壊した砦から脱出した兵士は、その相手を見て愕然とした。逃げることも、立ち向かうこともできず、その場から動くことすらできなかった。

「魔訶般若波羅蜜多心経‼」

 地を割くかのような雄叫びを上げ、貯めた力を錫杖から放出した。この巨兵を中心に、甚大な光の爆散が起こった。同時に、マヴェットの兵士たち、砦、騎兵は粉砕され——後に残ったのは、建物(と中で避難していたマヴェットの国民)と、スィムハーの兵士たちだけだった。


 マヴェットの国王は、負けを認めた。しばらくの間は、戦はないだろう。しかし、また数日後には戦が始まる。スィムハーの国王は、そう予感していた。

 後日、マヴェットの兵士たちの葬儀が行われた。そこには、スィムハーの兵士も何人か出席していた。不思議に思った市民の一人が、殺されることを覚悟して質問をした。

「あの、なんで出席されたのですか?」

「俺にもよくはわからねえ。ただ、今年入団した新入りが、この葬儀への出席を望んだもんだから、ついてきただけだ。ったく何考えてんだか、あいつは」

 

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