第四話 緊急事態とヒミツの扉

 お互いに顔を見合わせた眞白とアキは、瞬時に地下へと急ぐ。

 眞白の頭に止まっていたワトソンは振り落とされないように必死に眞白につかまった。


「トウマさん、どうしたんですか!」


 螺旋階段を降り眞白が駆け込んだ場所は、モニターのたくさんあるラボだ。

 その前で、あたふたする一人の男性がトウマである。


「あの、アイツが……」


 トウマは、一つのモニターを差す。

 モニターの中に二人の人間が映っていた。

 一人は、眞白の担任教師。そして、もう一人は……


「サキさん!?」


 そう、眞白がさっき送り届けたはずのサキがそこに映っていた。

 路地裏に追い詰められた彼女は担任をきっとにらみつけている。


『………………』


 画面の向こうで何かの会話が繰り広げられている様子だが声が聞きとれない。


「トウマさん、映像いいから音量最大!」


「わかった、ちょっと待ってくれ」


 トウマが音量を上げようとして、手元の小さな機械をいじる。しかし、なかなかうまくいかない。その間にも、担任はサキに迫っていて、眞白はついにしびれを切らした。


「どいてください」


 自分で機械の操作を始める。眞白が触るとほぼ同時に、音声が格段にクリアになり映像が途切れた。


『……っぱり、先生が、先生が私を尾行していたんですね、ずっと!!』


 モニターから聞こえるサキの声。

 緊迫したその様子に、その場にいた全員が息を飲む。


『何言ってるんだ。私は、君が一人で暗い路地に入っていったから心配して追ってきたんだよ。さあ、サキさん戻ろう』


『嘘です! きゃっ、やめて、近づいてこないで』


 ばたばたと言う足音、もつれあう衣服の衣擦れの音。

 そして響くシャッター音。

 ラボの中には静寂が訪れた。


『いいのかなー。こーんな写真同級生に見られちゃったら』


『それが先生の本性ですか……』


『あれー? そんな余裕ぶってていいんですかー? やっぱ、ばらまいちゃおっかな』


『やめて、ください……』


 力なくいうサキ。


『じゃあ、俺が言ったようにしてくれるよね?』


 脅迫めいた先生の言葉。

 しばらく戸惑ったあと、サキがうなずく気配がした。


『そっかー。やっぱりサキさんは、いい子だ。それじゃあ、行こうか!』


 弾んだような担任の声とともに、音声が途切れる。

 眞白が、音声を受信している機械にイヤホンを差し込んだのだ。


「これは、ほんとに緊急事態ですね」


 沈黙が続いていたラボに突然、眞白の声が響く。


「眞白君……」


「なんですかぁ?」


 問いかけたトウマの言葉に眞白は振り向く。

 その恐ろしいほどの笑顔に、アキとトウマは凍り付いてしまう。


「僕、行かなくちゃ」


 ふらふらと歩きながら眞白は、ラボの一角の壁へと向かった。

 壁に眞白が触れた瞬間、現れひとりでに開く扉。

 その扉は奥の部屋へとつながっていた。

 眞白が入り扉が閉じられたとともに、基地内へと轟音が広がる。


「ふはははははは」


 そして広がる眞白の笑い声に、基地内すべての人が恐怖する。


「それじゃあ、行ってきますね」


 扉を開けて出てきた眞白は、皆に笑顔を振りまきながら言った。

 その場で臆してないのは眞白の頭の上にいたコウモリであるワトソンだけ。


 ワトソン2号はくすくすと笑いながら言った。


「特殊能力を持たない吸血鬼ヴァンパイアの力、見せてやろーぜ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る