第13話 制裁 ――その③
それから1週間後、放課後のグラウンドには、サッカー部員が上級生と1年生に分かれて散らばっていた。
いよいよ、先輩たちとの紅白戦である。
コイントスで純一と向かい合ったキャプテンが、「お前とはいつも一緒にプレーしてるが今日は敵同士だ。お互い全力を尽くそうな。」と声をかけている。
事情を知らない人間が聞けばスポーツマンらしい爽やかな激励に聞こえるだろうが、治樹たちには白々しい戯言にしか思えなかった。
その演技に対抗するように全く屈託の感じられない笑みを向けて、「はいっ、お願いします。」と模範的に応じると、純一は足元にボールをセットした。
それを確認して、審判役の生徒が笛を咥える。
ピ――――!!
試合が始まった。
治樹と純一は近距離でめまぐるしくポジションをチェンジしつつ、ダイレクトでショートパスを交換し合う。
相手が純一にマークを集中させて徹底的に叩く作戦で来るのは目に見えていた。これはその対抗策であり、狙い通り先輩たちはプレッシャーを掛ける的を絞りきれずに、純一への圧力がやや緩慢になった。
上級生チームが焦れて前がかりになったところで、2人は一気にペースを変えた。ボールを純一に預けた治樹は、物凄い勢いで前線に駆け上がっていく。
意表を突かれた先輩たちは、慌てて治樹へのパスコースを消しにかかった。
その瞬間、純一は上級生チームのフォーメーションの乱れを突いてドリブルに転じ、中央突破で相手陣内に切り込んだ。彼らはすぐさま陣形を立て直して純一に当たりに行ったが、間合いを詰められる前に純一はあっさりとボールを前線に送る。
DFの最終ラインとGKとの間にコントロールされたグラウンダーのボールに反応できた者は誰もいなかった。
ただ1人、治樹を除いては。
治樹には、俄かに生じたそのスペースこそが相手にとって最大のウイークポイントである事がはっきりと感じられた。そして、純一も同じスペースを見つけているだろう事を疑わなかった。
GKと1対1の状況でパスを受けた治樹は、余裕を持ってゴール右隅にシュートを流し込む。試合開始早々の先取点は1年生チームにもたらされた。
「よしっ!ナイスシュートだ!!」
純一の声に、親指を立てて応える治樹。
やっぱり純一はすごい・・・治樹は改めてその事を実感していた。
目眩ましの策を用意したとはいえ、上級生チームが純一に掛けてくるプレッシャーは治樹へのものとは段違いである。
その厳しいマークの中で、純一はやすやすと2人の先輩を抜き去り、絶妙のタイミングで治樹へのピンポイントのパスを放ってみせたのだ。
こいつがいれば、上級生チームに勝つのも難しくは無いんじゃないか・・・?
治樹が抱いた期待は、あるいは間違っていなかったのかもしれない。しかしそれには、上級生チームがフェアプレーで挑んでくればという条件が付いているという事を、治樹は直後に思い知った。
いきなりのゴールは、先輩たちの昏い熱意に火をつけてしまったらしい。その後の純一へのマークは、常軌を逸していた。
複数人に囲まれた純一は、裾を、あるいは袖をつかまれ自由に身動きすら取れない。
なんとか振り切ってボールを受けたら、今度は足元を目掛けて強烈な蹴りが飛んでくる。ボールに当たろうが、純一の脛に当たろうがお構いなしだった。
「うくっ・・・・・・!」
堪らずうずくまる純一。だが、笛は鳴らない。
治樹は咄嗟にこぼれ球を大きく外に蹴りだして、純一のもとに駆け寄った。
「おいっ!大丈夫か!?」
純一はすぐに立ち上がると、足をぶらぶらさせながら、「なんとも無いさ、こんなの。」と笑ってみせた。明らかにやせ我慢をしている表情だ。治樹はギリッと奥歯をこすり合わせて、純一に蹴りを見舞った先輩を睨みつけた。
「あ?なんだよ。お前何か文句あんのか?」
治樹の視線に気付いた先輩がすごむ。
思わず前のめりになった治樹の腕を純一が捉えた。
「よせよっ、こう来る事は初めから分かってただろ?取り乱してんじゃねぇ!」
そう、予想していた事ではあったのだ。1年ごときにもし追い詰められるような事があったなら、彼らがどういう手に打って出るか・・・プライドを傷つけられた先輩たちがラフプレーを連発するのは想定の内だった。
しかし、まだほんの序盤で、上級生チームのビハインドはたったの1点だ。
暴挙に出るには早すぎないか・・・?
それに、上級生チームのプレーに対して、まだ一度も笛が吹かれていない。先輩たちはどうやら審判を務めているマネージャーまで懐柔済みらしい。
わざわざこの試合が顧問の先生のいない日に組まれた事も含めて、よく考えてみれば用意周到すぎる。
追い詰められた時には上級生としての面目を保つためにラフプレーに頼る?
その程度の想定しかしていなかった事が根本的に甘かったのではないかと、治樹は思い直し始めていた。
もしかしたらこの試合自体が、そもそも“制裁”を目的としたものなのかもしれない・・・嫌な汗が治樹の背中を伝った。
治樹の危惧した通り、純一を削る先輩たちの当たりの激しさは、その後も苛烈を極めた。まるでラグビーのようなチャージが純一を襲い、幾度と無く純一は地面に這いつくばった。
「っ!今のは明らかにファウルだろっ!」
業を煮やして声を荒げる治樹。
最早、敬語を使う余裕すら失っていた。
「経験の浅い1年が知った様な口利くな!!」
間髪入れずにキャプテンの怒声が響いた。
「俺たちはな、将来有望な純一クンに身をもって弱点を知ってもらおうと体を張って指導してるんだ。この程度の当たりで吹っ飛ぶってのは、まだまだパワーが不足してる証拠だな。」
一転して和やかにそう語るキャプテン。諭すような口調がいちいち癇に障る。
冗談じゃない。こんなのがサッカーじゃない事くらい小学生だって分かる。
先輩たちの行為の数々は治樹の忍耐の限度をとっくに越えていたが、それでも先輩たちに飛びかからずにいられたのは、理不尽な仕打ちを受けている当の純一が淡々とプレーしているのに自分が我慢しない訳にはいかないという心理が働いたからだった。
不当な手段で司令塔を封じられた1年生チームは、上級生チームにいいように攻め込まれ、結局3点ビハインドの1‐4で前半を終了した。
ハーフタイムに入るなり、治樹は強い口調で純一に訴えた。
「やってられるかっ!もうこんなくだらない試合に付き合う必要はねえよ。やめだやめ!棄権するぞ!!」
純一は静かに首を横に振った。
「まだ諦める点差じゃねえって。色々修正すれば追いつける見込みはあるから心配するな。」
「もうそういうレベルの話じゃねえだろ!!」
純一の返事を聞いて、治樹は声を張り上げずにはいられなかった。治樹がどういうつもりで棄権しようと言い出したのか分かっているのに、わざとその意図を無視して点差のみにフォーカスした回答をしているとしか思えない。
食い入るような治樹の眼差しをじっと見返して、純一は胸中を語った。
「ここで逃げたら、その後はどうするつもりだ?
俺にはもうこの部しかサッカーできるところが残ってねえんだ。ユースチームの方に入る事はオヤジから許可されなかったからな。
俺が高校でサッカーやり続けるには、この部を変えてくしかねえんだよ。」
そうか、そうだった・・・自分と比べて純一はサッカーに注ぐ情熱が桁違いなんだ。
治樹もこれまで不真面目に練習してきた訳では無いが、ここで棄権しようと言ってしまえるのは、いざとなればサッカーをやめればいいと考えられるからに他ならない。
治樹はサッカーが好きだった。しかし、治樹にとってのサッカーは、決して代替のきかないものでは無いのだ。それに対し、純一にはサッカーの無い人生など考えられないのだろう。それほど純一の心にはサッカーが深く根ざしているという事を、治樹は改めて実感させられた。
言葉を失った治樹に、純一は明るい声を投げかけた。
「なあに、楽勝だって、こんなの。まあ見てろ、俺はああいう当たりをする奴らのあしらい方ならよく知ってるんだ。
第一、俺の目標からすりゃあ、今日の試合はまだ1合目ってとこだろ。こんなところでつまずいてられっか。」
多大な鬱憤は残るものの、治樹はその言葉に笑顔で応じた。
「分かったよ、もうあれこれ言わねぇ。それよりお前、前半の途中からボール持ちすぎだぞ。ただでさえ標的になってるんだ。こっちにもどんどんパス回せ。」
「ああ、後半は気をつけるよ。」
曖昧な笑みを浮かべて治樹の忠告をさらりと流す純一の態度に、治樹は1つの確信を持った。
(純一のやつ、ワザとパスを出さずに自分でボールキープしてるんだ。)
ボールを持ったときに自分に降りかかってくる暴力的なプレーが、パスの受け手の方に向かうのを危惧しているのだろう。純一は、周りを巻き込まずに全て1人で背負い込もうとしているのだ。
(くそっ、カッコつけてる場合かよっ!)
今、治樹が出来る事は、なるべく純一に負担が掛からないようサポートする事だ。
何とか無事にこの試合を乗り切るんだ・・・その決意を胸に、治樹は後半の笛を待つピッチへと駆け出していった。
後半開始直後、ボールを持った純一はすぐさま治樹にパスを出した。
(おっ。)
自分の進言は無視されるものとばかり思っていた治樹は意外に思いつつも、自分も純一に倣ってプレッシャーがかかる前にパスを返した。
(よしっ、パスを出してくれるなら・・・)
治樹はパスを受ける最良の場所を探した。そして、相手陣内深くに絶好のスペースを見つける。全速力でそのスペースを目指す治樹。純一はそれに合わせてパスを出すべく足を振り上げた。
ドンピシャリのタイミングだ。
しかし、治樹の元にパスは飛んでこなかった。パスフェイントにつられた自身へのマークを振り切り、純一はドリブルで猛然と駆け上がった。
おそらく先程のパスは、「パスもある」と相手に思わせるための布石だったのだろう。やはり純一は自力で包囲を突破するつもりなのだ。
純一に向かって、DFの1人が突っ込んでくる。不自然に前傾した姿勢で・・・
抜かれないためのディフェンスならああいう姿勢にはならない。思いっきり体当たりをかまそうとしているのは明らかだ。
それに対し、純一は同じように体を前傾させ、真正面からDFに向かっていく。
(まさかっ、そのまま当たり返すつもりかっ!?)
ついに純一がキレた!?それにしても無謀すぎる!!
いよいよ2人が衝突するかに見えたその瞬間、純一はひらりと身を翻した。
軽やかなクライフターンで、見事にDFの先輩を抜き去る純一。
触れる事すら許されずに肩透かしを食った先輩は、思わずつんのめってたたらを踏んだ。相手の気勢を巧妙に利用したフェイントである。ラフプレーのあしらいに慣れているというのは本当らしい。
純一に向かって、さらに2人のDFが突進してくる。しかし、純一は既に相手ゴールを自らのシュート圏内に捉えていた。彼らに間合いを詰められる前に、純一はシュートの体勢に入った。
その際に生じた一瞬のスピードの緩みが、純一にとって致命的だった。
背後の死角から、キャプテンが強烈なスライディングを仕掛ける。
「があっ!!」
カニ挟みのように両足を絡めとられ、純一の体が宙に浮いた。
追い討ちをかけるように、DFの1人が純一に容赦の無いタックルを見舞った。
もつれ合うように地面に激突する純一。
「ぐあああああああああああああああああああっ!!」
凄まじい絶叫が、グラウンドにこだました。
冷たい手で心臓を鷲づかみにされたような寒気を覚えつつ、治樹は脇目も振らずに純一に駆け寄った。
勝手に浮かんでくる嫌な想像を懸命に頭から振り払う。
そして、純一のもとにたどり着いた治樹が見たものは、想像を上回る光景だった。
膝が・・・左膝がありえない方向に曲がっている。
倒れ込んだまま足を抱えるように身を丸める純一の蒼白な顔には、大量の汗が噴き出していた。
「・・・救急車。」
治樹の口から、うわ言の様に言葉が漏れた。
凍りついた空気の中、それに反応するものは一人もいない。
「救急車だっ!!早くっ!!!!」
体の中の空気を全て吐き出すように治樹は声を張り上げた。
「あ、ああ・・・」
青ざめた顔でそう応じるキャプテン。おそらくは今回の制裁試合の主導的立場にあるはずだが、あまりもの光景を目の当たりにしたショックか、隠しきれない動揺が垣間見える。
もはや、試合を続行するどころの話では無くなっていた。せわしなく走り回って氷嚢を持ってくる者も、ピッチに呆然と立ち尽くす者も、皆が一様に押し黙っていた。
「じ、純一・・・」
何と声を掛ければいいか分からない治樹は、純一の傍らで恐る恐る名前を呼んだ。
「鈴・・・掛・・・、脚が・・・俺の・・・脚がっ・・・」
硬く閉じられた純一の目尻は、滲み出した涙と大量の汗でてらてらと光っていた。
「純一・・・!純一っ!!」
それを見つめる治樹の心を支配していたのは、かけがえの無い物を一瞬で奪い取られた虚無感だった。
膝の骨折、後十字靭帯完全断裂、前十字・内側側副靭帯部分断裂、およびアキレス腱軽損傷・・・それが医師の下した診断だった。緊急で手術が行われたが、術式後の医師の宣告は無情なものだ
った。
「1年もすれば、普通に日常生活を送れるくらいに回復するでしょう。軽度の運動も可能です。ただし、大きな損傷を受けた関節が元通りの柔軟性を取り戻す事はもはや無いと思われます。
怪我の再発防止のため、その後も激しい運動は控えていただく事になります。」
それは、取りも直さず、純一の選手生命が絶たれた事を意味していた。
数日後、治樹は純一の病室を見舞いに訪れた。
「鈴掛、来てくれたんだな。」
明るい声でそう迎えたのは、同じく見舞いに来ていた純一の妹、智子だった。一方、純一は口をつぐんだまま、生気の感じられない眼差しを治樹に向けた。
この間までとはまるで別人と化した純一の表情に、治樹はゾッとした。
「も、もうすぐ退院できるんだってな。よかったじゃねぇか。」
治樹は努めて平静を装いつつ、重苦しい空気を振り払うかのように、にこやかに声を掛けた。
「ああ、そうだな。」
純一の声からは、かつて満ち溢れていたたぎるような情熱が、すっぽりと丸ごと欠落していた。
言い知れぬ寂寥感が、治樹の胸に押し寄せてくる。
こんなところで彼の夢が終わってしまうなど、治樹には絶対に認められなかった。
「俺は・・・俺は信じて待ってるからな!1年なんてあっという間だよ。お前が戻ってくる頃までには部内のいざこざなんか全部片付けといてやる!
お前は安心してリハビリ受けてりゃいい。来年か再来年には、予定通り2人で県の上位チーム相手に暴れ回ってやろうぜ!」
勢いに任せてまくし立てる治樹を、純一はじっと見据えていた。
その瞳には、静かな怒気が揺蕩っていた。
「来年か・・・再来年だって・・・?お前も医者から聞いてるんだろ?もうこの脚はガラクタなんだよ。ある程度プレーできるようになったとしても、キズモノになった選手に注目するバカなスカウトなんている訳がない。」
そう吐き捨てた純一は、視線を落として、憔悴した表情で呟いた。
「終わったんだよ・・・もう、終わったんだ・・・」
脱力しきった純一の姿を見て、治樹は純一が本当に別人に成り果ててしまったかのような感覚にとらわれた。
自分の知っている純一は、もうここにはいないのか・・・
だが、サッカーが出来なくたって、純一は大切な仲間だ。
せめて、純一には純一であり続けて欲しかった。
妙に爽やかで、意外に頑固で、それでいて情熱的な純一であって欲しかった。
情熱こそが、純一の原動力であり、その人格形成を支えている屋台骨だったのかも知れない。それが失われた今、もはや純一が元に戻る事は無いのだろうか・・・
「・・・っ、簡単に終わりだなんて言うなよ!」
気付いたときには、治樹は声を張り上げていた。
「夢だったんだろ!?本当は諦めきれないんだろ!?
だったら足掻いてみろよ!可能性がゼロじゃなけりゃ、それに賭けてみろよ!!」
興奮で息を切らしつつ、治樹は続ける。
「自分の夢に勝手に人を巻き込んでおいて、自分だけさっさと諦めるだと!?そんなのは俺が絶対許さねぇ!
お前が再起を目指すなら俺は何だって手伝ってやるよ。
だから、だから2人でもう一度・・・」
「うるさいっ!!黙れ!!!!」
純一の悲痛な叫びに、治樹は思わず息を呑んだ。
「お前は、自由に走り回れる脚があるからそんな事言えるんだよ。
大体、切欠が何だろうと、サッカーでのし上がるのが今のお前の夢だっていうんなら、人任せにするなよな。
お前だったら、怪我さえしなけりゃ上に行けるだろうさ。
よかったな。おめでとう。」
冷淡に言い放つ純一の心には、今はどんな言葉も伝わりそうに無かった。しかし、それでも治樹は、純一に何かを伝えなければいけない気がしていた。
自分でも何を言いたいのか分からないまま口を開いた治樹だったが、そこから言葉が紡がれる前に、純一の震えるような声が届いてきた。
「今は、お前の顔を見るのも嫌なんだ。悪いが出て行ってくれ。」
明確な拒絶の言葉は、治樹の心に重くのしかかってきた。
病室を出て、廊下の長椅子に腰掛けた治樹は、大きな溜息をついた。ここにいても仕方のない事は分かっていたが、全身の力が抜けてしまい、立ち上がる気力すら湧いてこない。
ややあって、純一の病室から出てきた智子が、治樹の隣に腰を下ろした。
「悪いな、せっかく見舞いに来てくれたってのに・・・」
ふっと、智子が笑った。胸が締め付けられる程悲しげな笑顔だった。
「あんたが来るちょっと前にな、オヤジが来てたんだ。
オヤジのやつ、兄貴を目の前にして、何て言ったと思う?
『大変だったみたいだが、これでお前も勉学に集中できるな。怪我の功名とはよく言ったもんだ。』だとさ。」
まるで他人事のように、淡々と語る智子。
「初めてだったよ、自分の親を、本気で殺したいって思ったのは。」
言葉の内容とは裏腹に、智子はむしろのんびりした口調でそう言った。
「すまん、俺が・・・もっと事前に手を打ってりゃあ、こんな事にはっ・・・」
体が熱かった。腹の奥にマグマの様な灼熱が満ちて、どうにかなりそうだった。もし今この手にナイフがあり、目の前に先輩たちがいたら、連中の足を迷わずメッタ刺しにできる気がする。
不意に、視界が滲んだ。止めようとしてももう遅く、堰を切ったように涙が溢れ出た。
「なんだよっ、そんな顔するなよ。誰もあんたのせいだなんて思ってない。
・・・やめろよ・・・やめろって・・・」
治樹の様を見て、智子も堪え切れなくなっていた。
厳しい残暑が気だるさを催す晩夏の日、纏わり付くような湿気の篭った病院の廊下で、2人の涙が、熱い情熱の季節の終わりを告げていた・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます