第25話 混浴風呂悶絶編
気を失って倒れているディーナにさくらと橘が駆けつける。
「ディナちゃん、しっかりして!」
さくらが心配な様子で声を掛けるが、ディーナの反応はない。そこへ地竜に刺さったままのミスリルの剣を回収してその地竜を丸ごとアイテムボックスにしまい込んだ元哉がやってくる。
「心配するな、ただの魔力切れだ。多少の打撲はあるだろうが大した怪我ではない」
ディーナの体の具合を触診で調べていた橘が、元哉の言葉に合わせて頷く。
「そうね、骨には異常はないみたい。頭は打っていないようだから魔力が戻れば意識は回復するわ」
橘の言葉を聞いて一安心するさくら、だがそのさくらに向けて橘から非難の声が上がる。
「さくらちゃん、どうして最初から身体強化を使わなかったの? そうすればディーナをこんな危険な目に合わせる事も無かったのに」
さくらも自分の見通しが甘かったことを自覚しており、素直に反省する姿勢を見せている。だがそんな遣り取りをする二人に元哉から声が掛かった。
「いや、あれでいい。戦いはプラン通りに行かないことをディーナが知る機会になる。それに、身をもって経験した恐怖を今後に生かせれば、この子はもっと強くなれる」
幼い頃から死と隣り合わせの厳しい訓練を乗り越えてきた元哉らしい言葉だ。ただ彼の欠点は『自分が出来る事は他人も出来る』と思い込んでいることにある。そのため今回のように、個人の適正や能力を無視した無茶振りを容認してしまう傾向にあった。
「そんなことより、早くディーナを目覚めさせないと、橘、ここにいつもの休憩施設を造ってくれ。」
元哉の要請に橘は頷く。ちょっと心に引っかかるものがあったが、今はそんな時ではない。土魔法で特別仕様『地竜が踏んでも壊れない頑丈な造り』のトーチカを造り出す。
元哉がその施設の中にディーナをお姫様抱っこで運び込み、さくらがあらかじめ床に敷いておいた毛布の上に寝かせる。
魔力切れで意識の無いディーナに魔力を注入しようとそのシャツのボタンに手を掛けたとき、こちらを凝視する二人の視線に気がつく元哉。
「そんなにじっと見られると流石にやり難いんだが・・・」
暗に見ないでくれと頼む元哉に対して、二人は冷ややかな反応をする。
「さくらさん、どうやら私たちは邪魔なようですから、あちらで昼食の用意でもしてきますわ」
「そうですね橘さん、私もムーちゃんを呼び出さなければならないので、外に行っていますね」
そういって出て行った二人の言葉は、元哉の精神をゴリゴリと削っていった。
悪いことをするわけではないと何とか気を取り直して、まずはディーナのベルトを緩める。意識の無い人間は呼吸が浅くなるので、少しでも楽にするための措置だ。決していやらしい事をしているわけではない。
さらにズボンのボタンも外しておく。昨日街で購入したあまり可愛げの無い下着が見えてしまうが、気にしない。ちなみに地竜との戦いで、ディーナがちびって汚した部分は、橘が魔法で綺麗にしておいた。
改めてシャツのボタンに手を掛けて、一つ一つ外していく。意識が無いディーナはまったく無防備でされるがままだ。元哉としても少し犯罪めいたことをしているような気分になるが、ひとつ首を振って全てのボタンを外していく。
シャツを肌蹴ると、白いアンダーシャツが目に飛び込んでくる。その裾に手を掛けて、ゆっくりとたくし上げると、もうすでにお馴染みのプルンとした双丘が飛び出てきた。
元哉はその片方に口を近づけて、ひとつ息を吸い込んでからその先端を口に含む。そのままにしているだけで、元哉の魔力がディーナに流れ込んでいく。
(あれ、私どこにいるの?)
うすっらと戻ってきた意識の中でディーナは考えた。
(確か地竜と戦って・・・・・・)
そこまで思い至ったとき、彼女の全身に電流のような快感が走り、せっかく戻りかけた意識が再び曖昧な世界に引き戻された。
何も考えられない頭でただ1つ分かるのは自分の胸に触れている元哉の唇と、そこから流れてくる魔力の奔流。
(ああ、元哉さんが・・・)
ディーナはこの時が好きだった。いつも心待ちにしていた。気持ちいいというのも勿論の事だが、今この時が元哉の存在を最も近くで感じられる瞬間だから。元哉を自分が独占して、肌と肌を触れ合うことができる唯一の機会だから。
彼女の中で元哉の存在が日に日に大きくなり、元哉のいない世界など考えることが出来なくなっていた。ディーナはこんな気持ちになったことが初めての経験なので、その感情を言葉で言い表すことが出来ないが嬉しくもあり、不安に駆られることもある、とても不安定で常に揺れ動いてしまうこの気持ち。
その気持ちに駆られて、両手を伸ばして元哉の頭を抱きかかえるディーナ。元哉のことが愛おしくて自分を抑えきれない。
その姿のまま彼女は体を硬直させて、魔力注入の最後の瞬間を迎えた。
その様子を見守りながら、ディーナから体を離す元哉。ディーナは硬直から一気に弛緩した体を毛布の上に横たえて、荒い呼吸を繰り返している。
「元哉さん」
弱々しい声を出して再び両腕を元哉に伸ばすディーナ。
「どうした?」
元哉がそんな彼女の様子を気遣って顔を近付けたそのとき、ディーナの両腕が元哉を捕らえて彼の顔を自らの顔の上に重ねた。
重なり合う唇と唇。
普段は橘の手前、表に出さないようにしていた欲求が、理性の箍が外れて行動に出てしまった。
昨夜目の当たりにした元哉と橘の様子を薄目で見ていたディーナ、そしてその脳裏に焼きついたあの光景。
そのままディーナの好きなようにさせておくとこの後が大変になるので、元哉は彼女がある程度満足したところで、その額にひとつ軽いキスをして体を離した。
ディーナはよほど嬉しかったのか、ずいぶんとよい表情をして目を閉じている。このまま30分もすれば再び目を開けるだろう。
ディーナが落ち着いたのを見計らって、その乱れた着衣を元哉が直そうとしたとき、橘が戻ってきた。
「やっと終わったのね」
少々怖い目になっている橘。元哉は何か弁解の台詞を口にしようとしたが、橘の方が先に切り出した。
「まあいいわ、それよりディーナの服を全部脱がせるから手伝ってちょうだい」
橘はディーナの怪我の様子を心配して戻ってきたのだった。
その言葉に従って元哉がディーナの体を起こし、橘がシャツを脱がせていく。色白の上半身が露わになったら、今度はズボンに手をかけてスルリと脱がせる。
ディーナの体は地面に叩き付けられた左半身が特にひどい痣になっており、その衝撃の強さを物語っていた。もし彼女がもっとレベルが低かったら命に関わる事になっていたかもしれない。
人形のようにされるがままに二人によってその着衣を剥ぎ取られていくディーナ、その最後の一枚を脱がされる前に元哉は退出を命じられて、屋外に消えていった。
その後は橘によって、痣になっている患部の冷却が施され、毛布をかけてもらったディーナは目が覚めるまで安静にしておかれた。
この世界には回復魔法があるのだが、橘はその習得をしていなかった。これは橘にとって最もイメージしにくい魔法で、苦手な分野として後回しにされていたためである。
確かに現代人にとって傷が一瞬で治るということを具現化するのは困難なことだ。怪我をしたと聞けば、どうしても『病院、治療、薬』といった言葉のほうを先に思い浮かべてしまう。
彼女は回復及び治癒の魔法の解析自体は既に終えているのだが、具体的なイメージを得るには実際に魔法が使用されているところを見る必要があった。
(こういうときのために、早くその機会があるといいんだけど・・・)
心の中でそうつぶやく橘、でもそれは必然的に誰かが怪我を負う必要があることを思い出し、その考えはよいことではないなと後から思い返していた。
橘によって追い出された元哉は、バハムートを呼ぶために外にいたさくらの元へ歩み寄る。
「あっ兄ちゃん、ちょうど今注意事項を聞き終わったところで、今からムーちゃんを呼ぶから見ててね」
さくらはそう言うと魔力を解放して精神を集中する。さくらの全身から吹き上がる赤い魔力、そしてそれが一際大きくなったときに、静かな声でさくらが呼びかける。
「ほれ、ムーちゃん! こっちだよ、おいでー!」
元哉が盛大にコケた。いったいどこの子犬に呼び掛けているんだ!
そんな元哉の突込みをよそに草原に巨大な魔法陣が広がる。さくらがなおも魔力を込めていくと、その魔法陣の中心にまるで地面から生えてきたかのように、暗黒龍の巨大な頭が現れた。さらに、浮き上がるように首や翼、胴体が順に現れて、ついにはその威容が草原に出現した。
緑の草原に一際映える漆黒の巨体と重厚な威圧感、上空を旋回していた翼竜がその姿を見て慌てて彼方を目指して逃げ去ろうとする。
「おおー、ムーちゃん、大成功だよ!」
「さくらよ、打ち合わせ通りに出来たようだな。初めてにしてはうまいものだ。」
バハムートがさくらの手際に感心している。神の使いたる暗黒龍を召喚するのに、本当にあんな呼びかけでよかったのだろうか。
「むっ、そこにいるのは破王か! 何か用か?」
「大した用ではないのだが、ここはお前が管理しているのか?」
元哉が先ほど感じた疑問を改めて問いかける。
「その通りだ。ここは俺の餌場でな、人族の言葉を借りると牧場とでも言うのか」
「なるほどな、とおりで環境が整いすぎていると思った。それはともかく頼みがある、お前の鱗をもらえないか」
元哉は一体何のためにそのようなものを欲しがるのか理由は不明だ。
「俺の鱗が欲しいだと、お前はその言葉の意味がわかっていっているのか? 古来より龍の鱗を欲するものは、その龍に勝たねばならない。ここで遣り合うつもりか?」
暗黒龍は元哉の言葉に身構えて、その巨大な目で睨み付けてくる。大抵の人間は失神するか、下手をすると心臓麻痺で命を落としかねない程の強烈な眼光だ。
「いや、ここでお前と戦うつもりはない。それに、なにもただで欲しいとは言っていないぞ。こいつと引き換えでどうだ」
元哉はアイテムボックスから先ほど倒したレッサードレイクを取り出して、その口から自らの魔力を流し込んでいく。魔力が暴走を引き起こす手前でその手を止めて、それを暗黒龍に向かって差し出す。
「まずは食ってみろ」
いぶかしんだ様子で元哉を見るバハムート、元哉が早くしろと急かすので、言われたとおりにそのレッサードレイクを一飲みにする。その直後にその巨体に変化が起こった。
「なんだこれは! お前の魔力か。これはすごいぞ、全身に力が漲ってくる。おい、もう1つよこせ!」
「あんまり食い過ぎて腹を壊すなよ」
元哉が同じ様にもう一匹取り出して、先程よりは控えめに魔力を流したものを用意すると、バハムートはこれも一口に飲み込んだ。
「これはすごいぞ! この体では限界だ、お前たちもっと離れろ!」
元哉の魔力の影響か、金色に輝きだしたバハムートはブルブルと体を震わして次々に鱗を落としていく。そして一際その光が強くなったあとに、その輝きは巨体の中に収束していった。
そしてそこに立っていたのは、漆黒の鱗の一つ一つに目も眩むばかりに鮮やかな金色の梵字のような模様が浮かんだ新たなバハムートであった。その体長は優に50メートルを超えて二回りは大きくなっている。
「すごい、ムーちゃんかっこいい! もしかしてバハムート改?」
さくらよ、なぜそんな古い知識を知っているのだ。
「改? なんだそれは。まあともかく、こうして1000年振りに新たな体になったのだ。破王よ、礼を言おう。ここらに落ちている古い鱗は不要ゆえに、好きにして構わないぞ」
「それはありがたい、遠慮なくもらったおこう」
円満に双方に利益が上がる形で、問題が解決したことに満足する元哉だった。
「それはそうと腹が減った、お前たちはまだここに残るのか?」
バハムートは食事に向かう気が満々のようだ。地竜達はさぞかし災難な事だろう。
「今晩はここに泊まる事になるだろう」
「そうか、ならば腹ごしらえが終わったら俺も一旦ここに戻ってくるとしよう」
そういい残してバハムートはその巨体にもかかわらず、ふわりと飛び上がり地竜たちがいる方向に向けて飛び去っていった。
「にいちゃん、おなか減った」
バハムートを見送ったさくらが訴える。そういえばもう昼の時間はとっくに過ぎていた。
「そうだな、鱗の回収は食事の後にするか」
草原に散らばる大量の鱗を見ながら元哉がさくらに同意する。
「ところでディナちゃんの具合はどうなの?」
「もう起き上がっている頃だろう。打撲のほうは痛みが引くまで暫らくかかるだろうが、心配はない」
このような会話をしながら、元哉とさくらは二人で並んで休憩施設に向かうのだった。
午後はさくらと元哉が鱗の回収を行い、ディ-ナは休息で橘はその看病をして過ごした。ディーナは橘に対してしきりに申し訳ないと謝っていたが、橘から安静を申し付けられておとなしく従っていた。
そんな彼女も夕方には起き上る事が許可されて、まだ痛みが残る体を引きずりながらも食事を終えて現在は入浴をしている。
今夜は、バハムートが施設の隣にデンと居座っているので、魔物に襲われる心配がない。そのため橘は屋外に風呂を設置した。大草原にかかる月を見ながらの露天風呂である。
いつものように元哉の膝の上に座っているさくらと、その向かいに佇むディーナ。なぜか三人で入浴することがいつの間にか当たり前になっている。
普段なら、さくらを中心に本日の出来事などで会話が盛り上がるのだが、今日に限ってはいつものように話が続かない。そんななか、突然ディーナが切り出した。
「あのーさくらちゃん、もしよかったら私と場所を交代してもらえませんか」
ディーナさんいきなりの爆弾発言! これに一番たじろいだのは元哉だった。
「おいおいディーナ、いきなり何を言い出すんだ」
「いえ、その、さくらちゃんがいつも気持ちよさそうにしているから、どんな感じなのかなと思って・・・」
うそである。本当は元哉と触れ合いたいだけのディーナであった。
「ほほうディナちゃん、私の特等席に座りたがるとは、なかなかいい度胸をしている」
さくらの言葉にあからさまにガッカリするディーナ。
「しかしディナちゃんは大切なお友達だから、特別に譲ってあげよう」
さくらは何か思うところがありげに目を細めて、ディーナの要求を受け入れた。ディーナの顔がぱっと花が咲いたようにほころぶ。
このやり取りに抗議の声を上げた元哉だったが、あっという間にさくらとディーナが入れ替わった。
さくらの軽い子供のような体と違い、ディーナのふかふかボディーが自分の膝の上に乗っかっている元哉としてはどうしていいかわからないが、とりあえず動かないようにしようと心に決めた。
「元哉さん、ちょっと安定しないので手でおさえてください」
ディーナは元哉の両手を取って自分の立派な二つの桃の下の辺りで組ませて、さらにそのまま首を斜め後ろに反らすと二人の頬が密着する。
その様子を正面から見ているさくらは
「ディナちゃん、本当に恐ろしい子」
と小声でつぶやいている。
そして最も困った状態に陥っているのは元哉だった。とにかく体全体の色々な所が刺激されてえらいことになっている。逆にディーナの方は幸せそうな表情でずっとこのままでいたいオーラが全開だ。
さすがにこれ以上このままにしておくのはまずいと判断したさくらが、ディーナに終了のお知らせをする。ガッカリするディーナとホッとする元哉。
ディーナが止む無くその言葉に従いしぶしぶ場所を交代するとき、さくらが突然言い出した。
「兄ちゃん、私もディナちゃんみたいに魔力の補給やってみてよ!」
何を言い出すのかとあっけに取られる元哉。実は只でさえ好奇心の強いさくらはディーナが気持ちよさそうにしている姿を見て興味津々だった。
「さくら、お前の場合はいったいどこから魔力を流せばいいのか、場所がわからない」
「ここに二つ目印があるでしょう!」
自分の両胸を指差して、膝立ちで元哉の口にその片方を押し付けていくさくら。
「しょうがない、一回だけだぞ」
あまりのさくらの強引さに押し切られた元哉が、さくらを抱き寄せてぞの平べったい先っぽからかなり雑に魔力を流し込んだその瞬間、
「ぎゃははははは、くすぐったい、やめて、まいった、ギブギブギブ」
元哉の肩をタップしながらくすぐったさに身をよじるさくらだが、元哉の両腕で動きを封じられていて逃げ出せない。ディーナは反対側から唖然としてその様子を眺めていた。
ようやく苛烈な攻撃が終わり、ゼイゼイして途切れ途切れに『兄ちゃんひどいよ、何ですぐやめてくれないの』と抗議するさくらに、元哉は告げた。
「なあさくら、片方だけというのはバランスが悪いだろう」
「ぎゃはははあー、助けてディナちゃん、ギブギブ、助けてーはなちゃん、ぎゃははははーー」
さくらの悲鳴は橘が駆けつけて止めるまで続いた。
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