第14話 旅立つ前に
訓練キャンプは予定の10日間を終えて、出発の日の朝を迎えた。
朝食を終えて、準備もほぼ整い各自が点検をおこなっている最中に、元哉が思い出したように皆に話しかけた。
「そういえばステータスって、どうなっているんだ?」
この世界では一般に広く普及しているステータスだが、元々そのようなものを一々確認する習慣のない彼らは、今まですっかり忘れていた。
ディーナも加わったことだし、改めて確認してみようということになり、全員でステータスオープンを唱える。
「「「「ステータスオープン!」」」」
各自の目の前に、ウィンドウが現れて、次のように能力値が表示される。
-神建 元哉- レベル32
【体力】 1280
【魔力】 2647
【攻撃力】 2647
【防御力】 2647
【魔法制御】 0
【敏捷性】 368
【知力】 31
称号
スキル 身体強化
-元橋 橘- レベル29
【体力】 345
【攻撃力】 7
【魔力】 2215
【防御力】 11
【魔法制御】 2647
【敏捷性】 7
【知力】 578
称号
スキル 全属性魔法
-元橋 さくら- レベル30
【体力】 803
【魔力】 1069
【攻撃力】 401
【防御力】 638
【魔法制御】 36
【敏捷性】 2647
【知力】 3
称号 小さな予言者(NEW)
スキル 身体強化
-オンディーヌ=ルト=エイブレッセ- レベル17
【体力】 140
【魔力】 165
【攻撃力】 57
【防御力】 69
【魔法制御】 49
【敏捷性】 57
【知力】 99
称号 魔王の娘
スキル 魔法剣
元哉たちは、まったく無自覚にAランクの魔物を次々に倒していったおかげで、あっという間にレベルが上がって、この結果となっている。また彼らの陰に隠れて目立たないが、ディーナもわずか10日間で冒険者のランクで言うとDランク相当にまでレベルが上がっていた。
三人の数値を見ているディーナにさくらが話しかけた。
「ディナちゃん、頑張ったからいっぱい上がってよかったね♪」
「私なんか、まだまだです。皆さんのステータスを見てびっくりです。」
その強さを間近で見ていたディーナは、改めて数値化された彼らの能力に驚きを通り越して呆れている。しかしディーナよ、よく見たまえ!部分的にはお前のほうが勝っている所もあるのだ。さくらの知力とか橘の運動能力とか、あとさくらの知力とかその他に橘の運動能力とか・・・・
ただし、ここには絶対に表示されない、彼らの本当のステータスが、以下の通りだ。
-神建 元哉- レベル32
【体力】 12800
【魔力】 無限
【攻撃力】 37984
【防御力】 63926
【魔法制御】 0
【敏捷性】 3680
【知力】 310
称号 破王 星殺し
スキル 身体強化 魔力吸収 魔力放出 魔力暴走 状態異常完全無効化
-元橋 橘- レベル29
【体力】 3450
【攻撃力】 70
【魔力】 22150
【防御力】 110
【魔法制御】 53438
【敏捷性】 70
【知力】 5780
称号 天の御使い 魔王
スキル 全属性魔法 天界の秘術 原子操作 状態異常完全無効化
-元橋 さくら- レベル30
【体力】 8030
【魔力】 10690
【攻撃力】 4010
【防御力】 6380
【魔法制御】 360
【敏捷性】 43005
【知力】 3
称号 獣王 小さな予言者(NEW)
スキル 身体強化 魔弾の射手 バハムート召喚 状態異常完全無効化
大雑把な目安だが、さくらの全力の一撃で若いドラゴンならば倒せるほどの能力があると、理解してほしい。ただしこのステータスは、あくまでも基準となる数字で、訓練でその数値を最大まで引き出せるようになるが、サボっていたらその半分も引き出せないものと認識する必要がある。
また、疲労や精神集中の度合いによっても、その引き出せる数値が変わってくることも付け加えておく。
「ちょっとまずいな。」
各々のステータスを確認していた元哉が、ディーナのステータスを見ながらつぶやいた。
「すみません、頑張ったつもりだったのですが、ぜんぜん皆さんに追いつけません。」
しゅんとした表情でディーナが答える。
「いや、数値のことではないんだ。ここを見てくれ。」
元哉がディーナのウインドウの下のほうを指差すと、そこには『魔王の娘』の称号があった。
「あら、本当ね。これはちょっと拙いわね。」
元哉の発言でディーナのウインドウを覗き込んだ橘が、同意した。
「兄ちゃん、何がまずいの?魔王の娘なんてカッコいいじゃん。」
さくらがまったく意味がわからずに疑問を呈する。さすが、レベルが上がっても知力が変わらない奇跡の存在だ。
「これから人族の国に行こうというのに、魔王の娘はさすがに拙いだろう。もしも誰かに見られたら、大騒ぎだ。」
元哉の言葉にさくらはなるほどと納得した様子だったが、もう一方のディーナは、自分のせいでみんなに迷惑が掛かっているとか、一人だけ人族の国に行けないとか、頭の中が悲観的な考え一色に染まってすっかり涙目になっている。
その様子をすばやく見て取った橘が、ディーナを包み込むように優しく抱きしめて諭した。
「ディーナ、この前私がもう一人ぼっちにはしないって言ったでしょう。もう忘れちゃったの?」
「でもこのままでは、皆様にご迷惑が・・・・」
ディーナの言葉を遮って橘がさらに言葉を重ねる。
「ホントまだ子供なんだから。いい、こういう時はお姉さんに任せるのよ。私にいい考えがあるから、安心しなさい。」
「はい、わかりました。」
16歳が130歳にお姉さん風を吹かせている。最も橘にミカエルの年齢まで加えるとすごいことになるのだろうが・・・・
「さくらちゃん、バハムートを呼んでもらえる。」
「えっ、呼んでいいの?」
さくらはディーナにバハムートを紹介したくて、何度も元哉に呼んでいいかと打診したのだが、毎回『用もないのに呼ぶな』と却下されていた。それが橘から呼んでほしいと言われたのだから、大チャンス到来だ。
瞳にたくさんの星をキラキラさせて、元哉を振り返る。
「今回は許可する。」
元哉の短い返事に、喜びを爆発させるさくら。
「やったーー!ディナちゃん、今から私のペットを紹介するから、ちょっと待っててね。」
何のことやらわからない表情でディーナが答える。
「さくらちゃんのペット?私も昔魔王城でこのくらいの可愛い猫を飼っていましたよ。」
両手をいっぱいに広げて、自分のペットの大きさを表現するディーナ。その大きさはもはや猫ではなく、ヒョウとかチーターとか呼ばれるレベルだろう。異世界恐るべし・・・
皆から少し離れて、バハムートの召喚を始めるさくら。目を閉じて腕を組み、精神を集中している様子でその表情は真剣だ。
そのままの姿勢で身動きひとつしないで、ただ時間だけが静かに流れていく。
やがて、さくらが厳かな表情で、静かにその口を開く。
「呼び方聞いてなかった。」
さくらの様子を見守っていた3人が一斉にコケた。誰がそんなオチをつけろといった。
頭をかきながら、『またやらかしてしまいました』といった表情のさくらが、召喚の方法を皆に尋ねるが誰も知らい。
「もう適当に名前呼んで、ここにいらしゃいとか何とか言えばきっと来るわよ。」
橘が、力が抜けて考えるのも面倒なようで、かなり雑な返答をよこした。
「よし、それじゃあやってみる。おーいバハムート!こっちにおいでー。」
その辺にいる野良犬でも呼び寄せるかなような、なんとも気楽な呼びかけがさくらによってなされた時、さくらの頭の中で、声が響いた。
「さくらよ、俺を呼ぶときはそのような大声を出す必要はない。頭の中が煩くてかなわぬぞ。して、何か用か?」
「おお、なんか声が聞こえるよ!えーっとね、兄ちゃん達が頼みたいことがあるから、来て欲しいんっだって。」
さくらは普通に声に出して話しているが、繋がってしまえば声だろうが念話だろうが構わない様だ。
「わかった、おおよその位置は把握しているから、今から飛んでいく。」
「えーかっこよく魔法陣から出てくるんじゃないのー。」
「あれは遠距離の場合だ。こんな目と鼻の先に行くのに態々やらぬ。今から行くから待っておれ。」
さくらが、皆のほうを向いて
「すぐ来るって。」
と蕎麦屋の出前でも頼んだかの様な口調で告げた。
「さくらちゃんのペットって、いったい何が来るんでしょう。」
ディーナは、先ほどの不安が和らいで、楽しみな様子だ。
「それは来てからのお楽しみだ。」
元哉は返事を返しながら、南の空を見上げる。
その空にポツリと小さな黒い点が現れたかと思うと、見る見る間に大きくなってその輪郭がはっきりしてくる。
「あれは、まさか、そんな・・・・」
ディーナの口から、言葉にならない呟きが聞こえるが、そんなことには一向に構う様子もなく、巨大なドラゴンが高度を下げて、広場に着地した。
「ディナちゃんお待たせ♪これが私のぺッ・・・・ディナちゃんしかりして!」
バハムートの姿とそれが発するとてつもない威圧感で、ディーナはみたび気を失った。今回はお漏らしつきで。それに気づいた橘が、すぐに『脱水』『クリーン』を発動して、ディーナの知らないうちに彼女の名誉は守られた。
「さくらよ、お前俺の事をペット呼ばわりしていないか。」
「いやだなー、ムーちゃんたら私がそんなことするわけなしでしょ。」
口笛を吹きながら誤魔化そうとするさくら。しかし、嘘がバレバレだ。
「まあよい、それよりム-ちゃんとは何だ?」
「可愛い呼び方でしょう。バハムートだからムーちゃんだよ!」
悪びれた様子もなく、さくらが答える。
「ほう、誰もが恐れる暗黒龍をムーちゃんとは、さすがは獣王さくらだな。それより、この大層な魔法の痕跡は誰がやったものだ?」
元哉が暴走魔力で作り出した道を前足で指し示してバハムートが問う。
「ああ、これは俺がちょっと試しにやってみたものだ。」
元哉が別に大した物ではないとでも言いたげに答える。
「ほう、破王か。その名に相応しく中々やるようだな。威力はおれのブレスのほうが遥かに上ではあるが。」
「生憎だが、おれも全く本気ではなかったからな。ちょっと道を作りたかっただけだし。」
「なんだと、一回試してみるか。」
「今度は道などとケチくさい事は言わずに、この森をきれいさっぱり更地に変えてやろうか、ああ!」
下らない事で意地を張り合う両者、さくらはどこまでヒートアップするかとワクワクしながら見ていたが、ディーナを看病する橘がその手を止めた。
ゆっくりと振り返るその形相に、般若が宿っている。
「病人の前で静かにしやがれ、この脳筋共がーーー!!!」
一瞬で空気が零度以下にまで下がった。物理的にも精神的にも。さすがに拙かったと判断した二人と一匹は口を噤む。
「おい、破王、お前も結構苦労しているな。」
橘がディーナの看病に復帰したのを見て、バハムートが小声で話しかける。
「世界で2番目に怒らせたらいけない人物だからな、ちなみに一番はおれの母親だ。前者の場合は精神的な、後者の場合は物理的な死の危機に直面する。」
「魔王恐るべし、だな。」
「その通りだ。」
再び橘が振り返る。二人と一匹は動きを止め・・いや、呼吸すら止めている。まるで命がけの『だるまさんが転んだ』をやっているようだ
「ゴチャゴチャと全部聞こえているんだけど。それより用件のほうを早く片付けて。」
先ほどよりも沈静化した魔王の怒りに胸をなでおろしながら、元哉は手早くディーナのステータスの件をバハムートに説明して、神様に善処してもらえるように言付けを頼む。
「それぐらいのことなら、簡単にやってくれるだろう。結果はさくらを通して伝える。」
神様へのメッセンジャーを快く引き受けたバハムートが帰ろうとすると、さくらが引き止めた。
「ムーちゃん、まだ帰っちゃだめだよ。この前みたいに、一緒に空を飛ぶんだから。」
「さくら、無理を言うな。」
元哉が制止しようとするが、さくらが一歩早かった。あっという間にその大きな背中に駆け上がり、行くぞー!とはしゃいでいる。
「兄ちゃん、これは遊びじゃないよ。偵察、そう偵察だから重要任務なのです。」
今思いついたばかりの言い訳を口にしたまま、さくらは空へと飛び立っていた。
バハムートに乗ったさくらが戻ってくるころには、ディーナは意識を取り戻していた。また失神しないように橘が『ブレイブ』を掛けているが、それでも膝がガクガクして立っているのがやっとの状態だった。
「ディナちゃん、お待たせ。このデッカイのが私のペッ・・・じゃなくてお友達のバハムートの『ムーちゃん』でーーす。」
さくらが得意げに紹介するが、ディーナの方は伝説の存在の暗黒龍を目の当たりにして、まだ生きた心地がしない。ようやく小さな声を絞り出して精一杯の挨拶をする。
「はじめまして、バハムート様。ディーナと申します。」
「うむ、お前がマインセールの娘か。」
「父のことをご存知なのですか?」
ディーナが驚いたように声を上げる。まさか自分の父親が伝説の暗黒龍と知り合いだったとは思ってもみなかった。
「ああ、奴とは何度か酒を酌み交わした仲だ。マインセールはどうしている?」
「父は先日亡くなりました。」
無念そうに唇を噛み締めるディーナ。まだ父親のことが吹っ切れていないことが、手に取るようにわかる。
「そうか、なかなかの好人物であったが、残念なことだ。俺のように長く生きていると、そのような者を見送るばかりでな。今日は俺なりにマインセールのために祈るとしよう。」
「ありがとうございます。父もきっと喜ぶことでしょう。」
「何かあったら力になる。さくらを通して伝えるがよい。」
「もったいないお言葉です。」
バハムートに向かって深々とお辞儀をするディーナ。父の話のことを聞けたおかげで、先ほどまでの恐怖心はなくなっていた。
飛び立っていくバハムートを見送る4人。その姿が見えなくなってから、元哉が全員に向かって声を掛ける。
「さあ、俺たちも出発だ!」
人族の国を目指して、道を踏み出す4人。新たな旅がここから始まっていく。
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