第45話 愛する人

「では、私はこれで。やらなくてはならないことが山ほどありますから。」

そう微笑んで、アマネが部屋から出ていく。

一人になったレイは、今までのレイにはありえないほど、力の抜けた姿で横たわる。

少しレイが微睡みに入るころ、静かに扉が開いた。

「イズル。」

「なんだ、起きたのか。」

いくら微睡んでいても気配に敏感なレイだ、シズルが入り込んだ瞬間、覚醒する。

「アマネが出て行ったようだからね、僕が来たんだ。君を一人にすると、何をするかわからないからね。」

レイは少し不機嫌そうに

「あいつはとんだ女狐だな。あれなら狸との化かしあいにも丁々発止でやるだろうよ。」

「なんたって孤高のレイを、つなぎとめて見せるくらいだし?短い髪も似合っているよ、レイ。」

「そのアマネをたらしこんだ神子様がよく言うよ。」

どんな状況でも変わらない二人のやり取り、どこまでもかみ合わないのに、そばにいられる。

「チビ達もこっちに呼び寄せたよ。ロミに頼んで。イルマとミツルは商売の機会だから、って断られたがな。それでも時々顔を出すよ。」

「あいつららしいよ。それに、お前が本気で助けを求めたら飛んでくる。」

「ああ。」

レイにとっても、イズルが愛される才能を持った者だというのは事実になっている。

「お前には残酷な運命かい?」

「…そうかもな。」

「いやかい?」

「何でもない、殺す人数が一人増えるかもしれないだけだ。それでもおそらくもともとの人生より少ないだろう。」

レイの言葉に混じる強がりともつかない言葉に二人とも気づかないふりをする。

「アマネは、普通の女性だ。だからこそ僕たちは永遠に勝てない。」

「言いたいことはわからないでもない。」

「僕は、君を一人にはしないよ。シズルにはゆっくり待っていてもらう。」

イズルは優しく、レイを慈愛の瞳で見つめる。

「お前はオレとともに生きるのか?」

「お前を残して死ねないでしょう。どこまででもアマネに頼りつくすよ。」

その言葉はどこかアマネの言葉と似ていて、ふいに笑いがこみあげてくる。

「お前はアマネのそばで。僕はアムのそばで神とともに民の声に耳を傾け。そうして、生きていこう。僕たちはもともと普通に生きる運命にはないのだから。」

それは哀しいまでに真実で。だけれどもそこに悲壮感はなかった。

「ああ。いつかこの命尽きる日まで。」

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