第43話 契約

「なんだ?」

アマネは一つ息を吸う。

「先ほど私はあなたはもう罪人ではない。咎は失われた。そう言いましたね。」

「ああ。」

「あなたの咎は罪なき牢人たちが背負って、この国をでました。正確には主犯はリコとレンと名乗った者です。」

「ずいぶんな暴君だな。お前の親戚だったんじゃなかったのか?」

アマネは表情を変えず

「お二人は赤毛の兄妹で、あなたたちの変装の姿とは似ても似つきません。それなりの立場のお方です。誰も、本当に二人が犯人だとは誰も想わないでしょう。」

「…だましたな。」

イズルの言っていた通り、この娘は賢い。

「私が暴君であること…否定はしません。お互いの幸せのためです。彼らがそれを背負うことと引き換えに、彼らの望みは叶えました。…私は何をしてでも、レイ、あなたを手元に置きたかった。」

「好かれてるね。その心は?」

レイの茶化す様子に苛立ちを薄く滲ませて、アマネは真っ直ぐにレイを見つめる。

「銀色の天使はおしまいです、これからは私の元で騎士として生きてもらいます。」

「断る。」

「受け付けておりません。」

レイのにべもない返事を、アマネは予想どおりだったのか、間髪入れずに返す。

「私の傍らで生きること、それがあなたへの罰です。…事実、民はレイが騎士として生きることを望んでいます。それに、あなたは断れないと思います。」

「何故だ?」

「あなたもわかっているのでしょう?妹の体は生きています。もしかしたらこのまま息絶えるかもしれませんが、目覚めるかもしれません。」

レイは口をつぐむ。

「誰になんと言われようと、私はアムを守るためなら何でもします。だって幼いアムは、私を愛してくれていたのですから。一度守れなかった分、二度目は必ず。王も王子も消え、王妃様はずいぶん前に死去、養父は自らの罪に怯え、どこかに逃亡。養母も体が弱く、妹を守れるのは私だけですから。」

彼女には悲壮な決意が漂っていた。

「ですから、お願いします。私の傍らで生きて…妹が再び目覚めたとき、その人格が”姫”ならば…。今度こそ安らかな死を彼女に与えてほしいのです。」

「お前、それどういう意味か分かってる?」

レイは打って変わって真剣な瞳でにらみつける。

「もちろんです。言ったでしょう?私は妹のためなら何でもする、と。」

「その”妹”には”姫”も含まれているのか?」

「ええ。彼女は憎いですが、妹が受け入れた妹の一部。愛せずにいられないのも事実です。」

アマネは迷いない瞳で未来を見つめる。

「失礼。」

レイはアマネの顔を見つめてから、躊躇なくアマネの懐に手を突っ込んで、小刀を取り出す。アマネは驚きながらもその行動を見流す。

レイは長い髪を断ち切る。

「姉妹と同じこの銀髪に誓おう。命尽きるまであなたの命に従うことを。女王陛下。」

アマネの震える手を取って、口づけをする気障な姿は、異様なまでに妖艶で、たまらない色気を放っていた。

「だが、オレからも要求がある。」

「…なんです?」

アマネはレイの色気にあてられながらも、飲まれないように必死に踏ん張っている。

「姫のシステムの全破壊だ。これ以上オレのような存在が生まれるのは御免だ。いろいろな悲劇に巻き込まれるのもな。」

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