第40話 伝承

「王族…?」

「ええ、私には記憶がないので関係ないに等しいですが、今回彼女が殺したのは、私の実の父と兄弟ということになりますね。」

アマネは妹に対する執着とは反対に淡々と告げた。

「なんで王の娘が…。」

「その話が、まさに今回の話に繋がります…。これは、王族の娘に継承されている話です。」

アマネの長い語りが始まる。

「かつて、遥か昔…。姫の時代よりもさらに前の話です。王族には女児が生まれたら、一人目を天に、二人目は人に。三人目は地に。そういう風習がありました。」

レイはアマネに申し出る。

「悪いが、そういう風雅な話は分からない。わかりやすく話せ。」

「…失礼いたしました。要するに、一人目は本来のイズル様のように神に仕える者。二人目は平民に降り、民としてともに生きるもの。三人目はしかるべき時まで外を知らず、人柱になるべき者。王族はそれを拒み、男児が生まれない場合以外は多くても二人目で子供を止めていました。…姫はその三人目で、その運命を受ける者でした。」

「…お前は?」

レイは質問をする。

「この後話しますが、姫の事件以降、その風習は廃れ、院という風習が出来ました。私は二院ですから次女です。王の娘は、その身分を明らかにしないまま、それなりの身分として、生涯血をつなぐことなく死ぬこと。そのための監視が院です。」

「確かに、過去よりはましかもしれないが、ずいぶんと残酷だな。でもそれなら、お前の姉のほうが継承権は上ではないのか?」

「エル様は、私よりもさらにのんびりしたお方ですから…。本来は私にもエル様にも継承権はありませんし、性に合わないと私にお譲りになられました。…その話はまた後にしましょう。…アムの出生にも関わる話ですから。」

彼女は実の姉のことを名前に様付けで呼んだ。それが彼女たちの距離感なのだろう。

「…それは、本来姫の血を、肉体的には受け継いでいないはずの彼女の肉体で、姫の作ったものを動かせた話にもつながるのか?」

レイがずっと疑問に思っていた唯一の点だ。

「ええ。」

「それならば、一度黙ろう。お前の話は要領を得ないが、体が動くときに聞くよりは、どうせ動かせない今のほうがましだ。」

「お気遣い痛み入りますわ。レイ。」

そして彼女は過去の、王族の歴史を語る。

「姫は、その運命を享受していたそうです。王族として正しく生きるため、と。しかし、彼女は幸か不幸か天才だった。この国のほとんどのシステム、あなたたちを創り出すベースも彼女のものです。それはご存知でしょう?」

「ああ。」

「彼女の才能を、彼女の父や兄は惜しんだ。彼女の才は父王や兄たちの虚栄心をくすぐり、彼女を手にしようと躍起になった。」

天才という名の権力はいつの世も人を狂わせる。それは、レイも身に沁みて知っていた。

「謀略と、血に満ちた王宮内戦争が発生しました。…お家騒動などそう珍しいものではありませんが、外の世を知らぬ上に、そのころは未曽有の大災害の最中。彼女を人柱に求める民の声は、彼女を苦しめ、狂わせました。」

「…姫が狂って死んだ、というのは本当だったのか。」

「彼女は愛されていなかった、と言いましたが、それは違います。彼女は愛され過ぎたんです。最後はその愛に溺れ、彼女の母と姉は、彼女を利用させないため、死に立ち会わせることを許さなかったそうです。」

「なるほど。それが”姫”の言っていたことの正体か。」

アマネは一つため息をついて続ける。

「問題はここからです。」

ここまでではただ一人王族の娘が死んだ、それだけの話だ。

「レイ、あなたにも覚えがあるでしょう…地下の機械に。あれは、彼女の膨大な知識という名の記憶を蓄積するために、彼女が作ったもです。父王や兄たちは、あれに目を付けました。」

「…どういうことだ?」

「”姫”を。厳密には”姫”の記憶を復活させられる器を探しはじめたのです。」

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