第37話 運命共同体
二人の戦いは熱烈でありながら、冷静。哀しき愛を身に纏ったシズルとの戦いとは違った。
「レイ…。わかっているの?私を殺すためには、あなたの中にも流れてる私の血だって消さなきゃならないのよ。」
「そんなこと百も承知。自分の体に王族の血が流れているなんて反吐が出る。」
怒りを帯びたレイの言葉、それは相手も同様だった。
「たった一人の成功作なのにね。」
「オレを成功作と言えるのか?こんな反逆者を?」
「私も反逆者よ。」
まだレイにはわからないことが多すぎる。それでもレイは目の前の相手を殺すことしか頭になかった。
それは本能以下の衝動、本来個人に対して特別な想いを抱くはずのないレイのもっと動物的な衝動だ。現在目の前に横たわる数々の疑問よりも、優先する唯一のもの。
基本的に仕掛けているのはレイである。それでも通常ならとっくに倒れているはずの猛攻を姫は笑って受け流す。
「なぜかはわからないけれど…。私は私を狙った攻撃に当たったことがないの。だから私は狂って死んだ。いえ、狂い死にするまで待たれた。」
その言葉を裏付けるように、レイが撃ち込んだ銃弾は、姫が躱すまでもなく当たらない。レイがいくら狙っても、姫の体を避けるように次々と弾道がそれていったり、手前で落ちていく。
姫は笑いながら、銃を構え打ち込む。経験値の差からレイに当たることはなかったが、何弾かレイの体を掠め、血を流す。
姫は銃弾を装填しながら笑う。
シズルとの戦いで、だいぶ体力を削られていたのか、傷の浅さからか、レイは修復を選ばない。
「オレは、オレがお前を殺すことより、お前がそこの姉様の前で殺されることに悔いはないのか、って感じだよ。」
姫は嗤って
「今更?姉様の前で散々人を殺したのに?」
「それもそうか。」
レイもさほど興味があったわけではない。流すには流す。
そもそもレイは連戦、いくら無尽蔵の体力を持つとは言っても、相手が連続で桁違いすぎる。レイの人生の中で上から数えられる苦境だろう。
「二連続で同じ手を使うのか…?」
レイは苦笑いしながらアマネのほうにイズルの時と同じように高速の剣を投げる。
瞬間、姫は剣を剣で叩き落す。
「さっきの戦いは見せてもらってたわよ。同じ手に引っかかるもんですか。」
不服そうに、わがままを叱られた子供のような顔をするアムにレイは拍手を送る。
「お見事。これでオレの武器は、このポンコツな銃だけになった。」
「笑いごと?」
「笑うほかに何ができる?この銃じゃ、殺すことは不可能さ。イズルももっと殺傷力の高いやつを希望してくれればいいものを…。」
姫はまだ怪訝そうな顔を崩さない。
「だから…。道連れだ、姫。いや、母さん。」
レイは体にまとわりつく血を振り払うように、今までで一番早い動きで、レイを抱え、割れた窓から外に飛び降りた。
「あんたの強運と、オレの呪い。どっちが勝つかな。」
レイが狙っているのは、王宮にある湖だ。
「親子心中とは、しゃれたことするわね。レイ。」
いくら姫とは言っても、彼女の体はひ弱な少女のもの、レイは意味の分からない体を摂理で鍛えたものだ。単純な力比べなら比べるまでもない。姫もそれはよく理解している。
「一人が生き残るか、両方死ぬか…。それとも二人とも生きるか。次に目覚めたとき、またあなたの傍らだったらいいわね。」
二人の入水音にかき消された姫の最後の願い。レイの返答を姫は聞くことができたのだろうか。
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