第35話 玉座
レイは頭を掻きながらその場にいる少女に告げる。
「過激が過ぎるんじゃねえの…?王様王子様皆殺しって。…これか、オレによく似た王子サマっていうのは。」
足元に倒れるは、本来この国の頂点に立っているはずの銀髪の男たち。アマネは血の気を失った顔で壁際に座り込んでいる。そこに倒れ伏す、一人の少年は、レイに似ていなくもなかった。
「大体なんで、ここにいるんだ?」
「王というものは自分が大切で、王子というものは愚かなものよ。…彼らもまとめて眠らせたのはあなたたちでしょう?まあ、起こしてから殺したけれど。」
大罪を犯したとは思えないほど軽妙に明るく彼女は言った。
「男の王族なんて、なんの役にも立たないわ…。父様も兄上も、女の私を虐げ、道具として利用しようとした…。私を愛してくれたのは、母様と姉上様だけ…。だから、姉様に玉座についてもらうの!!」
一瞬にして狂ったように、姫の感情が暴れだす。
「そこで、血の気を失ってる姉様をか?どう考えても無理だと思うが。」
「目の前で虐殺を見せられたんだから当たり前でしょうね。そこまでお強いお方ではないから…。あなたがコロシアムで繰り広げたショーとは質が違うしね。だからこそ、彼女は王座にいるべきよ。」
”姫”の過去は誰も知らない。そもそも彼女の存在すら伝説でしかない。裏を返せば、存在の証明がどこにも存在しないのだ。それなのに、この王宮は動き、誰も彼女の伝承を疑うことはない。
彼女の過去を知るものも、示すものもどこにもない。
「それは勝手にすればいいが…。」
レイは心底呆れた様子で告げる。
「それになんでオレを必要とする?」
「あなたは唯一、すべてを振り切れる存在だから。愛も、仲間も恋も。すべてを持たずに、欲さずに生きていられる唯一の存在だから。」
レイは心底嫌そうに、何を言っているのかわからない、といった顔をする。
「確かにオレは欲しても手に入らないものを手に入れようと思ったことはない。だが、手に入るものはすべて手に入れてきた。だが、オレの欲したものに、玉座やそれに準ずるものは入ってない。いくらオレに似た、王族がいようとな。お前だって、院の娘で十分じゃないか。権力はいくらだって手に入る。」
「ええ。私は玉座なんていらない。でも、あんな男どもにのうのうと王の座を与えてやるのも死ぬほど嫌。だったら、私にとって一番王座にふさわしい…姉様に座ってもらおうと思ってね。」
その理屈は、納得はできないまでも、理解はできた。おそらく、イズルに対する周りの理屈と同じだろう。
「なるほどね…。」
そこで一つ異変が起きた。
一触即発でありながら、表面上は穏やかに会話していた。そこに打ち込まれた一発の銃弾。
二人にとって、銃口は逃れることはそう難しくはない。問題は、誰がだ。
ここに生きているのは三人だけ。誰だって打ち込んだ犯人はわかっている。
「どういうつもりですか?姉様。」
二人が見た先には、血の気の引いた、真っ青な顔でありながら、しっかりとこっちを見据え、銃を構えたアマネの姿があった。
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