第34話 全否定

背中にイズルたちの立ち去る気配を感じながら、レイは自らが開いた通路の前に立つ。

「イズルの言葉と、この気配…。こっちか。」

レイが通路に一歩踏み出すと、開いた扉は閉じ、暗闇と静寂に包まれた。厳密に言えば、最低限の灯は灯されているが、それは安心感を与えるには程遠い。

レイは、自分の足音を確かめるように鳴らしながら進んでいく。

レイは向かう先にいるであろう、姉妹のことだけを考えていた。

姉妹の抱く真実と闇、姫が自分に執着する理由、イズルたちの真実。

それは、自らの能力だけを信じ、生きてきたレイにとって耐えがたいことだった。

自らの真実すらも放り投げ、誰か希望となることも絶望となることもすべて拒んで刹那的に生きてきたレイにとって、それは自分の否定と等しいことだ。

それでも、耐えがたい衝動、本能とも言えるようなものにレイは突き動かされ前へ進んでいた。

なぜ、姉妹のもとに進んでいるのかレイ自身にもわかっていはいない。

ただ、アマネの表情に導かれるように、イズルの言葉に背中を押されるように。レイは目的を達成しているのに、他人のために前に進んでいる。

レイの目的は、”自分と同じ存在を生み出させない”

その目的は”姫”を倒すことにつながっている。そう言い訳をして。

「…ここか。」

色濃く気配を発する場所を見つけたレイは同じように扉を開こうとする。

(だけどなんか…嗅ぎなれた…血の匂いがする?)

レイは扉にためらいを持つ。

(それに…。ここはオレの記憶が間違っていなければ王室だ。なんでそこに…?)

レイはいくつも頭に降りかかる疑問を考えても仕方がないと振り払う。

「別にオレは王に敬意を抱いてるわけじゃねえしな…。」

レイは腕を軽く切って、うっすら血をにじませ、扉を開く。

そこにあったのは、レイにとってはそう驚くべき光景ではなかったが、一大事が起きていた。

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