第31話 哀しき鏡像
愛に狂ったシズルは、愛を知らぬレイに無言で襲い掛かる。
レイもそれでやられるタマではない。例の剣を抜き、対応する。
「ずいぶんと荒れてるねえ…。」
レイの剣は浅くはない傷をシズルに負わせる。そのことをわかっているはずなのに、シズルはよける様子を見せない。
「そうか。忘れてたよ…。お前、”超回復”だったな。」
シズルの傷は、よけきれなかったレイより、ずっと深かったのに、レイと同じように、いや、それ以上に簡単に治癒した。
「そのせいで、嫌な夢をいくつも見た…。なくしていられたはずの悪夢をね。二度も死に損なったせいで。」
イズルに二人とも視線をやる。イズルにとって二人は違うベクトルで大切な人であり、二人が剣を向けあう姿は想像できても、それを目の当たりにした衝撃はとてつもないものだった。
「その悪夢の末に…。イズルとともにいることを望んだのか。」
「そういう理屈じゃない…。ただ、私のそばには彼がいなくてはならないし、彼のそばには私がいなくてはならないわ。」
本人の言う通り理屈ではならない感情を振りかざすシズル。
その間も、二人の破壊は止まらない。二つの哀しい生き物は、ただ前に進むためだけに愛を知らぬ二人は、自らの過去のある場所を破壊し続ける。
傷を治すのには体力を消耗する。回復に特化したシズルも、レイも。二人の無尽蔵な体力でも、あまりに高次元の戦いは二人を確実に削っていた。
この場にいるすべての人物が高い能力を持ちながらも、二人に介入することはできず、ただ茫然と傍観することしか許されなかった。
静かに、ただ相手を削るように自分を削る二人を。
しかし、自らの真実を見失いながらも”愛”そのものである彼がそれを放っておけるはずはなかった。
「…ロミには、かわりに謝っておいてくれよ。」
「…イズル!?」
そう言って自らを支えていた腕をそっとほどいて、一歩踏み出す。
「シズル…。おいで。」
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