第29話 偽物

ケイたちが言った通り、驚くほどに人はいなかった。もともとこの王宮は”姫”の意識で守られている場所であり、警備はほとんど存在しない。ましてや曲がりなりにも全員正式な手段で入ってきている以上、警備が発生する理由はない。

「ここは変わらない…。」

拍子抜けするほど簡単に、一滴の血も流さず、彼らにとって呪いの地であった地下にたどり着く。

白く、広大で管理された実験場。彼らが唯一知っていた世界だった。

「データは…。」

「あれだろ。」

レイはすぐに悟った。幼いころ、ここにいたころに何度もつながれた機械。それが目の前にあるのだ。

「違う。」

イクトは耳に手を当てて、がそれを破壊しようとしたレイに声をかける。

「その機械には何もデータがないそうだ…。」

「ロミ、姫のシステムまでジャックできるのか…。」

さっきから気付いてはいたが、ロミには驚かされる。

「と、いうことは…。」

「それは、データを植え付けた脳から、見るための機械。すべてのデータは…。あなたたちの脳に埋まってるわ。だからそれを壊しても無駄よ。時間稼ぎにはなるけれど、それは今までと同じ。」

その声は、ここにいるはずのない娘の声だった。

「なんで、お前が…?第二院のご令嬢様よ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る