第28話 かつての場所

そしてここに一つ誤算とも言えない誤算があった。

レイ自身の異様なまでの美貌である。

それは女の格好であろうと、仮面で顔を覆おうと、隠しきれるものではなかった。それほどまでに、レイの美貌が本物だった。

男どもに囲まれ、それでもいつものように邪険にもできず、レイの苛立ちが最高潮に達する寸前にイズルから合図が出る。レイは薄く笑って茶番を始める。

「お兄様、リコは少し酔ってしまったようです。目の前がくらくらしますわ。」

ベタもいいところの演技をしながら、イズルにもたれかかる。あまりの色気に目の前の男どもは唾をのむ。

「大丈夫かい。長旅だったからね、疲れたんだろう。…少し休む場所をお借りしてもいいですか?」

そのベタな演技に乗っかりながら、”兄”として、妹を邪な目で見る男を牽制する。そもそも名を呼びあう時点で、マスカレードという前提は崩壊している。

「ご案内いたします。」

メイドに扮したティアが案内に現れる。一つの部屋に誘われ、二人は変装を解く。

「なんであんな冴えない男どもに囲まれなきゃなんねーんだ。」

ティアがレイに投げつけた上着を羽織り、もともと仕込んでいたいつもの靴を露出する。ウィッグをとり、銀髪をさらけ出す。

「レイは僕と違って派手だからね。」

たいしてイズルの着替えを手伝うティア。別にレイは手伝ってほしかったわけではないが、悠然と存在するこの何とも言えない何かにため息をつく。

扉が開いて、ケイが顔を出す。

「待たせた分だけ、裏にいた使用人は帰したから好きなように動けるよ。どうせ会場にいるのは出てこないから。」

後ろからイクトが現れる。

「会場は眠らせて、鍵をかけたよ。どうやらロミが見てるみたいだからね。うまくやってくれるだろう。」

上にあるカメラを見ながら呟く。

「死角は無い、ってやつか。なら待たせたことは許してやる。」

少し苛立ちがとれたのか不遜な態度にレイは戻る。踵を鳴らすレイを見守りながら呟く

「それで…地下か。あまり行きたくはない場所だけれど…。」

それは全員にとって同じ意見ではある。彼らが生み出され、抜け出した場所だ。

「それでも行く。」

イズルはレイに優しく微笑んで、

「知ってるよ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る