第26話 風格

「…ロミ?」

おそるおそるエトは自らの息子に問いかける。

「僕を理由にしないでください。過去へ想いを残した人なんておいていかれても迷惑です…。僕は一人じゃない。僕にだって仲間がいる。…王宮から離れた地だからこその。」

ロミはこの家を囲む気配に語り掛ける。

「あなたたちとは違っても、僕は僕でちゃんと生きていく術を得ています…。僕はあなたたちの背中を見て育ったのだから。生きる方法くらいいくらでも。父さん母さん。ルカにケイにティア。それに知らなかったはずの人たち。僕はその歴史に育てられて、この年まで育ったのだから。」

凛としたロミの様子。

「やはり、君は強い子だね…。」

ロミは今度はイズルの眼差しに同じ強さで見つめ返す。

「僕が残る理由になるというのならば、僕はここで潔く死にましょう。ですが、僕は…。」

そこでロミは呼吸を置く。

「あなたたちの戻る理由に、生きる理由になります。僕はここで待っています。僕を一人にしたくないのなら、生きてここに戻ってきてください。」

「だが、罪人になるかもしれないんだぞ?」

「罪の記録なんて僕が消して見せます。」

自信と若さにあふれたロミの言葉。それはひどく甘く、若い言葉だった。

「どちらでもいいから、早く決めろ。察するにほかのやつらも戻ってきたようだ。…それはつまり始まりの合図だろう?」

他人の感傷などというものにこれっぽっちも興味のないレイは、先をせかす。どうやら珍しく多少焦れているようだ。

「父さん、母さん。行きたいのでしょう?イズルさんとともに。」

二人の沈黙。それはすなわち肯定だ。二人にとってイズルとともにあることは、三大欲求と等しい。

「待っています。いえ、僕も手伝います。過去を振り切ってほしい、とは言いません。ですが、きっとこれが終われば…。」

ロミは言葉を途中で途切れさせた。何を言いたかったのか自分でもわからなくなってしまったのだろう。しかし、その本意は親であることがなせる技でか、二人には伝わったようで、3人はひしひしと抱き合っていた。

「どうやら、僕はロミを甘く見ていたようだね。…ルカ、ケイ、ティア。入っておいで。ロミの友達たちも。」

その言葉に誘われたようにドアが開く。

3人と、人の塊が入ってくる。

「久しぶり、イズル。」

「ばれてたか。」

「イズルにばれないわけもないと思ったけどね。」

「久しぶりだね。ルカ、ケイ、ティア。…ロミの友人たち。ロミをよろしくね。」

イズルがロミの友人である少年少女に声をかけると勝気な様子で

「いわれずとも。」

「もし、なにかあったら…。国境の端まで行って、ミツルとイルマという人に頼るといい。僕の名を出せば、助けてくれるはずだ。」

代表した少女にイズルは一つ微笑んで、ケイのほうを向く。

「ルートはあるのかい?」

「ルートも何も、表から。一緒に行くと怪しまれるから、僕たちは裏から入る。…中に仕えている人がいるからね。入るのは難しくない。イズルとレイは表から堂々と。中は僕たちが誘うよ。」

「場所は把握しているのか?」

焦れたレイが質問を投げる。ティアは着替えながら

「私たちのいたころから変わっていない…地下だ。君も知っているだろう?コロシアムまで続く広大なね。王の場所に行きたいなら上だけど、どうする?」

レイは間をおかず。

「王には興味がない。会いたいわけでもない。…今、被験体っているのか?」

「いない。なんせ事件を起こしたのがいるから、さすがに凍結中だ。」

ルカの皮肉にその張本人は無視を決め込む。

エトとイクトも着替え終わったことを確認してイズルが声を発する。

「ここにあいつがいないのが唯一の心残りだが…。それでも自由のために。次の世代のために。二度と悲劇を起こさないために…。」

「イズル。御託はいい。お前らはそれで動いたかもしれないが、オレはやりたいからやる。オレと同じ存在をもう一つなどいらない。」

イズルは言葉を遮られても気を悪くした様子はなく、悠然と笑ってる。どちらかといえば、それ以外のメンバーが青筋を立てそうになっていた。

「まあ、何でもいい。とにかく、ロミのもとに死なずに戻る。それが約束。何かあったら自らの身を一番にしてほしい。」

イズルの持つ、謎の風格はレイすらも黙らせる。それがイズルの力だ。

「向かおう。それぞれの理由のために。解放のために。」

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