第25話 家族

「イズル!」

ロミが告げた時間より早く、少しずつイズルを愛する者たちは戻り始めた。恐るべきものだと、レイは小さく笑った。

「久しぶりだね、エト。」

そう言ってイズルが微笑むと、エトは力を抜いて

「本当に…。」

「子を為したんだね。本当にめでたい。命の継承ほど、喜ばしいものはないよ。」

「ありがとう…。イクトも喜ぶ。」

「あと何人…。あと何人がこの家に帰ってくる。」

レイが焦れたように、二人の再会を遮って質問を投げる。

「そう多くはないよ。レイ。」

イズルは悠然と告げる。

「そんなに待たせやしない…。ああ、ほらまた一人。」

イズルが告げた通り、刹那、一人の青年が戻ってきた。

「久しぶりだね、イクト。」

「生涯、あなたと向き合うことはもうないと思っていたよ、イズル。」

そう言って感動を分かち合う二人にレイのイライラは募っていく。

「イズル。」

もの言いたげな瞳でレイはイズルを見つめる。イズルはレイをにこりと見つめて

「エト。イクト。」

どこか王者の風格にも似た威厳を揺蕩わせながらイズルは二人に告げる。

「君たちは、ここに残って、もう僕たちとは関係のない、という顔をしていてくれるか。」

「え…。」

イズルに命を捧げることを誓っていた二人だ。それは寂しい宣告だった。

「ロミという存在がいる以上、君たち二人を、死線に連れて行くのは憚られる…。僕は誰も死なせたくはないが、誰も死なないとは限らないんだ。たとえ、生きて戻ったとしても罪人だ。」

そうイズルに告げられてしまっては、2人の心は二つの愛のはざまで揺れる。

「イズルさん。」

その沈黙を破ったのは少年の怒りの声だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る