第24話 希望の光
「ここは、あなたたちの家?ロミ。」
レイが尋ねる。
「ええ、父と母が住処に定めた場所です。できるだけ人の少ない、王宮から離れた場所を求めたそうです。」
イズルは少しの躊躇を見せる。
「ロミ…。君は何か能力を継いだのかい?」
ロミは小さく笑って
「僕は、凡人ですよ。できることは少ない。できることは…イズルさん、よろしければ、王都に入った時の証明を貸していただけますか?」
「うん?」
この家には似つかわしくない機械と向かい合ったロミは、招待状をスキャンする。
「こうして、データをいじることくらいですね。」
レイは素になって笑いだす。
「王都のサーバーに侵入できるとは、大したものだ。その機械は?」
「どこからか、みんなが手に入れてきました。なんせ、権利を持たない身。そして僕はそこから生まれた、たった一人。こういうことができるだけで格段に生きやすくなりますから。」
どうやらレイはロミが気に入ったらしい、機嫌がよさそうだとイズルは笑った。
「両親から話はよく聞いています。イズルさん。レイさんの話は、こちらでも有名ですし。」
「子がいても、イズルへの愛は変わらずかよ…。」
レイはもう素を隠すつもりもないようだ。堂々と呆れている。
「言っていましたよ。たとえ子を愛そうと、親を愛そうと、共に生きる人を愛そうと。神の子を愛することはまた別の話だ、と。」
「神扱いか。すごい話だ。」
他人事のようだが、無理もない。イズルは、元の体のほとんどの記憶を失っている。イズル以外は、イズルを神のように愛していた記憶だけを持っている。本当の記憶を持っている人は一人だけいるが、そのことはまだ、その本人以外知る由もない。
「今日、みな警護に出ていますが…。夕刻には任を解かれるはずです。なんせ、高貴な方々は、両親のような者を華やかな場所に近づけるのを極端に嫌がりますからね。それに王宮は絶対安全だと思ってる方々ですから。雑魚は何匹いても雑魚だというのに。」
ロミの言葉には理不尽に対する怒りと、諦めるしかない自分への嘲りが含まれていた。
「強い子だね。」
イズルはいつも通りの慈愛の瞳でロミを見つめる。ロミはその目をまっすぐ受け止めていたが、耐えられなかったのか、目をそらして。
「ですから、もうじき戻ります。それまでご休息ください。必要なものがあるなら、できる限り準備いたします。」
「別に、オレは一人で行ってもいいのだけれど。」
レイが少しだけいやがらせのような言葉を吐くと、二人は笑って
「本当にそう思っているなら、最初からそうするだろう?」
「協力を得るつもりだから、イズルさんを連れてここに来たんでしょう?」
レイはふいっと二人から目をそらす。
「ロミ。なにか武器はないか。ないならないで構わないが。」
ロミは少し考えてから
「椅子からは降りられるんです?」
「ああ。場合によっちゃ、よく似ているらしい王子サマの姿を借りるつもりだ。だが、とりあえずはこの格好で考えてくれ。椅子はイズルに代わる。検問の場所に、王宮に来るような身分のやつはいないはずだから、ばれやしない。オレらが名を借りた二人はさほど身分の高い者でもないし。」
レイは前に、王子の影武者を依頼されたことのあることを忘れてはいなかった。
「銃と、剣。どちらがお望みで?」
レイは少し考え込んでから
「イズルに銃を渡してくれ。オレは剣をもらう。」
「了解しました。」
そう言って、ロミは背を向けて消えていく。
「僕は武器などいらないよ?」
イズルは断りを述べるが、レイはにこりともせずに
「お前に武器を持たせてはいけないのだろう。だが、最低限は持たせるぞ。オレはお前を守って戦わない。だが、お前は死んではいけないのだろう?彼らはお前のためなら盾となって死ぬだろう。お前はそれを望むのか?」
素直でない言葉だが、要するに、死んでほしくない。そのためなら人を殺せ。そうレイはイズルに言っているのだ。
「…わかったよ、レイ。その代わり、次に僕が願ったことは叶えてもらうからね。」
タイミングよく、ロミが戻ってくる。
「こちらでどうです?」
ロミが持ってきたのは、筒のようなものと、宝物にしか見えない剣だった。
「すごいな…。」
レイは剣を鞘から抜きながら呟く。
「見た目こそ二つともちゃっちいですが、本物です。そっちの筒は一応銃で、殺傷能力こそ高くはありませんが、身を守ることはできるでしょう。剣はちゃんと研いでありますから細剣としての十分な能力があります。多少重いですが、レイさんならおそらく大丈夫でしょう。」
「ああ。問題ない。」
「ロミ、こんなもの持ち出して大丈夫か?」
ロミは笑って
「イズルさんとレイさんの頼みはできるだけ叶えるよう厳命されていますから。」
「…そうか。ありがとう。」
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