第21話 加護

例のごとく病人として労わっているように見せかけて、欠片も容赦はない。それを理解していたのだろう。二人の居所に来客が現れた。

「ちーっす。レイ、イズル。見違えたな。特にレイ。」

「イルマ。」

「レイのことだからイズルを労わることはないだろうと思ってな。迎えに来たんだよ。イズル、良かったらこれ受け取って。」

イズルは笑って受け取る。

「ありがとうイルマ。これは?」

「ノイズキャンセリング。ミツルから。耳に突っ込んでおけば、一番ストレスなく能力を発揮できるはずだって。」

レイは一つため息をついて

「本当、イズルはなぜそこまで愛されてるんだ…?フェロモンでも出てるのか。…ミツルは?」

「外にいるよ。一度うちまで行って乗り換えるから。流石にあれはこの辺じゃ目立ちすぎるからね。」

「…そうか。どのみち通り道だ。早くいくぞ。」

「だからレイ。その姿でそのしゃべりはまずいって。」

「この町のやつはみんな知ってるし、裏切る頭のあるやつもいねえからな。何より、イズルを危険にさらそうとするやつはいない。」

イルマは薄く笑って

「頭がないからこそ。イズルを守りたいからこそ。善意ほど怖いものはないよ。」

「だったらなおさら平気だろう。この町に善意なんてものは存在しない。」

「この町の特異点がそこにいるんだけれどね。」

ちらりとイズルのほうに視線をやる。

「できたとしても、問題はない。」

「それは確かね。…でも、レイもイズルもスイッチ入れて。」

「僕はすでに入っているよ。…レイは問題ないし、今からオンだとこっちの調子が狂う。」

イズルは軽く返事をして苦笑する。

「大丈夫。レイは軽くできるから。」

「ああ。心配するな。」

イルマは肩を竦めて

「イズルがそういうなら…。お別れは済ませたの?」

レイはにこりとも笑わず

「オレは別れを悲しむものもない。」

「僕は昨夜のうちに。」

「イズルに関しては哀しむものが多そうね。」

イズルは軽く微笑んで

「だからお前とミツルにここをゆだねたんだ。」

イルマはまたやれやれといった表情をして

「私とミツルに何を背負わせるんだか。…帰ってきてよ。イズル。」

イルマの泣き言は聞こえないふりでレイとイズルは顔を見合わせる。

「そろそろ行くぞ。イルマ。チビ達が夢を見る前に。」

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