第20話 偽り
決行の朝、衣装という戦闘服にレイとイズルは身を包んだ。今日ばかりはイズルのそばに子供たちはいない。
「ガキどもに別れは済ませたのか?」
「昨夜のうちにな。この町じゃ急に誰かがいなくなるなんて日常茶飯事。あいつらもさほど気にはしないだろう。事実お前もふらりといなくなってふらりと帰ってくる。」
「お前は別だとは思うが…。」
イズルは少し嫌そうに
「それより、レイ。その言葉遣いどうにかしろ。あまりしゃべらせるつもりはないが、さすがにそれはまずい。」
レイは不敵に笑って
「そんなことおっしゃらないで?お兄様。お兄様はここで大切にされていらっしゃるんだから。」
良いとこのお嬢様のようなしゃべり方と声を出すレイ。姉妹が名を借りた縁の切れた従兄妹という設定は守られそうだ。
「…心配は無用か。」
イズルは首を振りながら笑う。
「お兄様のほうが、リコは心配ですわ…。」
「大丈夫だよ、リコ。」
彼らを知っている者でも、容易には二人をレイとイズルだと見極めることはできないだろう。それほどにまで二人の擬態は完璧だった。
哀しいほどに二人は今まで自分というものを失って生きざるを得なかったのだ。彼らにとって”イズル”も”レイ”も与えられたものであるだけなのだ。
ましてや、大切なものを切り捨てて生きてきたレイは自分の存在を肯定するものを持たない。そこがイズルとレイの違いだった。
「途中まではお兄様が椅子を使われたほうがいいわ。」
「大丈夫だよ?」
「お兄様が途中で倒れたら元も子もないですもの…。イルマのところに行くまでは、お兄様の体調が第一ですわ。」
レイはいいとこの子女であるかのように柔らかい微笑みを浮かべてはいるが、言っていることはいつもと大差がない。要するに足を引っ張るな、と言っているのだ。それを理解したイズルは苦笑いを浮かべながら
「まあ、甘えておくとしようか…。」
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