第16話 予感

レイの去ったあと、イズルは、小さく悩んでいた。

「わからないことが多すぎる…。レイなら大抵のことは軽々乗り越えてしまうのはわかっているが…。」

イズルの聞こえすぎる耳に入ってくる情報は、イズルとレイの過去。ひいてはこの国の歴史にかかわる情報も少なくない。それなのに、イズルが必死に耳を澄ましても、手に入らない情報が存在する。歴史というものは言うならば、一つの物語であり、その語り手の恣意を理解することはイズルにはできないのだ。それを語る人たちはそれを嘘か真かわかっていないのだから。

そのヒントのために、イズルはレイに、一つの物語を渡したのだ。

「かつて存在したはずの天才”姫”…。それ以来この国では”姫”という称号は正式には用いられていない。」

レイがアムを姫と揶揄するのはそれをわかったうえでの、いやがらせだ。だからこそアムは抵抗した。

「ただ、姫の話は、あくまで伝説の域を出ない。彼女のは伝説の人物でありながら、死も語られていない。存在だけが語り継がれている。一説には王宮で狂って死んだといわれているが…。王宮にはかつての彼女の意志が多く反映されていると聞く。それが事実ならば、レイを受け入れるか…。」

かつての天才が作り出した、鳥籠。そこはどんな場所なのだろう。

事実この国の根幹は、その天才が作り出したといわれるシステムの上に成り立っているというのは過言ではない。ここに暮らす人も、そのシステムに拒まれたものは少なくはない。庇護を受けられなかった人達だ。

「関係する可能性があるのは…。シズルか。」

シズル。イズルたちの世代で、最後までイズルを守り通し、そして現在、イズルが唯一現在の動向を把握できていない人だ。

もともと恐ろしいほどにイズルを溺愛していた人であり、イズルに刃を向けることはないことは自明のことではあるが、一人だけ行方がしれないということが、イズルの頭に警鐘を鳴らしていた。

レイとシズルがもし、剣を交わすような事態になれば、下手をすれば国が滅びる。それだけの力を持った二人なのだ。そして死ぬまで止まらない。それは双方を大切に想い、大切な人たちのいる国を愛するイズルにとっては、一番避けたい事態だった。

「どこにいるんだろ、シズル…。会いたいな。」

王都を出てから、心に封じていた想いを初めて口にした。

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