第13話 覚悟

レイは時々イズルの元を気まぐれに訪れる。それは怒りをなだめるためにも、復讐心を燃やすためにも思えた。

レイはいつも一人だ。それはレイが、自らが惨劇を起こす素質があることを理解していたからだ。レイに今更殺人に対する禁忌はないが、それでも必要以上の殺人を好んでいるわけでもなかった。

そこにはレイ自身の出自が大いに関係していた。レイたちの暮らす町で本当の年も名前もわからない子供は少なくはない。しかし、レイは異様だった。

通常、院以上にしか発現するはずのない銀髪に整った顔、それに加え驚異的な身体能力を持ち、食事もほとんど必要としない。そして薬品類も効き目を持たない。大きな瞳をギラギラさせ、いつも飢えていた。そして、町に現れた約7年前から、現在までほとんど変わらない姿。それがレイだった。


先日レイが金を届けに来た日からさほど日数をおかず、イズルはレイを呼びだした。

「レイ。」

イズルはレイに手を伸ばす。

「寄るな触るな。」

にべもなく拒絶するレイの姿に微笑みが零れる。

「なんで笑う。」

怪訝そうに、不機嫌そうにレイは問い返す。

「ずいぶん人間らしくなったな。と思って。」

「それは皮肉か?」

「ただの感想だ。出逢った頃のお前は感情の死んだガキだったからな。」

レイはそっぽを向いて静かに言う。

「そりゃ、ずっとオレは殺し合いの中で生きてきたんだ。いくら死ににくい体とはいえど、そんな奴らの集団の中じゃ、殺らなきゃ殺られる。そんな中で人間でいたって気が狂うだけだ。…もともと感情は死んでる。残念ながら誰を殺そうと罪悪感はわかない。…あんたにゃわからんだろうがな。」

少しばかりイズルはレイの地雷を踏んだ。レイの兵器としての過去は、残酷で、凄惨だ。一人で国一つ潰すとも言われた最強の兵器、それがレイだ。

「悪いな。レイ。」

「別に。特化世代の悪口を言いたいわけではないからな。」

イズルたちの世代は、特化した能力を持つものたちが作られた。イズルは、レイと同じで正反対な、生き残りだ。

「お前を守るために、全員がすべてを懸けた。お前以外の全員が忠誠を誓うことを条件に、お前は自由を手に入れた。言ってしまえば体の良い人質だ。お前が死ぬまで続く契約だ。確かにイズルは一番早く死ぬだろう。しかし、それでも短い時間ではない。よくのうのうと生きてられるな。」

イズルは微動だにしない。

「生きていてくれと願われた、その暖かさのために。それに、僕が今死んだところで彼らは解放されない。だから、僕は彼らに害が及ばないギリギリで従順にお前に協力してる。彼らを解放するために」

レイはイズルが過去を語りはじめると、気ままにあくびをし始める。イズルとまっすぐ向かい合うと、レイですら時折飲まれそうになる。

「オレから始めといてなんだが、それ以上はオレの気分が悪くなりそうだ。…オレと同じようなもんなはずなのに、オレと違う末路をたどるあんたの人生はな。…ここに呼んだのは、昔話をするためじゃないんだろ。要件は何だ。」

せかすレイにイズルは呆れたように首を振って

「そうせかすな。その昔話の彼らが関係しない話ではないんだ。」

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