第12話 希望の象徴

イズルという存在は病に伏してなお、希望なのだ。だから幼子たちは、この町ではありえないほどに身を挺しても、この少年を愛する。否、愛さずにはいられないのだ。

「イズル。お前は生きるべきなんだろうな。だが、オレはお前に死んでもらうぞ。…でも、それはお前の意志でもあるはずだ。」

レイは強い目でイズルに訴えかける。そこには、レイ自身も気づくことはないほど微かに悲痛な色が宿っていた。

「…ああ、そうだな。」

その色に気づいてしまったイズルにはそれしか言いようがなかった。レイはイズルの答えを聞くと、長い髪を隠すフードをかぶる。

「入っておいで。」

イズルが小さくベルを鳴らすと、幼子たちが彼の周りに戻ってくる。イズルの周りは、幼子やら、猫やらが集まりやすい。

「アル。三段目に入っている本をレイに渡してくれるかい?」

アルと呼ばれた少女は、言われた通りにレイに本を渡す。

「なんだ?」

「情操教育だ。字は読めるだろう?院のさもすればもっと上と渡り合うなら、物事は多く知ってるに越したことはない。」

レイは複雑そうな顔をしつつ、受け取り、そのまま出ていく。


「イズル、レイは…。」

イズルの周りを囲う、幼子たちはレイを見送ってからイズルに話しかける。

「君たちは心配しなくていいんだよ。それは僕の仕事だから。君たちは一日も早く、自分たちが生きる方法を見つければいい。チイ。そこに袋があるだろう。それがレイの届け物さ。」

先ほどレイがおいていった袋を指し示す。

「毎度毎度レイは…。」

子供たちの中では割と年長なチイは呆れたようにその袋の中身を確認する。

「あの子は感情がないように作られたのに、僕がここで教えてしまったみたいだからね。でも、レイはそれに気づいていない。苦しむことになるかもしれないね。」

学のない幼子たちはイズルの発することの半分も理解できていないだろう。それでも、イズルの話を聞き洩らさまいと必死に耳を傾ける。

「それでも、レイはもう進むことしかできないんだよ。だからお前たちは僕とレイが壊したところに道を作ればいいんだ。」

「イズルはいなくなってしまうの?」

哀し気に問う幼子に

「さあね?でも遅かれ早かれ君たちの前から姿を消すのは確かだ。それでも君たちは生きなければならない。そのために死ねるのなら本望かな。」

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