第11話 闇の中

「そうだ、レイ。そこの引き出しを開けてくれ。」

イズルは、思い出したようにレイに声をかける。レイは言われた通りに棚を開ける。

「封筒が入ってるぞ。」

レイがひっくり返す間もなく、イズルが答える。

「お前宛。」

「イズル、お前王都から手紙受け取ってんのかよ…。」

イズルは呆れたように

「レイ、僕がこうやって今生きているのは、こうしてそう遠くない未来に死ぬ運命にある上に、従順だからだ。だから、僕はお前に手紙を渡せと言われれば渡す。お前みたいに、すべてを壊すことは出来なかった。それともあれは慈悲か?」

レイはイズルの言葉を聞き流しながら渋々と言った様子で手紙に目を通し、破り捨てた。

「何だって?」

「…影武者。オレと顔がよく似て、病弱な王子サマの。」

「お前ほどの美貌を持つやつがいるのか?」

揶揄うようにイズルは言う。

「さあな?オレと同じ血が入ってんじゃねえの?オレを作るときにも王族の血が使われてんだろ?」

「おそらくな。銀髪はある程度地位の高いやつらにしか発現しない…。その様子だとやる気はなしか。」

「誰がやるか。病弱なら病弱らしくおとなしくしておけばいいんだ。オレを使いたいならおそらく色仕掛けか暗殺か、もっと大きな殺戮をさせたいか。…いくら金を積まれても割に合わないね。まだコロシアムにいたほうがましだ。」

「だが、王都もはいそうですか。と引くわけもないだろう。どうする気だ?」

レイはあっけらかんと

「別になにも?今までもそうして来たし。オレはオレのやりたいことで精一杯さ。せっかくそこに近づく手がかりが手に入ったからな。」

「だったらその手紙を破り捨てないのも一つの手だったんじゃねえか?」

「それとこれは別だ…。イズル、お前にも手伝ってもらうぞ。お前もオレの駒の一つとして。」

イズルは苦笑して

「お前がこの町に来た時、命を助けてやったのは僕だっていうのに…。」

「お前も同じ立場だっただけだろ。多分お前がいなくてもオレは死ねなかった。」

「だろうな。お前も僕も哀しいことに簡単には死ねない。僕はおそらくお前よりは楽に死ねるが。でも、レイ。…お前が本懐を遂げようとするときは、僕も一緒に行かせてくれよ。」

レイは少し睨むように

「お前がここのことを捨てられるのか?」

イズルは少し目を伏せながら

「厳しいだろうな。でもお前のためなら捨ててもここは許してくれる気がするんだ。」

「勝手な願望だろ。それともお前はまた、人様の愛に甘えて生きるのか。」

レイは吐き捨てるように言う。

「そうかもな。でも、僕はどのみちここに生きているやつらを残して死ぬ。それが早いか遅いか。ただそれだけの話だ。」

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