第10話 慈愛の王子

王都を去ったレイは、自分の暮らす土地の、森の果てにある小さな家に向かっていた。

「お帰り、レイ。」

そこにいた少年は、周りについていた幼子たちに声をかけて外へ送り出した。

「イズル。」

イズルと呼ばれた少年は眠っていた埃っぽいベットから起き上がってレイのほほをなでる。

「けがはないようだね…。君が戻ってきた音が聞こえたからね。そろそろこちらに来ると思っていたのだよ。」

レイは不機嫌そうに手を振り払って

「イズル。オレがこんなとこにまで傷を持って帰ってこないことをわかってて言っているんだろう?」

イズルは気に留めた様子もなく微笑んで

「たとえお前が実験体でケガはすぐ治るわ、痛覚は崩壊してるわ、薬は効かないわ、身体能力が異常であろうが、心配は心配なんだよ。兄貴分としてな。」

レイは諦めたようにため息をついて

「オレより先代の実験台が言うんじゃねえよ。愛され過ぎて、他者を壊す悪魔が。」

イズルは自嘲的に

「だから、心配してるんだろ。僕たちの代のせいで、お前が非人道的な存在になっちまった。異様に美しい面相に、高すぎる身体能力、生殖能力どころか、性別すら崩壊。良心も取り払われてる。挙句の果てに、大事件を起こして外に出てきたのに、僕のために王都に命を狙われながら戦いに行ってくれる。」

微笑むイズルに、レイは目を吊り上げる。

「…イズル。オレはお前のために動いた覚えはない。…次に僕のためとか言ったら、殺すぞ。」

レイは殺気をイズルに容赦なくぶつける。イズルは笑いながら肩をすくめて

「レイに殺されるならそれはそれで本望だけどな…。僕の命を維持するには金がかかるだろう?それでチビたちが何日生きれることか。…君に殺されて、糧となれるのなら願ったり叶ったりだよ。」

レイは一つため息をつく。

「おそらくかなり長い時間だろうな…。オレはこの間、この町じゃ大人になったやつから死んでいくと言ったが…。お前は例外中の例外のようだな。あのガキどもが犠牲を払ってでもイズルを生かそうとしやがる。…これあいつらに渡しておけよ。」

袋をレイは投げ渡す。

「…金だな。しかもそれなりの。」

「チビ達がそれでお前を維持するか、自分らに使うか。そもそもお前がそれをあいつらに渡すのか。見ものだな。」

「やっぱお前優しいな。」

「誰が。あいつらに頼まれたんだ。お前に死なれても困るんだ。」

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