第9話 探り合い

しばらく誰も動けなかった。

しかし、レイが去ったことで緊張が解け、大きな興奮に包まれた熱狂がその場を支配した。

「お姉様…。」

「あれが、血塗れの天使レイ。」

「狂ってる…。」

彼女はいやいやをするように首を振る。

「当たり前のようにね。」


「レイ。今宵は私の邸宅にいらっしゃるかしら?」

「それともうちにいかが?」

「どちらに?」

あまり社交界に出ないアムは知らなかったが、名だたる令嬢たちがレイを招こうとしているのだ。

「レイはあの姿を持ってるからね…。王都にはいない姿を持つレイはものすごく魅力的なのよ。」

「レイ!俺んとこ来るか?」

「久しぶりに手合わせ願うよ。」

男どもも彼に声をかける。

「そして、それは男女問わずね。…アム、しばらく黙っていてね。」

レイはニコリと微笑む。その笑顔は美しくはあっても、なぜかアムの背筋を凍らせた。

「ありがたいお誘いです、紳士淑女の皆さま。ただ、私のような下賤なもの近寄るべきではございませんよ。」

レイは静かに、無関心な怒りを漂わせていた。しかし、それすらも妖艶な魅力を放っていた。

「レイ。」

アマネは意を決したように、張りつめた笑顔でレイに話しかける。

「これはこれは、二院のお嬢様。お久しゅうございますね。」

わざとらしく膝をついて姉の手を取る。二人は初対面ではないようだが、お互いにいい感情を持っているようには思えない。

「アムが世話になったようですね。礼をしたいのです。お招きに預かっていただけますか?」

レイは、笑顔を少し付け替えて、冷徹さを纏う。

「礼には及びませんよ。ただ、今後私があなた方の力を必要としたとき、手を貸していただければ、それで。」

「ただより高いものはないということを承知のうえでいってらっしゃるのね。」

「ええ、もちろん。」

とても可愛らしい笑顔で話しているが、お互いが腹に一物を持っていることを感じる。

「それでは。また参ります。淑女の皆さま、紳士の皆さま。次に会う日まで。」

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