第8話 血まみれの町

数多くの血に濡れた地に、圧倒的な存在感を放つ銀髪が現れ、空気が冷たくなるのを、観客席にいた人たちは感じた。異様な熱狂と興奮を。

カツンカツンと足音を鳴らし、悠然と戦場に武器も持たずにレイは降り立った。

レイは役者のような華を放っている。ただ無言で立つだけなのに、圧倒的であった。

「さあ、始めるかい?」

レイのよく通る声が開始の合図だった。この場に飲まれた罪人たちは、引き寄せられるようにレイに向かっていく。逃げ場はないように思えた。細身で中性的なレイは、ぱっと見勝負に勝てるようには思えない。

しかし、次の瞬間には勝負はついていた。

レイは華麗に地面を蹴り、空を舞うように動いた。レイが次に着地した時には、レイに向かっていった戦士の半数は倒れ伏していた。

運よく、レイの初撃を食らわなかった戦士たちも、レイがいつの間にか誰かから取っていた剣で、次の一撃で倒れ伏した。

レイに向かわなかった戦士たちは、圧倒的な力の差に膝をつき、客席の非難を受けながら自ら罪を重くすることを選んだ。

そこに一人立ち上がったのは、最初にアムが気づいた少女だった。

「愚かとしか言いようがない。なぜこんな場所で再び立ち会がる?なぜ生きようとする?」

人が少なくなったからだろう。レイの声がマイクで拾われている。本当に悪趣味だが、これも演出の一つなのだろう。レイは悠々と笑う。少女は答えない。否、圧倒されて答えられないのだろう。それがわかっているだろうに、なおもレイは言い募る。

「それが愛とやら?それとも義務?矜持?」

覚悟を決めた少女がレイに無言で剣を合わせる。

「まあ、そう焦るなよ…。こっちの質問中なんだから…っと。」

明らかに力加減をしたレイ。いたぶるように剣を振る。

「答える気はないのか…。残念だ。」

あまり気の長いほうではないのだろう。レイは一瞬にして彼女に馬乗りになって行動を封じる。

「オレは、お前がここで死ぬ理由が愛だろうと矜持だろうと義務だろうと知った話ではない…。だが、ここに来たということは人を殺し、殺される覚悟をしてきたということだ。それで自分の未来を奪い取るつもりだったんだから。だからオレに殺されても文句は言えねえな…。綺麗なオレに殺されることを喜んで…逝きやがれ。」

そう告げ、レイは彼女の体に剣を突き刺した。

一瞬にして動かなくなった彼女の体から剣を抜き、血を払い、剣を打ち捨てる。

どんなものでも平等に死に誘う天使。悪魔のように人を堕落させる余地すらなく、死の世界に連れて行ってしまう。

銀髪の美しい天使は、異名の通り返り血を浴びた血まみれの姿で可愛らしい笑顔を一瞬だけ浮かべる。

そして、その笑顔が幻覚であったかのようなもとの冷たい表情を浮かべて、戦場から去っていった。

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