第7話 運命の狭間

日が高く昇るころ、アムは姉に連れられて王都の中心に存在するコロシアムを訪れていた。

「お姉様。少し趣味が悪いのでは?」

アムは眉を顰め、姉に話しかける。姉のアマネは呆れたように

「最初に言ったでしょ。趣味のいいものじゃないって。本来なら私だってもう来たくなかったけど…。仕方がないじゃない。」

そう姉に言われてしまったらもう何もアムも言えなくなってしまう。

「二院のお嬢様、珍しいですね。」

他の観客から声がかかる。ここに若い娘がいることは珍しくはないが、あまり社交的な場所に顔を出さない二人は珍しい。

「少し用があったのでね…。」

少し嫌そうな顔をして、席に着く。他者と違う席を選んだ姉の意図が分からず、アムは少し戸惑う。

「初めてであっちは体に良くない…。」

姉の言葉が少なくなってきたことを察し、アムも黙らざるを得なくなる。

ほどなくして、中心の戦闘場に数々の戦士たちが参上する。流石にアムは黙っていられず。

「お姉様。こういう場所の趣旨は理解しているつもりです…。ですが、明らかに幼い子供がいませんか…?」

「アム、あんたはわかってない。そういうのも含めてここの趣旨よ。あんたも果ての町に行ったのならわかるでしょ?あの子の素性は、罪人の子…。罪の真偽はともかくとして、ここに親と留まるためにあそこに希望なく参戦してる。果ての町にいる子と違う道を選んだ子。」

少し悲し気にアムに答える。

「果ての町の住人は、もとは罪人の家族…。あそこに行くなら、死ぬってこと?」

「そういうことよ。あそこに参戦するっていうことは死と同義。ここは牢獄でもある。途中棄権は罪の上塗りだからね。生きたまま、ここの外に出ていくものは、毎度一人しかいない。…それに今日は不幸よ。ここに出てくることを認められたくらいだからある程度腕は立つんでしょうけど…。」

姉は関係のない、という顔をしながらもとても心配そうな顔をする。常に冷静であろうとしながらもなり切れない、優しすぎる姉をアムは愛していた。

「どういうこと?」

「ただの子供をいたぶるだけなら誰にでもできるからね。こんな血みどろな場所に出るのもそこそこ厳しい審査が必要なのよ。1に腕、2に容姿、3に性格。…こんなことあんたの耳には入れたくなかったけどね…。」

アマネは顔を思いっきりしかめながら、聞こえるか聞こえないかの声に怒りをにじませてささやく。

「お姉様。私ももう17です。」

アムが少し強がるが、アマネは慈愛と自分の情けなさを嫌悪する複雑な表情を浮かべる。

「それでもあんたはいつまでもちっちゃいのよ。生まれる前から知ってるんだから…。でも黙ってると今回みたいに外に飛び出してしまうことが分かったからね。」

アマネの𠮟責に、アムは悪びれた様子もなく口先で謝罪を述べる。

「ごめんなさい。お姉様。」

アムの言葉に一つため息をついて、

「今日は血塗れの天使が来るって噂になっていたのよ。」

「血まみれの天使って…。」

「お察しの通り、レイよ。」

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