第5話 国の境目

二人は夜を徹して道を進む、王都の端にたどり着く。

「姫さん。もう着くぜ。」

夜通しで走り続けた疲れが出たのか、さすがに疲労のにじんだ顔でアムは頷く。

「馬は放て。勝手に帰る。」

その言葉通り、手綱を離された2頭の馬は迷いなく同じ方向に走り去っていく。

「おい、そこにいるのは誰だ!」

衛兵の怒鳴り声が彼らに降りかかる。アムは頭に巻いていたバンダナを取ってピアスを見せる。

「第二院次女アム様ですね。この時間に外にいらっしゃることは関心いたしませんが。」

アムの正体が分かった衛兵は少し卑屈そうにする。

「んで、そちらの方は?」

たいしてまだ正体のわからないレイに対しては高圧的に接する。レイはため息をつきながらかぶっていたフードをはずし、耳飾りを見せる。

「これでいいか?」

その瞬間、衛兵たちはそろって武器をレイに向ける。

「その銀髪に、その耳飾りにその顔…。」

「レイだが。何か。お前らに武器を向けられる覚えはない。」

レイは言うが早いか、一閃。華麗に舞うように全員の手から武器を打ち落とす。

「おやめなさい。その方は私をここまで連れてきた方。丁重に扱いなさい。」

そのアムの言葉に衛兵たちは渋々武器を収める。レイも殺気を収め、口笛を鳴らす。

「流石姫さん。あそこじゃあんたはなんの武器にもならないが、ここじゃ大きな力を持つんだな。」

「お前、なんて失礼な口を…。」

衛兵が顔面を蒼白にしながら、レイをにらみつける。レイは心底軽蔑したように

「お前らと違って仕えてる相手はいないんでな。敬意を払う必要はない。そしてお前ら相手に無駄な体力を消費する気もない。これ以上オレに構うなら…。殺す。」

「お前、なんて…。」

「忠告はした。」

それは一瞬だった。一瞬の怒りを纏い、空を舞うように華麗に。レイの動きが止まった時には、衛兵たちは、誰一人動かなくなっていた。

アムはその事実に気づき、震えが止まらなかった。

「なぜ、殺したの…?」

「うるさかったから。良識なんてものはオレにはない。こうなるのが面倒だから表からなんて入らないんだ。大体オレが王都に入ったことはあまり知られたくねーんだよ。」

レイは銀髪にはねた返り血を拭うこともせずに、再びフードをかぶる。

「なぜ?」

レイは珍しく驚いたような顔をする。

「お前、じゃじゃ馬のくせに純粋というか、箱庭育ちというか…。オレのあの姿見てもわからないとは…。」

「姉様に聞けというのね。わかったわ。」

「ぜひ、そうしてくれ。さすがにそこまで姫さんに付き合う気はない…。だが、姫さん、忘れるなよ。あんたをここまで連れ帰ったのが、オレであることを。オレは必ずあんたの運命に取り立てに行く。」

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